第48話「楽しい時間」

 あれから四人で居酒屋で盛り上がっていた。

 僕もビールを呑んで、気分がよくなっていた。フワフワと楽しい気持ちになるが、今のところ酔いすぎたという感覚はない。まだ大丈夫かなと思っていた。

 エレノアさんも気分がよくなったのか、アメリカの故郷の話をしてくれた。田舎なので車がないと生活が難しいこととか、ハイスクールまでいつもお父さんが送ってくれていたとか、楽しそうだった。


「へぇー、アメリカって行ったことないけど、なんかいいとこっぽいっつーか。あ、エレノアさんも美人さんだから、男の子にモテたんじゃないかな?」

「ふふふ、わたしびじん。おとこのこ、わたしにこくはくしてきた」

「お、おお、エレノアさんも告白されたんだね、なんて返事したの?」

「あ、ごめん、わたしおつきあいできないって。しらないひとだったから」

「まぁそうだよな、さすがに知らない人とお付き合いすることはできないっつーか」

「ふふふ、ねぇ、わたしふわふわたのしい~。タクミもたのしい? なんかくっつきたい~」


 そう言ってエレノアさんが拓海に抱きついた。あ、これ川倉先輩が見たら頭に角が生えそうな……こ、ここだけの秘密にしておこう……。


「ええ!? あ、ま、まぁ俺も楽しいっつーか、ふわふわしてるっつーか。なんか楽しいな! うん、楽しいな!」

「い、印藤、同じこと何度も言ってる……」

「あ、あれ? そうか? 俺も酔ってきてるってことなのかな……自分ではよく分からないのだが……俺、顔赤いか?」

「うーん、ちょっとだけ赤いかな……でも、楽しいのならいいか」

「うんうん、絵菜の言う通りだね。楽しいならいいんだよ。川倉先輩には内緒にしておくから……」

「ねぇ、タクミ~、わたしたのしい~、タクミかっこいいね、アカリがうらやましい」


 エレノアさんがぐいぐいと拓海に絡んでいた。エレノアさんは酔うとくっつきたくなる人なのか……美人さんなだけにドキドキしそうな……拓海もあわあわと慌てている……ようで、楽しそうなのでまぁいいか。


「団吉はお酒呑んでもあんまり変わらないな、お酒に強いのかな」

「う、うーん、だいぶふわふわしてて楽しいんだけどね、実家だと笑いが止まらなくなったよ。あれは恥ずかしかった……」

「ふふっ、団吉が変わった姿見たの初めてで、楽しかった」

「おっ、沢井さんは知ってるんだな。なるほど、団吉は笑い上戸になるってことか。まぁいいじゃんか、お酒は楽しく呑まなきゃな」

「そうだね、無理してもいけないし、楽しく呑まないといけないね」

「ダンキチ~、エナのどこがすき~? すきすきっていってる~?」


 エレノアさんがビールを呑みながらとんでもないことを訊いてきた。ま、前も同じような質問されたような……。


「え、あ、そ、その……絵菜は怖がりで、寂しがりやなんだけど、そこが可愛いというか……って、以前も話したような……」

「エナは~? ダンキチのどこがすき~?」

「え、あ、だ、団吉は……優しくて、勉強ができて、可愛くて……って、は、恥ずかしい……」

「ふふふ~、ダンキチとエナ、らぶらぶ。わたししってる~」

「あはは、いいなー高校時代からずっとなんだよな? 俺は高校時代は彼女がいなかったから、うらやましいっつーか」

「ま、まぁ、絵菜やみんながいてくれたから、高校時代は楽しかったよ。それまで僕は一人で、なんだか暗い子だったけど……うう、自分で言ってて悲しくなってきた……」

「だ、団吉しっかり……私も似たようなものだから……」

「あはは、もしかしたら似た者同士なのかもしれないな。いいじゃんか、二人が出会ったのも運命っつーか」

「ソウキチ~、びーる、びーるほしい~」

「あいよ! なんだ、エレノアちゃんは酔っぱらってるのか、まぁたまにはいいってもんよ、あっはっは」


 ビールを持ってきた大将が豪快に笑った。え、エレノアさんは大丈夫かな、けっこう呑んでるみたいだけど……。



 * * *



 けっこう遅い時間になって来たので、お会計をして大将と章子さんにお礼を言って、今日は解散することにした。


「あーけっこう呑んだな~、俺もだいぶ酔っぱらってるっつーか」

「あはは、でも拓海もそんなに変わってないね、ちょっと顔が赤いくらいかな?」

「そっか、よかった、これで亜香里さんとも呑めそうだ~。亜香里さんも喜んでくれるはず!」

「タクミ~、わたしたのしい、たのしい~」

「ああ、俺も楽しいな! うん、楽しい!」

「い、印藤もエレノアさんも、また同じこと言ってる……」


 結局エレノアさんは拓海が送っていくと言っていた。あ、あの二人は大丈夫かなと心配になったが、まぁなんとか帰り着いてくれることを祈るのみ……。


「じゃあ、僕たちも帰ろうか、遅くなったから絵菜の家まで送るよ」

「あ、うん、ありがと」


 僕たちは電車で駅前まで戻り、絵菜の家まで一緒に歩いて行く。絵菜がそっと僕の左手を握った。


「団吉はけっこう呑んだ?」

「うん、けっこう呑んだみたい。今回は笑いが止まらなくなったりしなかったから、よかったよ」

「そっか、でも楽しそうだったな、私はお酒が呑める人なのかな……」

「絵菜がお酒呑めるのも、もう少し先だね。呑めるようになったら一緒に呑もうね」

「うん、団吉と一緒だったら、きっと楽しい。あ、エレノアさんみたいに酔ってくっつくのもありだな……」

「あ、そ、そうだね、ちょっと恥ずかしいけど……」


 そんなことを話しながら絵菜の家に行くと、なんと家の前に真菜ちゃんがいるのが見えた。


「あ、真菜がいる……」

「あ、あれ? 真菜ちゃん? こんばんは」

「お兄様こんばんは! お姉ちゃんから帰るって連絡があって、待ってました!」

「あ、そうなんだね、ちょっと遅くなっちゃったから送って来たよ」

「まあまあ、お兄様は優しいですね。今日は楽しかったですか?」

「うん、二十歳の集いだったんだけど、楽しかったよ」

「それはそれは! いいなぁ、私もお兄様とお酒を呑んでみたいです」

「あはは、そうだね、二年後を楽しみにしてるよ。じゃあ僕は帰るね、二人ともおやすみなさい」

「団吉、ありがと。帰り気をつけて」

「お兄様、おやすみなさい。明るいところ通ってくださいね」


 二人が手を振りながら家に入っていった。僕はそれを見てから、家へと帰る。

 今日も楽しい時間だった。またみんなで行けるといいなと思っていた。

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