第52話「前期試験」

 前期試験が今日から始まる。

 僕はこれまで通りしっかりと準備を行ってきた……が、毎回ドキドキしてしまうのは仕方ないのかなと思う。これを乗り越えないと、楽しい夏休みはやって来ないのだ。僕はもう一度ひっそりと気合を入れていた。

 大学に行くと、拓海がもう来ていたようで、僕を見つけて手を挙げた。


「おはよー、ついに前期試験が始まるなぁ、緊張してきたっつーか」

「おはよう、ほんとだね。僕もちょっとドキドキしてるよ」

「まぁ、団吉はそんなに緊張しなくても大丈夫っつーか。オールラウンダーの神様だからなぁ」

「い、いや、拓海まで神様って言ってるね……そんなことはないからね……」

「あはは、まぁ、今年も夏休みに楽しいことがあるしさ、ここを乗り越えていきたいよなー」

「そうだね、そのためにはまずここをしっかりと。あ、あれやっておかない? 気合い入れるために」


 そう言って僕が手を出すと、拓海がグータッチをしてくれた。うん。気合いが入った気がする。僕は全力を出して試験を受けていった。



 * * *



「みんなお疲れさまー! いやー前期試験も終わったねぇ! みんな頑張ることはできたかなー」


 川倉先輩の明るい声が響く。試験の最終日、僕たちサークルメンバーは『酒処 八神』に集まった。いつも通り試験お疲れさま会をやろうと話をしていたのだ。これも定番になってきたな。


「ああ、みんなお疲れさまだね! ボクもしっかりと試験を受けることができたよ。みんなもいい成績であることを願っているよ!」

「ふふふ、みなさんお疲れさまでした。そして今日は楽しい飲み会ということで、こちらも楽しみにしていました」


 慶太先輩と成瀬先輩も笑顔で言った。試験が終わったということでほっとするのは一緒だろう。


「おうおう、みんな試験だったのか、学生は大変だなぁ。今日はじゃんじゃん呑んでくれよ!」

「みなさんお疲れさま、大変ね。私も学生だった頃を思い出すわ」


 大将と章子さんが飲み物を持ってきてくれた。僕たちはそれぞれ受け取る。


「ありがとうございます! じゃあ飲み物も揃ったし、亜香里先輩、いつものように一言お願いできるかい?」

「よっしゃ! それでは改めて、みんな試験お疲れさまでした。こうして最終日に集まることができるのも嬉しいです。あとは夏休み、またみんなで楽しく過ごしていきましょう。乾杯!」


 みんなで「かんぱーい!」と言ってグラスを当てた。


「あ! 日車先輩たちもビールですね! わぁ、大人って感じですごいです!」

「ほんとですね、さすがみなさんです。大人になるってこういうことなのか……!」


 橋爪さんと天野くんがニコニコ笑顔で言った。そう、今日からサークルで集まる時も、僕と拓海とエレノアさんもお酒を呑むことになった。ついに先輩方と呑めるのだ。僕は嬉しい気持ちになった。


「いいねいいねー! みんなビールが好きなのかな? じゃんじゃん呑んでねー」

「あ、はい、焼酎や日本酒もどんな味なのか気になるところですが、まずはビールを」

「ふふふ、団吉さんとお酒を呑む時を楽しみにしていました。今日は一緒に楽しみましょうね」

「あ、は、はい、お手柔らかにお願いします……あはは」


 僕はそう言ってビールを呑む。うん、少しの苦みと深い味わいなのは変わらなかった。僕も大人になっているんだなと実感する。


「あ、この前俺と団吉とエレノアさんと、沢井さんも一緒にここに来たな。あれも楽しかったな」

「ああ、うん、あの時も楽しかったよ。エレノアさんも楽しかった?」

「うん、たのしかった。エナにもあえた。わたしうれしい」

「ああー、拓海くんから聞いて、うらやましいなーと思ってたよー。私もバイトじゃなかったら突撃したところだったのにー」

「あはは、亜香里さん、俺もそこそこ呑めるみたいだから、今日は付き合うよ」


 楽しそうな拓海と川倉先輩だった。うん、二人とも仲がよさそうでよかったなと思った。


「蒼汰くんと葵さんは、初めての大学での試験だったが、どうだい? ちゃんとできたかな?」


 ビールをちびちびと呑みながら慶太先輩が二人に訊いた。


「あ、はい、しっかりと準備はしたのですが、やっぱりなんか試験となると緊張してしまうというか……そんなもんなんですかね」

「私もです! なんか大学入試をちらりと思い出したというか……そこそこできたとは思うのですが……」

「ふふふ、大丈夫ですよ、私も何回受けても緊張してしまいます。まぁそこそこできたのならいいということにしましょう」

「うん、成瀬先輩と一緒で、僕もいつも緊張してしまうよ。拓海とも同じような話してたよ」

「そうなんですね、でもきっと、神様の日車先輩なら試験なんて軽く乗り越えるんでしょうね……!」

「日車先輩でも緊張するのですね……! でも、完璧超人大神様の日車先輩なら、試験なんてひとひねりですよね!?」

「な、なんか変な神様になってるけど、そんなことはないよ、僕は一般人だからね……」


 うう、天野くんと橋爪さんも神様って言ってる……なぜこうもみんな神様と言うのだろうか……ふと日向たち高校生を思い出してしまった。


「ダンキチ、わたししけんがんばった。ほめて。わたしえらい」


 僕の隣でエレノアさんがドヤ顔を見せた。なんだかその顔も可愛い……って、ぼ、僕は何を考えているのだろう。


「うん、エレノアさんも頑張ったね、偉いよ。あ、英語とフランス語、教えてくれてありがとうね」

「ふふふ、わたしせんせい。ダンキチ、いつでもおしえる。まかせておけ」

「うんうん、みんな頑張ってて偉いねー! そして、夏休みはお待ちかねの旅行があるからねー! もうホテルは予約しているから、みんな楽しみにしててね!」

「おお、ボクも楽しみだよ! みんなで楽しい旅行にしようではないか!」

「そうですね、このメンバーで行けばきっと楽しいです。たくさん楽しみましょうね」


 先輩方が楽しそうだ。去年の旅行のことを思い出して、僕もまた楽しみになってきた。

 わいわいとみんなで居酒屋で盛り上がっている。この時間も楽しいものだ。僕もビールを呑みながら、みんなの笑顔を見て嬉しくなっていた。

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