第55話「祖父と祖母」
夏の暑さが続いている八月最初の土曜日、僕と日向は、久しぶりに祖父と祖母の家に行くことにしていた。
先日母さんと電話した時に、「たまにはおじいちゃんとおばあちゃんに顔を見せに行ったらどうかしら?」と言っていたので、僕も二十歳になったことだし、大人になった姿を見せに行くのもいいなと思った。
そのことを祖父と祖母に電話で伝えると、じゃあ日向と一緒に泊まりにおいでと言ってくれたので、僕と日向は今電車に乗っている。電車の窓から見える景色がだんだんと田舎の雰囲気になって来た。僕はそれも好きだった。
「おじいちゃん家行くの久しぶりだねー、私たちも大きくなったと思われるのかなぁ」
窓から外の景色を見ていた日向が言った。
「まぁそうだろうね。そういえば前にジェシカさんと一緒に行ったなぁ。あの時も楽しかったというか」
「ほんとだねー、お兄ちゃんの彼女と間違われてたねー。あ、今度絵菜さんを連れて行くのもありなんじゃない? おじいちゃんとおばあちゃん、喜ぶと思うよー」
「ああ、そうだな、たまにはいいかもしれないな」
そんなことを話していると、祖父と祖母の家の最寄り駅に着いた。このあたりはあまり変わっていないな。日向と二人で家まで歩いて行くが、夏の暑さが厳しい。日向の手も汗をかいているようだ……って、なんで日向と手をつないでいるのか。ツッコミを入れたら負けだと思ったので何も言わないでいた。
祖父と祖母の家に着き、そっとインターホンを押した。「はい」と聞こえてきたので「団吉と日向です」と言うと、「あらー、ちょっと待ってね」と聞こえてきた。たぶん祖母だろう。すぐに玄関が開いた。
「こんにちは」
「おじいちゃん、おばあちゃん、こんにちは!」
「おお、団吉も日向もいらっしゃい、二人ともまた大きくなったなぁ」
「あらーいらっしゃい、外は暑かったでしょう、さあさあ、中に入って」
僕たちはリビングに案内された。祖父は
僕たちは父さんが亡くなった後も、こうしてたまにここを訪れる。孫であることは変わりないので、二人も僕たちに会いたいと思ってくれているようだ。
祖母が奥から麦茶とお菓子を持ってきてくれた。
「はいはい、二人ともお茶飲んで、ゆっくりしてね」
「あ、ありがとう。おじいちゃんもおばあちゃんも、元気してた?」
「おう、もちろん元気よ。二人が来るって聞いて嬉しくてなぁ、お酒もいっぱい買ってきたぞ。団吉ももう呑めるんだよな!?」
「あ、ま、まぁ、僕も二十歳になったからね、そこそこに……あはは」
「ふふふ、団吉が二十歳って早いわねぇ。日向も六月で十八歳になったのよね?」
「うん! 十八歳になったよー。おじいちゃんもおばあちゃんも、変わってなくて安心した!」
「うむ、団吉もカッコよくなったし、日向も可愛くなった! 二人が大きくなるのを見ると、長生きしててよかったなぁって思うよ。あっはっは」
祖父が豪快に笑った。
「ふふふ、おじいちゃんもね、『俺は団吉とお酒呑むんだ』って、電話もらった時からずっと言っててね。楽しみにしてたのよ」
「あ、そうなんだね、まぁ僕もこうして二十歳になれたけど、ちょっと不思議な気持ちもあるというか……」
「ふっふっふー、お兄ちゃんはお酒呑み過ぎると、笑い上戸になっちゃうんだよー! この前もお母さんに呑まされて――」
「わ、わーっ! 日向! それは言わないでいい……! あああまた思い出してしまった……」
「なんだ、団吉もけっこう呑めるんだな! まぁ人様に迷惑かけてなければいいんだよ。おじいちゃんなんてなぁ、昔酔っぱらって友達とケンカになったこともあったなぁ」
「団吉、おじいちゃんみたいになっちゃいけないからね。お酒は程よく楽しく呑むものよ。まぁでもお母さんと呑むのも楽しそうね」
「そ、そうだね、母さんと呑んだ時も楽しかったけど、気をつけておこうかな……あはは」
うう、どうしても酔った自分のことを思い出すと恥ずかしい……!
それから日向が祖母を手伝って、夕飯の準備をしていた。祖父はビールとおつまみを取り出してきて、テーブルにどんと置いた。
「団吉、遠慮しちゃいかんぞ。今日は泊まりだから、ゆっくりおじいちゃんと呑もう!」
「あ、う、うん、できれば笑いが止まらなくなる前にやめておきたいけど……あはは」
祖父がグラスにビールを注いでくれて、「じゃあ、乾杯」と言ったのでこつんとグラスを当てた。美味しそうにビールを呑む祖父だった。僕もいただく……やはりちょっとした苦みの中に味があって、美味しいなと思った。
「団吉、おつまみあるからな、遠慮なく食っていいからな」
「あ、うん、ありがとう」
「あらあら、もう呑んでたのね、おつまみ追加よ。お刺身と、いかと大根の煮物。煮物は日向が下ごしらえしてくれたわ」
「おお、日向も料理ができるんだな! これはいいお嫁さんになるぞ! あっはっは」
「えへへー、おばあちゃんに教わったんだけどねー。なかなかうまくできたんじゃないかと!」
そう言ってドヤ顔をする日向だった。ま、まぁいいか。
「日向も座って食え食え。おじいちゃんもいただこうかな……お、美味しいな!」
「ほんと? よかったー! お兄ちゃんも食べてみてー」
「あ、うん、いただきます……あ、しっかりと味ついてて美味しいね」
「ふふふ、よかったわね日向。美味しいって言ってもらえるのが一番ね」
「うん! よーしこれで私もお嫁さんになれるね!」
日向が力こぶを作った。そういえばそのポーズ気に入ってたな。それを見てみんな笑った。
夕飯は祖母と日向が作ってくれたご飯が豪華に並んだ。日向も「美味しいー! これたけのこだよね? あまりうちでは出てこないねー」と、なんだか嬉しそうだ。
祖父も気分がいいのかお酒が進んでいるし、祖母もニコニコ笑顔で昔話を話していた。僕もお酒を呑みながら、みんなの笑顔を見て楽しい気持ちになっていた。
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