第57話「高校時代の友達」

 夏は暑い。そう思わせるには十分な気温の毎日だった。

 僕ものんびりと夏休みを満喫していた。この前は祖父と祖母の家にも行ったし、今日は絵菜と、高校時代の友達がうちに来ることになっていた。そちらも楽しみだった。

 先ほど絵菜からRINEが来て、『今駅前に集まった。今から行く』と言っていた。僕はあれこれと動いて来客の準備をする。まぁ駅前からそんなに時間はかからないしな……と思っていると、ガチャっと家のドアが開く音がした。僕は玄関に行く。


「いらっしゃい、外暑かったよね」

「ご、ごめん、また勝手に開けてしまって……」

「おじゃましまーっす! おお、ここが日車の城かー! なんだかいい感じみたいな?」

「お、おじゃまします、ひ、日車くんお久しぶりだね」

「ああ、お久しぶりだね、さぁ上がって」


 そう、来てくれたのは絵菜と杉崎すぎさき花音かのんさんと、木下きのした大悟だいごくんだった。杉崎さんと木下くんは高校時代の友達だ。今は杉崎さんは専門学校、木下くんは大学に通っている。ちなみにこの二人はお付き合いをしている。


「おおー、なんだか広いじゃん! いいなーこの棚、収納バッチリじゃん!」

「ほ、ほんとだね、広いもんだね。ひ、日車くんが一人暮らししてるって聞いて、すごいなって思ってたよ」

「あはは、まぁやってみたら意外となんとかなるもんだね。あ、ジュース持ってくるね」


 僕はそう言ってキッチンへと行った。四人分のジュースを用意して、テーブルに持って行く。


「はい、どうぞ」

「サンキュー! あっちにも部屋あるんだな?」

「ああ、あっちは寝室と勉強部屋を兼ねている部屋だよ。二つ部屋があるのがいいなと思ってね」

「そうだなー、あ、ということはあっちの部屋でねえさんとラブラブってことなんだなー! くそー日車め、うらやましいぞー!」

「え!? い、いや、まぁ、そういうことはあるようなないような……あはは」


 杉崎さんは絵菜のことを『姐さん』と呼んで慕っている。絵菜に対する憧れがあると言っていたが、それも変わらなかった。


「ひ、日車くん、だ、大学生活は順調?」

「あ、うん、勉強も遊びも、充実してるかなと思ってるよ。木下くんは楽しんでる?」

「う、うん、勉強が難しいけど、な、なんとか楽しくやってるよ。アイドルオタクの友達もできたりして……あはは」


 木下くんが恥ずかしそうに笑った。木下くんは臨床心理士になるために勉強をしている。なかなか難しいと思うが、頑張ってほしいなと思った。


「なんか、こうして集まると高校時代を思い出すな」

「姐さ~ん、そうなんですよー、今日は姐さんに会えるって思って、めっちゃ楽しみにしてました! 姐さんは学校楽しいですか?」

「あ、うん、友達もいるし、楽しくやってるかな……でも、もうすぐ就職活動だから、そっちが心配で……」

「あー分かります。あたしも九月になったら面接があるんですよー、あたしができるかなって心配なんですが、まー頑張ってみようかなと!」


 杉崎さんは介護福祉士になるために勉強をしている。相原くんと同じ専門学校だった。絵菜と同じく専門的なことを学んでいるのだろうなと思った。


「みんな色々頑張ってるみたいだね。なんかそれも嬉しくなるよ」

「あははっ、まー来年あたしが働いてるって、なんかイメージ湧かないんだけどなー。みんなそんなもんなのかなと思ってなー」

「そうだね、みんなそうかもしれないよ。この前絵菜とも社会人になるよねって話をしていたところで」

「ぼ、僕と日車くんはまだ先だけど、花音と沢井さんは来年だもんね。さ、沢井さんはネイリスト……になるんだっけ?」

「あ、うん、そのために今勉強してるところで……秋にはまた試験もあって……」

「そ、そっか、大変だね……でも、沢井さんならきっと大丈夫だよ。じ、自信持ってね」


 あ、木下くんは昔、女性と話す時に挙動不審になっていたが、なんとなく自然に話せているなと思った。杉崎さんという彼女ができてから、少しずつ慣れてきたのかな。それもいいことだな。


「ありがと。しっかり勉強して、働いていきたいな……あ、杉崎、手出して。爪綺麗にしてあげる」

「ええ!? ね、姐さん、いいんですか!? じゃ、じゃあお願いします!」


 杉崎さんが絵菜に手を差し出した。絵菜は持っていた道具で杉崎さんの爪を磨いていく。


「杉崎はネイルチップとかしてるかなと思っていたんだが、わりと普通にしてるんだな……磨いてみたけど、こんな感じでどうだろうか」

「ひゃー! すっごい綺麗になりました! ありがとうございます! あああ姐さんに爪をきれいにしてもらった……! あたし嬉しすぎて空飛びそう~なんちって」


 嬉しそうな杉崎さんを見て、みんな笑った。高校時代もこんな感じだったなと、なんだか懐かしくなった。


「あはは、なんだかみんな変わってない感じがして、よかったなと思うよ」

「ああ、日車は可愛いっていうか、なんかカッコよくなったよなー。やっぱ大人になってるってことかー! あ、そうだ、日車は二十歳になったのかー?」

「あ、僕は二十歳になったよ、杉崎さんと木下くんは?」

「ぼ、僕も七月で二十歳になったよ。か、花音は一月だよね」

「そーそー、あたしはもうちょい先だなー。姐さんもまだでしたよね?」

「あ、うん、私は十一月だから、もうちょっと先だな」

「みんな二十歳になっていくよね。あ、成人式でまたみんな集まることもあるかもしれないね」

「そーだなー、なんかそれも楽しみって感じするなー。二十歳になったら姐さんとお酒呑んでみたいです!」

「うん、私も楽しみにしてる」


 そう、二十歳になるということは、成人式もあるのだ、さっきも言った通り、大人になったみんなで集まるというのもいいだろう。僕も楽しみになってきた。


「まぁ、みんな勉強は難しくて大変だと思うけど、しっかり頑張って、いい大人になっていこうね」

「そ、そうだね、僕も頑張るよ」

「そーだなー、大人になってあたしも女としての魅力が出てるっていうかさー。あ、日車と大悟は、そろそろあたしの胸が恋しいだろー、触ってもいいんだぞ、ほれほれ」

「うわ、団吉……」

「ええ!? い、いや、何も言ってないからね!? 絵菜も変な声出さないで!」

「はひ!? い、いや、僕も何も言ってないからね……何も……」


 僕と木下くんが慌てていると、絵菜と杉崎さんが笑った。うう、女性にはいつもからかわれているような気がする……。

 そ、それはいいとして、しばらく楽しい話で盛り上がっていた僕たちだった。

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