第60話「夕食とサークル代表」

 大満足のお風呂を満喫した僕たちは、女性陣と合流して、夕飯を食べるためにホテルのレストランへと行った。


「ねえねえ、男性陣もお風呂入って来たみたいだねー!」

「ああ、素晴らしいお風呂だったよ! 女性陣も入って来たのかい?」

「はい、心も身体もあたたまって、日頃の疲れがとれた感じがします!」


 先輩方が楽しそうだ。たまにはこういう贅沢もいいのだろうなと思った。

 レストランではテーブルの関係上、四人ずつに分かれることになった。川倉先輩、慶太先輩、僕、橋爪さんのグループと、成瀬先輩、拓海、エレノアさん、天野くんのグループに分かれて、席に着いた。


「おお、すごいね、なんか大人な雰囲気のレストランだね!」

「ほんとですね、な、なんか緊張してしまうな……」


 僕はこういうところに来ることがあまりないので、変な緊張感があった。みんなも同じなのか、辺りをキョロキョロと見回している。

 ここでは懐石料理が出てくるとのことだ。どんなものだろうかとドキドキしていると、料理が運ばれてきた。


「こちら、昆布〆の桜鯛となっております」


 ウェイターさんが説明をしてくれた。お、おお、鯛か、見た目も華やかだ。


「い、いただきます……あ、美味しい」

「ほんとですね! 今まで食べたことがない鯛って感じです!」


 橋爪さんもテンションが上がっていた。

 その後、アワビのひろうす、白魚、タラの芽、ふきのとう、たけのことアイナメの木の芽焼き、特製ビーフシチューなどが続々と出てきた。お、おお、どれも普段食べているものとは違って、奥深い味がして美味しい……!


「す、すごい……どれも美味しい」

「ああ、こんな贅沢していていいのかなって思ってしまうね!」

「うんうん、たまにはいいんじゃないかなぁー。あ、ワインとよく合うなぁー!」


 川倉先輩と僕は、ワインをいただいていた。そちらも高級感があって、大人の味がした。


「いいなぁ、二人はワインが呑めて。ボクはさすがにやめておいたけど、うらやましいよ」

「あはは、慶太、あとでみんなで宴会があるからさ、その時に呑めば大丈夫だよー!」

「日車先輩、ワインの味はいかがですか?」

「ああ、なんか鼻にいい香りが通ってきて、味も落ち着いていて美味しいと感じるよ」

「さすが日車先輩です! あ、酔ったらいつでも言ってくださいね! 膝枕しますので!」

「え!? あ、ありがとう……というのは変なのかな」


 ぼ、僕も気をつけておかないと、また笑いが止まらなくなったりして……。

 美味しい夕食をいただいた後、僕たちはそれぞれ部屋に戻って来た。


「いやー、すごい経験だったなぁ、なんだか大人って感じがしたっつーか」

「ああ、普段食べないものばかりで、美味しかったね!」

「ほんとですね、貴重な経験をしたって感じです!」


 みんなのテンションが上がっている。僕も同じ気持ちだった。いいお風呂、いい夕食、どれも普段の生活とは違う貴重な経験だ。


 コンコン。


 その時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。僕が出ると、女性陣がいた。


「男性陣も盛り上がってるかなー!? 今日はこっちで飲み明かそうではないか!」


 なぜか慶太先輩の口癖になる川倉先輩だった。それはいいとして、女性陣も混じって八人で部屋で宴会となった。


「それではみなさん、今日はお疲れさまでした。年に一度の旅行ということで、みんなが楽しんでくれたなら嬉しいです。で、宴会の前にちょっとここでご報告というか、お願いというか、そういうものがあるんだけどね」


 みんなの前で川倉先輩がそう言った。ご報告? なんのことだろうか。


「私も四年生でさ、これから先もっと忙しくなりそうなんだよ。でね、サークルの代表を、今日をもって慶太に譲ろうと思っているんだけど、慶太、どうかな? やってくれないかな?」


 川倉先輩が慶太先輩を見て言った。な、なるほど、サークルの代表を交代するということか。


「ええ!? ぼ、ボクが代表になるのかい?」

「うん、慶太なら大丈夫かなって思っているんだよ。あ、もちろんこれからも空いた時間は私もサークルに来るけどさ、どうかな?」

「あ、ああ、亜香里先輩も忙しいよね……分かった、ボクが代表にならせてもらうことにするよ」

「ありがとう! じゃあ、新しい代表は慶太ということで! ここから新しい写真研究会が出発するということで、乾杯しようか!」


 みんながそれぞれビールやジュースを持った。


「よし、みんな持ったね、それでは、写真研究会の今後の発展を願って……乾杯!」


 川倉先輩がそう言った後、みんなで「かんぱーい!」と言った。


「ふふふ、慶太くんが新しい代表ですね、一言もらいましょうか」

「ええ!? あ、わ、分かった……ボクは代表になったけど、まだまだ足りない部分もあると思う。みんなの力が必要だ。そしてこれからも楽しくサークルを続けていこうではないか!」


 慶太先輩の力強い言葉を聞いて、みんな笑顔になった。あ、エレノアさんがちょっと日本語が難しかったと思うので、僕が英語で説明してあげた。


「あ、ケイタ、えらいひとになる。ケイタすごい、わたしほめる」

「あはは、エレノアさんありがとう。エレノアさんの力も必要だからね、ぜひボクに力を貸してもらいたいよ」

「よっしゃ、あとはどんどんみんなで呑んじゃおー! ぷはーっ、ビールがうまい!」


 あっという間にいつもの川倉先輩になっていた。僕もビールをいただく。ワインとはまた違うこの味が美味しく感じた。


「慶太先輩が代表でも、なんだか俺らは今まで通りって感じがするっつーか」

「ほんとだね、それがいいのかもしれないね。今まで通り、楽しくサークル活動も続けていくのが一番じゃないかな」

「ふむ、みんなえらい。だからきょうはのむ。ダンキチ、えんりょするな、じゃんじゃんのめ」

「あ、ありがとう……呑み過ぎて笑いが止まらなくならないようにするよ」


 川倉先輩から慶太先輩へ、代表が変わるという、新たな出発の日となった。それでも先ほど言った通り、今までと同じようにみんなで楽しくサークル活動を続けていきたいなと思っていた。

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