第56話「嬉しそうな二人」
「おうおう、団吉もけっこう呑めるなぁ、おじいちゃんは嬉しいよ。あっはっは」
美味しい夕食を四人でいただいた。祖父も僕とお酒を呑めたのが嬉しかったのか、けっこう呑んで上機嫌だ。まぁ楽しいお酒はいいものだろう。
「うん、そこそこ酔ってる気がするけど、よかったよ。おじいちゃんはさすがだね、たくさん呑んでる」
「あはは、まだまだ若いもんには負けんからな! こんな日が来るなんてなぁ。ほんと長生きしててよかったよ!」
「ふふふ、おじいちゃん嬉しそうね、団吉、付き合ってくれてありがとうね」
「いやいや、二十歳になったらおじいちゃんと呑みたいと思っていたからね」
夕飯の後片付けを僕と日向も手伝って、その後お風呂に入ってのんびりしていた。
「団吉と日向は、二階の部屋使ってね。布団はもう敷いてあるから」
「おばあちゃん、ありがとう! ……って、おじいちゃん、ここで寝ちゃったね」
「呑んだらすぐ寝ちゃうからねぇ。気にしないでね。夏だからタオルケットでもかけておけば風邪ひかないでしょう」
そう言って寝ている祖父にタオルケットをかける祖母だった。
祖母に「おやすみ」と声をかけて、僕と日向は二階へ行った。八畳くらいの部屋があり、布団が二つ敷いてあった。
僕はちょっと窓を開けてみた。夏だから暑いが、田舎の優しい空気とでもいうのだろうか、心地よい風が少し吹いていた。
「おじいちゃんとおばあちゃん、嬉しそうだったね。来てよかったなぁって思ったよ」
日向がぽつりと言った。
「ああ、そうだな。おじいちゃんも僕とお酒が呑めて満足そうだったし、おばあちゃんもよく昔話を話してたな」
「うん。楽しいお酒ってああいうのなんだろうね。お父さんが生きてたら、おじいちゃんと同じようなこと思っていたのかなぁって思っちゃった」
日向が遠くを見た。たしかに、父さんもお酒が好きだったと聞いている。僕と一緒にお酒が呑めるのは、きっと嬉しかったに違いない。
「そうだな、やっぱり父さんは……向こうに行くのが早すぎたよな」
「……うん。私ももっとお父さんと楽しい話したり、デートしたりしたかったな……あ、大丈夫だよ、泣いたりしないから」
「お、おう、日向も成長したな。前は父さんの前でボロボロ泣いていたのに」
「うん、私ももう十八歳だからね、いつまでもめそめそしてちゃいけないって思って。お父さんに笑われちゃうよ」
「そっか、きっと父さんも喜んでるよ。そしてもっとおじいちゃんおばあちゃんと楽しく過ごしてくれって」
二人で夜空を眺めながら、久しぶりに兄妹の時間を過ごした僕たちだった。
* * *
次の日、目が覚めると日向が布団にいなかった。あれ? と思って起き上がると、昨日の夜と同じように窓から外を眺めている日向がいた。
「あ、お兄ちゃん起きたんだね、おはよう」
「ああ、おはよう。眠れなかったか?」
「ううん、さっき起きたよ。ねぇ、なんか外が気持ちよさそうだから散歩でもしてみない?」
「あ、それもいいかもしれないな、おじいちゃんとおばあちゃんに一言言ってくるか」
僕たちは着替えて、キッチンにいた祖母に「ちょっと散歩してくるね」と伝えて、外に出た。都会の人混みとは違って、こちらはのんびりしていて空気が美味しく感じた。僕たちは祖父と祖母の家の近くを歩いてみる。
「田んぼの景色っていうのもいいねぇ。写真撮っておこうかな!」
「そうだな、僕も写真撮っておこう」
今日はカメラは持ってきていないので、スマホでパシャリと風景を撮った。田園風景がいい感じに写真に納まっている。今度サークルメンバーに見せるのもいいなと思った。
のんびり歩いて、祖父と祖母の家に戻って来た。中に入るとご飯のいい香りがする。
「おかえり、朝ご飯できてるわよ、いただきましょうか」
「あ、うん、ありがとう。いただきます」
「団吉も日向も、昨日はよく眠れたか? おじいちゃんはいつも以上にぐっすりだったよ、あっはっは」
「うん! なんか気持ちよくてぐっすり寝ちゃったよー」
みんなで話しながら朝ご飯をいただく。ご飯、味噌汁、焼き鮭、ひじき、レンコンの煮物などをいただいた。こういう朝ご飯もいいなと思った。
「おじいちゃんの夢は叶ったからね、あとはおばあちゃんの夢だね。団吉と日向がそれぞれ結婚して、その結婚式に出るのがおばあちゃんの夢だからね、それまで長生きさせてね」
「もー、おばあちゃんもいつもそれ言ってるー。大丈夫だよ、おじいちゃんもおばあちゃんも元気だから、もう少し待っててね。私もお兄ちゃんも、結婚するから!」
「そういえば二人ともいい人がいるって言ってたなぁ。今度連れてきたらどうだ? おじいちゃんも見てみたいからなぁ」
「あ、う、うん、そのうち連れてくることにしようかな……あはは」
結婚……はもうちょっと先の話になると思うが、祖母の夢を叶えるためだ、僕も日向も、その時まで頑張っていこうと思っていた。
しばらくのんびりした後、僕と日向は帰ることにした。荷物をまとめていると、
「二人とも、これ持って行って。白菜のお漬物よ。お母さんにも食べさせてあげて」
と、祖母が包みを差し出した。
「あ、ありがとう。うん、母さんにも食べてもらうね」
「団吉、日向、来てくれてありがとうな。おじいちゃんもおばあちゃんも、嬉しかったよ。団吉はまた一緒にお酒呑もうな」
「うん、こちらこそありがとう。またお酒呑もうね」
「おじいちゃん、おばあちゃん、お世話になりました!」
「いえいえ、二人とも気をつけて帰ってね、外はもう暑いからバテないようにね」
祖父と祖母が手を振ってくれている。僕たちも手を振って家を後にした。
「おじいちゃんもおばあちゃんも、喜んでくれてよかったね。また来たいなぁって思ったよ」
「ああ、話していたように、今度は絵菜や長谷川くんも一緒に来ると、もっと喜んでくれるんじゃないかな」
「そうだね、さすがに結婚はもうちょっと先だけど、それまで頑張ろうって気持ちになったよー」
「そっか、じゃあまずは課外授業と、夏休みの課題をどうにかしないといけ――」
「お、お兄ちゃん! 勉強の話はやめよう! あああまた思い出した……」
「なんだよ、しっかりと勉強しておかないと、専門学校に行けなくなるぞ」
「う、ううー、お兄ちゃんのアホー、マヌケー」
ぶーぶー文句を言う日向だった。
それはいいとして、祖父と祖母の嬉しそうな顔を見て、僕もほっとして嬉しい気持ちになった。
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