第58話「鬼怒川温泉」

 八月十一日、僕は楽しみにしていたことがあった。

 それは、サークルメンバーで行く夏の旅行だ。今日と明日、栃木県の鬼怒川温泉に行くことになっている。

 僕は準備をして家を出た。まだ朝だが太陽は容赦なく僕たちを照りつける。暑くなるのだろうが、天気がよくてよかったなと思った。

 駅前から電車に乗り、大学へと行く。今日はまず大学に集まることになっていた。僕が行くと、川倉先輩、慶太先輩、成瀬先輩の先輩方がもう来ていたようだ。


「お、団吉くんおはよー!」

「おはようございます。先輩方早いですね」

「やあやあ、団吉くんおはよう。そうなんだ、今日という日をとても楽しみにしていたからね! つい早く来てしまったよ」

「団吉さん、おはようございます。ついに来ましたねこの日が! 私も楽しみにしていました」

「そうですね、僕も楽しみでした。みんなで楽しんでいきましょう」


 先輩方と話していると、拓海、エレノアさん、天野くん、橋爪さんがやって来た。これで全員揃ったな。


「よーし、全員そろったねー! じゃあ出発しようかー! 皆の衆! この旅行をじっくりと楽しもうではないか!」


 川倉先輩がなぜか慶太先輩のような口癖で言うと、みんなが「おー!」と声を上げた。みんな楽しそうだ。

 電車に乗って、まずは都会へ行く。その後『リバティきぬ』という特急電車に乗り換える。そこから二時間くらいだ。今回は人数が多いので車ではなく電車移動となった。僕はそれも楽しみにしていた。


「先輩方と一緒に旅行なんて、すごいですね! 日車先輩、夜はぜひ僕と語り合っていただけると嬉しいです……!」

「あーっ、天野くんずるい! 日車先輩! 私今日のことすごく楽しみにしていました! ぜひ日車先輩と熱く語り合いたいです!」

「え、そ、そうだね、楽しい話たくさんしようね……あはは」


 天野くんと橋爪さんも初めての旅行ということで、テンションが高かった。まぁ僕も似たようなものだから、気持ちは分かるというか。


「あはは、みんな楽しそうだねー、よきかなよきかな!」

「ほんとだね、なんか俺も楽しみだったっつーか。これもいい思い出になりそう」


 みんなで話していると、あっという間に都会までやって来た。そこからリバティきぬに乗り換えて、もうしばらく電車の旅となる。おお、特急電車は車内もなんだか綺麗で広い……! 僕は初めての経験でテンションが上がっていた。


「これで栃木県まで行くのか、なんだか素晴らしいね! 気分も上がって来る気がするね!」

「ふふふ、慶太くんも楽しそうですね、こういう電車の旅というのもいいものですね」


 席は指定席となっており、川倉先輩と拓海、慶太先輩と成瀬先輩、僕とエレノアさん、天野くんと橋爪さんのペアになって座った。

 しばらくすると、電車が出発した。のんびりと窓から景色を眺める。都会からだんだんと田舎の景色になっていくのがなんだかいいなと思った。


「ダンキチ、あそこくさがいっぱいある。あれなに?」

「ああ、あれは田んぼだね。お米を作っているんだよ」

「ふむ、なるほど、おこめをつくるたんぼ、おぼえた」


 エレノアさんも景色を見ながら楽しそうだった。日本に来てから旅行はしたことがないと言っていた。いい思い出になってくれるといいなと思う。

 二時間というちょっと長旅だが、みんなで話していると楽しかった。電車は鬼怒川温泉駅に着こうとしている。大学を出発してからは三時間くらい。お昼を過ぎたあたりになっていた。


「おおー! ここが鬼怒川温泉駅かー! 初めて来たよー」

「俺も初めてだなぁ。団吉は来たことあるか?」

「いや、僕も初めてだよ。もしかしたらみんなそうなのかもね」


 そんな話をしながら駅周辺の写真を撮るみんなだった。駅自体もなんだかおしゃれでカッコいい感じがする。最近建て直したとかそういうことなのだろうか。

 その後、駅近くのホテルに行く。荷物を置いてからみんなでこのあたりを楽しもうと思っていた。ホテルまでは駅から歩いて十分くらいだった。少し早いがチェックインできるか訊いたらOKとのことなので、チェックインする。

 部屋は男性陣、女性陣でそれぞれ四人ずつに分かれて、二つ予約していた。僕たち男性陣は部屋へと案内された。おお、和室で景色もよくて、いい感じだ。


「おお、けっこう広いな、これなら十分四人で寝れそうっつーか」

「ほんとですね、ここならゆっくりできそうです」

「ああ、男同士、今晩は楽しい話で盛り上がろうではないか!」

「そうですね、よし、荷物ここに置いておこうかな」


 とりあえず荷物を置いて、ロビーに戻る。女性陣もやって来て、今度はお昼を食べるために駅に戻ることにした。


「なんかいいところないかなぁと思って調べていたんだけど、駅の近くに日本料理のお店があるね! ランチもやってるみたいだから、行ってみようかー」


 川倉先輩が先頭になり、僕たちは歩いて日本料理のお店にやって来た。お昼過ぎということで人が多かったが、少し待っていると四人ずつ呼ばれた。ここは男性陣と女性陣に分かれることにして、先に女性陣に席についてもらった。その後僕たち男性陣が席に着く。


「おお、お刺身が美味しそうではないか! ボクはこの定食にしてみようかな」

「いいですね、僕も同じものにしようかな……日車先輩と印藤先輩はどうしますか?」

「こっちの海鮮丼も美味しそうだなぁ、僕はこれにしようかな」

「おっ、団吉もそれが気になったか、俺も海鮮丼にしようかな」


 注文してしばらく待っていると、料理が運ばれてきた。おお、慶太先輩と天野くんが頼んだお刺身の定食もお刺身が綺麗だし、僕と拓海が頼んだ海鮮丼もボリュームがあって美味しそうだった。


「せっかくの旅だからね、ボクは食べたものも写真を撮っておくことにするよ」

「あ、いいですね、じゃあ僕もそうしようかな」


 みんなでスマホで写真を撮って、いただいてみる。うん、お刺身も大きくて、ご飯も美味しい。たまにはこういう贅沢もいいのではないかと思った。

 美味しい昼食をいただいて大満足だった。僕はそうだ……と思って、絵菜に『今、鬼怒川温泉に来ているよ』と、鬼怒川温泉駅と海鮮丼の写真を絵菜にRINEで送った。すぐに返事は来て『いいところだな、楽しんで』と言っていた。

 この後ちょっと移動することになる。僕は色々な景色をカメラに収めていこうと思っていた。

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