第50話「拓海の家で」
「おー、来てくれたか、まぁ散らかってるんだけど、上がってくれー」
拓海がそう言って僕とエレノアさんに上がるように促す。今日は迫ってきた前期試験のために、三人で拓海の家に集まって勉強をしようと話していた。拓海の家に来るのも久しぶりだな。
「おじゃまします。あ、来る時にジュース買ってきたよ」
「おお、サンキュー、ちょうど飲み物切らしてたから、ありがたいっつーか」
「ふむ、ここタクミのいえ、へやがきれい。タクミおそうじできてる」
「あはは、いやいや、バタバタで片付けたんだが、だんだんモノが多くなってきて困ってるっつーか」
拓海があははと笑った。散らかっていると言っていたが、僕もそうは見えなかった。広めのワンルームにロフトがついている、単身者向けのアパートだ。
「それにしても、前期試験が近づいてきたなー、あー俺また再試験とかなったら嫌だなー。そのために頑張っておきたいっつーか」
「そうだよね、三人で再試験にならないように頑張ろうか」
「ふむ、べんきょうもだいじ。わたしもがんばる」
そんな話をしながら勉強の準備をする。拓海のテーブルを借りて僕とエレノアさんがそこで勉強をして、拓海はもう一つ小さなテーブルを出して勉強をすることにした。その前に拓海がジュースをコップに注いで、差し出してくれた。
「はい、どうぞ、持ってきてもらったジュースだが」
「あ、ありがとう。なんか試験範囲も広くて、僕もちょっと自信がなくなってきたよ」
「いやいや、団吉は大丈夫だろー。俺なんて文系科目がほんとヤバいかもしれないっつーか……って、そんなこと言ってないで頑張らないといけないな」
「ぶんけいかもく……タクミ、なにがある?」
「ああ、英語とかフランス語とか、他にも倫理学とか政治経済学とか俺は取ってるかな」
「ふむ、えいごとふらんすご、わたしおしえることできる。タクミ、まかせておけ」
「おお、そういえばエレノアさんは語学のスペシャリストだったな、ぜひ教えてほしいよ」
とりあえず三人で勉強をする。僕も持ってきたタブレットとテキストを見ながら、真剣に取り組む。
「タクミ、そこちがう。そのときはこのたんごつかう」
「お、おお、なるほど……さすがエレノアさんだな、英語が完璧っつーか……って、当たり前か」
拓海とエレノアさんも、話しながら勉強を進めているみたいだ。こうして見ると二人とも勉強ができて真面目なんだなと思う。
「うーん、数学の科目もどんどん難しくなってるね……線形代数、解析学とか……でも、なんか楽しいよ」
「おっ、さすが団吉だな、俺も数学の科目は楽しいっつーか。この気持ちが文系科目にもあるといいんだけどなー」
「ダンキチ、わたしににほんごおしえて、ここわからない」
「ああ、尊敬語とか謙譲語とかか。難しいよね、日本人である僕たちも難しいと感じるよ」
エレノアさんに日本語を教えてあげた。エレノアさんも「ふむ、なるほど。ダンキチわかりやすい」と言ってくれた。やはり教えて理解してもらえると嬉しいものがあるな。
そんな感じで勉強をしていると、お昼になったので休憩することにした。
「おっ、お昼になったな。昼飯食べようか。今日はキーマカレー作ってあるからさ、ぜひ団吉とエレノアさんに食べてもらいたいっつーか」
「おお、ありがとう。そういえばキーマカレー作るのにハマってたって言ってたね」
「ああ、俺流のレシピが完成したからな。エレノアさんはキーマカレーって食べたことあるかな?」
「きーまかれー、きーまかれー、きいたことあるけど、たべたことない」
「そっか、美味しいぞ。ちょっと準備して来るよ」
そう言って拓海がキッチンへと行った。冷蔵庫から鍋を取り出して温めているみたいだ。おお、なんだかいい香りがする。
「ダンキチ、かれーすき?」
「ああ、うん、カレーは好きだよ。絵菜に作ってもらったこともあるよ」
「ふむ、エナのかれー、きっとおいしい。ダンキチずるい」
「あはは、今度絵菜に作ってもらおうか。絵菜も美味しいって言ってもらったら喜ぶと思うよ」
「できたぜー、さぁ、二人とも食べてみてくれ」
拓海がキーマカレーを持ってきてくれた。おお、これは野菜がたっぷり入っていて美味しそうだ。
「ありがとう、じゃあ、いただきます……あ、美味しいよ。辛さもちょうどいい」
「いただきます……あ、おいしい! タクミ、おいしい!」
「あはは、よかったよ。俺のキーマカレーもいけるってことだな!」
拓海がニコッと笑った。うん、本当に美味しい。ご飯の硬さもちょうどいいし、カレーの味も抜群だ。なるほど、普通のカレーばかりではなくて、キーマカレーを作るのもいいかもしれないな。
「ほんとに美味しいね。拓海、よかったらレシピを教えてくれないかな?」
「ああ、いいよ、メモってあるから送るよ。あ、エレノアさんにも日本語分かりやすくして送ろうか」
「うん、ありがとう。ひらがなだったらだいたいわかる」
「分かった、あとでエレノアさんにも送るよ。あーそれにしても大学の勉強もなかなか難しいなー、俺ちゃんとできてるのかなぁ」
「大丈夫だよ、拓海も真面目だから、ちゃんと理解して進めているのが分かるよ。僕も負けないようにしないとな」
「ふむ、ダンキチもタクミもべんきょうか。えらい。わたしもまけない」
「あはは、そうだね、エレノアさんも勉強家だもんね。日本語はやっぱり難しい?」
「うーん、かんじもすこしずつよめるようになった。でもかくのむずかしい」
「ああ、漢字は難しいよなー、そう考えると日本語って覚えることが多いっつーか、俺ら日本人でも分からないことが多いもんな」
「そうだね、エレノアさんは母国語じゃないから、さらに難しいと感じるだろうね。エレノアさん、分からないことあったらなんでも訊いてね」
「ほんと? ダンキチやさしいね、だいすき!」
そう言ってエレノアさんが僕に抱きついてきた。あ、こ、これはスキンシップ、スキンシップ……。
「あはは、食べたらまた頑張ることにしますかー、三人でちゃんと乗り越えないとな」
昼食をいただいた後、僕たちはまた勉強をしていた。分からないところは教え合って、いい時間が過ごせたのではないかと思う。このまま前期試験を乗り越えていきたいなと思った。
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