第47話「二十歳の集い」
七月になった。
夏の暑さがどんどん増してきていて、うちもエアコンをつけた。やはり夏はエアコンなしでは生きていけない。僕が子どもの頃よりもさらに暑くなっているよなと思っていた。
七月五日の今日は、拓海の誕生日だ。そしてそのおめでたい日に、僕と拓海とエレノアさんの二年生組は、居酒屋に行こうと話していた。エレノアさんも六月で二十歳になり、拓海も今日二十歳になる。みんなでお酒を呑んでみようということだった。
そのことを話していると、エレノアさんが「エナ! エナつれてきて!」と言っていたので、僕は絵菜に連絡すると、絵菜も行きたいと言っていた。まぁ絵菜は誕生日がまだ先なのでお酒は呑めないが、一緒に楽しむのもいいだろう。
「今日が印藤の誕生日なんだっけ?」
「そうそう、拓海も二十歳だね。なんかあっという間だなぁ」
「うん、私の誕生日もあっという間に来るんだろうな……」
「そうだね、きっとすぐだよ。その時はまた一緒に行こうね」
そんなことを絵菜と話しながら大学の校門に行くと、拓海とエレノアさんがいるのが見えた。
「おっ、団吉と沢井さん来たな、これで揃ったな」
「ごめん、待たせてしまったかな」
「いやいや、そんなに待ってないから大丈夫っつーか。エレノアさんがそわそわしてたよ。沢井さんに早く会いたいみたいで」
「エナ! おひさしぶり! わたし、おひさしぶり、おぼえた」
そう言ってエレノアさんが絵菜に抱きついた。
「わっ! あ、お、お久しぶり……エレノアさん、元気だな……」
「ふふふ、わたしげんき。ダンキチ、はやくいこう、ソウキチまってる」
「そうだね、行ってみようか。予約はしているから大丈夫だとは思うけど」
四人で居酒屋へと行く。エレノアさんは絵菜と手をつないでご機嫌のようだ。やはり絵菜のことを気に入っているんだなと思った。
いつものように『酒処 八神』に着き、ガラガラとドアを開けて中に入ると、
「――おっ、団吉くんたちじゃねぇか、いらっしゃい!」
と、大将の元気な声が聞こえてきた。
「こんにちは、お久しぶりです。予約してたんですけど大丈夫ですか?」
「おう、もちろん大丈夫だよ。いつもの奥の席用意してるよ!」
僕たちはいつもの奥の席に、僕と絵菜、拓海とエレノアさんに分かれて座った。
「あ、エレノアさんは、絵菜の隣がいいかな?」
「ううん、エナはダンキチのもの。わたしここにすわる」
「あはは、エレノアさんも分かってるっつーか。あ、沢井さんお久しぶりだね」
「ああ、印藤もお久しぶり。あ、誕生日おめでと。これ、私と団吉からプレゼント……お菓子なんだけど」
絵菜がお菓子の包みを拓海に差し出した。
「お、おお、ありがとう。なんか悪いな、こんなものもらっちまって」
「いやいや、せっかくの誕生日だし、お祝いしたいと思ってね。あ、ちょっと遅くなったけど、先月誕生日だったエレノアさんにもあるよ、はいこれ、エレノアさんにもお菓子のプレゼントだよ」
「え、おかし? ありがとう! ダンキチもエナもやさしいね、だいすき!」
「おお、拓海くんは今日が誕生日だったか! そりゃめでてぇ! ということはお酒が呑めるっていうことだな!?」
奥から来た大将がニコニコ笑顔で言った。
「あ、はい、俺と団吉とエレノアさんは、二十歳になったからお酒が呑めます。俺は初めてだからちょっとドキドキっつーか」
「タクミ、だいじょうぶ、わたしちょっとおさけのんでみた。おいしかった」
「おお、マジかー、美味しいならちょっと楽しみだなぁ。団吉は呑んでみたか?」
「うん、誕生日の時に母さんに勧められてビールを呑んだよ。美味しいと感じたかな」
「――あらあら、みんな二十歳になったのね、おめでとう。大人になったわね」
奥から大将の奥さんの章子さんもやって来た。
「あ、ありがとうございます! まぁ厳密には沢井さんがまだっつーか」
「そうなのね、じゃあ今日は私から一杯プレゼントするわ、ビールとコーラでいいかしら?」
「あ、すみません、ありがとうございます。じゃあビール三つと、コーラ一つお願いします」
「おう、すぐ用意するよ!」
大将と章子さんが奥へ行って、ビールとコーラを用意して持ってきてくれた。
「よし、飲み物揃ったな、じゃあ団吉、一言言ってくれ」
「え、な、なんかこういう時僕がよく言ってるような……まぁいいか、それでは……みんな誕生日おめでとう。まぁ厳密には絵菜がまだだけど、二十歳になったってことで、これからも一緒に頑張っていきましょう。乾杯!」
みんなで「かんぱーい!」と言ってグラスを当てた。
「お、おお、初めてのビール呑んでみるぜ……あ、ちょっと苦いけど、なかなか美味しいな!」
「ふふふ、タクミ、あじのわかるおとこ。ビールおいしい」
「ふふっ、エレノアさん、日本語がどんどん上手になってるな」
「ふふふ、エナ、みるめがある。わたしにほんごできる。わたしえらい」
「あはは、拓海もエレノアさんも、美味しそうに呑んでてよかったよ。あ、料理来たみたいだね」
お刺身や鶏のから揚げなどを章子さんが持ってきてくれた。僕もいただく……あ、いつものようにお刺身もぷりっとしていて、から揚げも揚げたてで美味しい。
「おお、やっぱり美味しいな、お酒呑んで食べるとまた違うっつーか」
「ほんとだね、なんか一気に大人になった気分だよ」
「エナは、たんじょうびいつ?」
「あ、私は十一月十日。もうちょっと先だな」
「ふむ、エナのたんじょうび、おぼえた。あんしんして、わたしエナといっしょにおさけのむ」
「あ、ありがと。私も呑めるのかな……」
「あはは、絵菜の誕生日が来たら、またこの四人で来てみようか。それと、サークルの先輩方も首を長くして待ってると思うよ」
「そうだな、亜香里さん今日はバイトなんだけど、四人で集まること話したら、『私も行きたかったー!』って言ってたよ。慶太先輩や成瀬先輩も待ってるはずだ」
「ふむ、アカリとハス、いつもおさけのんでたのしそう。わたしもまざる」
「あ、あの二人のペースに混ざったら、大変なことになりそうだから、気をつけてね……あはは」
でも、先輩方もきっと僕たちとお酒を呑みたいと思っているはずだ。僕は楽しみになってきた。
そんな感じで、今日は四人で盛り上がることにした。みんなでお酒が呑める日が来るなんて、少しびっくりしていた僕だった。
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