第49話「旅行計画」

「みんなお疲れさまー! いやー暑くなってきたねぇ、ここはエアコンあるからいいけどさー」


 部室に川倉先輩の明るい声が響く。本当に川倉先輩の言う通り、暑いと思う日が多くなってきた。今年も猛暑日が多くなるのかな、そんなことを思う僕だった。

 今日はもちろんサークル活動。サークルメンバーが全員集まった。いつものように賑やかだ。僕はこの時間も好きだった。


「ああ、暑くなってきたね、ボクも汗が止まらなくて、やっと涼しいところに来たって感じだよ」

「ふふふ、毎日暑くなってきましたが、その暑さに負けないくらい熱いお知らせがあるんですよね、亜香里先輩」


 成瀬先輩がニコニコしながら言った。熱いお知らせ? なんのことだろうか。


「そうそう! 蓮ちゃんの言う通り、今日は暑い中頑張っているみんなにいいお知らせがあるよー! はい、ホワイトボードに注目注目ー!」


 そう言って川倉先輩がホワイトボードに何かを書いていく。なんだろうかと思ったら、『写真研究会 夏季休暇旅行計画』と書いたようだ。お、おお? 旅行計画?


「あ、も、もしかして、去年もあったあの……」

「そう、団吉くんご名答! 今年も夏休みにこのメンバーで旅行ができたらいいなーって慶太と蓮ちゃんと話していてねー、今日はその話をしようかと!」

「お、おお、旅行ですか……なんか、大学生って感じしますね……!」

「す、すごいです! こ、これがキラキラ大学生ってやつか……! 日車先輩、去年もあったのですか?」


 天野くんも橋爪さんも嬉しそうに話す。二人とエレノアさんは初めてだな。メンバーも増えて旅行も楽しいものになるだろう。


「あ、うん、去年は伊豆の方に行ってね、楽しかったよ」

「それはそれは! いいなぁ、夜も日車先輩と一緒にいれるのですね……! 暗い夜道を散歩して、ちょっとつまずいて日車先輩に介抱してもらって……キャー! 楽しみです!」


 なんだかテンションの高い橋爪さんだった。


「な、なんか変なシチュエーションになっているけど……ま、まぁいいか。川倉先輩、今年はどこに行くのですか?」

「それを考えたんだけどねー、今年は栃木県の鬼怒川きぬがわ温泉に行ってみようかと思っていてねー。ここから無理なく行けるところだし、いいんじゃないかなーってね!」

「お、おお、鬼怒川温泉か……俺は行ったことないな、団吉はあるか?」

「いや、僕も行ったことないよ。なるほど、よさそうですね」


 そこまで話して、隣にいたエレノアさんが会話についてきていない気がした。ちょっと日本語が難しかったかなと思って、


『エレノアさん、夏休みにみんなで旅行に行く話をしているけど、エレノアさんは行けるかな?』


 と、英語で訊いてみた。


「あ、りょこう? すごい! わたしいったことないところ、たくさんある」

「そっか、温泉に行くことになりそうだよ。エレノアさんは温泉に入ったことある?」

「おんせん、おんせん、はいったことない。おふろ?」

「そうだね、大きなお風呂って感じかな。みんなで入ると楽しいと思うよ」

「ふむ、おんせん、おぼえた。ダンキチもおふろいっしょにはいる?」

「あ、い、いや、僕は男だからね、さすがにそれは無理かと……」


 エレノアさんに左手を握られて訊かれたが、さ、さすがに混浴というわけにもいかないだろう。


「あはは、混浴のところあるのかなぁ、探してみようか! それと、東武とうぶワールドスクウェアに行くのもありかなって思ってるよー」

「ああ、世界遺産や有名な建築物の精巧なミニサイズの展示があるそうではないか! 写真を撮るのにはピッタリじゃないかなとボクは思うよ!」

「ふふふ、そうですね、他にも写真映えしそうなところがありそうですし、楽しみですね!」


 先輩方も嬉しそうだ。栃木県は僕もあまり行ったことのないところだ。楽しみになってきた。


「あ、それはいいんだけど、亜香里さん、移動手段はどうする? この人数だと去年みたいに車は難しそうっつーか」

「そうだね、今年は八人いるから、電車にしようかなって思ってるよー。電車に揺られて行く旅行っていうのも楽しそうだよねー」


 なるほど、電車か。いつも乗っている電車とはまた違って、楽しい気持ちになるだろう。


「す、すごいですね、これが大学生なんですね……! 日車先輩、よかったら僕に旅のイロハを教えていただけると……!」

「あっ、天野くんずるい! 日車先輩、私もお願いします!」

「え、い、イロハ? ま、まぁ、いい写真を撮りながら、みんなで楽しくいけばいいんじゃないかな……って、何のアドバイスにもなってないな……」

「な、なるほど、さすが写真研究会って感じですね……! あ、夜に日車先輩と人生についてあれこれ話すのもありだな……ブツブツ」

「あ、天野くん? なんかブツブツ言っているけど……」

「あはは、みんな楽しみなのは一緒っつーか。そういえば去年は団吉と一緒に夜風に当たったな、なんか楽しかったな」

「ああ、そうだね、もう一年経とうとしているのか……」


 そういえば去年の旅行の時、拓海の想いを聞いたのだった。なんだかそれも懐かしかった。


「あはは、みんな盛り上がってるけど、じゃあこれで話を進めても大丈夫かな?」


 川倉先輩の問いかけに、みんなが「はい」と答えた。


「よっしゃ! じゃあこのまま進めようかー。去年と同じように八月に行くことにして、ホテルの予約とかは私がするから、みんな他にも行きたいところや、食べたいもの、じゃんじゃん言ってねー。みんなの旅行だからねー」


 みんなでスマホやパソコンを使って、色々と調べながら話していた。栃木か、美味しいものといったら……餃子? それは宇都宮の方なのかな。


「あ、俺も団吉もエレノアさんも、二十歳になったから、先輩方とお酒が呑めるっつーか」

「ふむ、おさけ、わたしのめる。アカリ、ケイタ、ハス、またせたな」

「おお、そうだった! それもボクは楽しみだよ! みんなで美味しいお酒を呑もうではないか!」

「そうでした! いいですね、団吉さん、私と一緒に呑みましょうね」

「あ、は、はい、お手柔らかにお願いできると……あはは」


 か、川倉先輩と成瀬先輩のお酒のペースに合わせていたら、大変なことになりそうなので、気をつけておかなければ……。

 それはいいとして、今年も旅行に行くことになるのか。楽しみなのはみんな一緒だ。いい思い出を今年も作りたいなと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る