笑われても、君が好き。大学生編

第46話「あの時のお礼」

　次の日、目を覚ますと目の前に絵菜の寝顔があった。

　時間は朝の七時くらい。ちょうどいいかと思って、絵菜を起こさないようにしてゆっくりと起き上がった。絵菜はすうすうと寝息を立てて寝ている。その寝顔が可愛かった。

　ダイニングに行き、電気をつけた後、朝ご飯の準備をしようと思った。ご飯は昨日のうちに炊いてあったので、あとお味噌汁とかあった方がいいかな。あ、卵焼きも作ってみるか。僕はキッチンに立つ。

　昨日は絵菜が積極的だった……って、あれ？　いつもそうかもしれない。おかしいな、男の僕がリードしてあげたいと思っているが、いつも絵菜に引っ張ってもらっている気がする。でもあまり深く考えない方がいいかなと思った。

　卵を割ってボウルに入れて、混ぜているその時だった。

「――団吉、起きてたのか……」

　後ろから声がした。見ると絵菜が眠そうな目をこすりながらこちらに来ていた。

「ああ、おはよう、ごめん起こしたかな」

「おはよ。ううん、私もちゃんと起きないと……あ、何か作ってるのか？」

「うん、お味噌汁と卵焼きを作ってみようと思って」

「あ、卵焼き、私も作ったことある」

「そっか、じゃあやってみる？」

「うん」

　僕は絵菜にボウルを手渡した。絵菜はカチャカチャと混ぜて、卵焼き器をあたためていた。僕は隣でお味噌汁を作る。わかめとじゃがいもくらいしか具にできそうなものがないけど、まぁいいか。

　絵菜がちょっとビクビクした感じで卵焼きを作っていく。「だ、大丈夫かな……」と心配そうな絵菜が可愛かった。

　しばらくして、お味噌汁と卵焼きが出来上がった。ご飯と一緒にテーブルに持って行って、朝ご飯を食べることにする。

「じゃあ食べようか、いただきます」

「いただきます……あ、お味噌汁美味しい」

「そっか、よかった。絵菜が作った卵焼きも美味しいよ」

「そ、そっか、よかった……ちょっと嬉しい」

「うんうん、なんか二人で色々できるのが嬉しくなるね」

「うん、一緒に暮らしたら毎日こんな感じなのか……私幸せすぎるかも」

「あはは、そうだね、僕も嬉しいよ。早くそうなるといいね」

　僕と絵菜の夢である、一緒に暮らすこと。社会人になったらその夢も叶うだろう。それまで頑張りたいなと思った。

　朝ご飯を食べ終わって、一緒に片づけをして、またのんびりしていた。

「今日は何しようか、絵菜、どこか行きたいところとかない？」

「うーん、出かけるのもいいけど、こうして団吉とのんびりするのもありだなと思って……難しいな」

「たしかに、しばらくのんびりしてから、また考えようか」

　絵菜が僕の隣で、僕の左肩に頭を乗せてきた。僕は絵菜の綺麗な金髪をなでてあげた。

　ピンポーン。

　しばらくのんびりしていると、インターホンが鳴った。あれ？　これは下ではなくて玄関？　誰だろうと思って出てみると――

「あ、日車さんおはようございますぅ。今よろしいですかぁ？」

　なんと、玄関先にいたのはお隣の沖田さんだった。

「あ、おはようございます。どうかしましたか？」

「すみません、この前のお礼をしたいと思って、クッキーを作ったのでぜひ食べていただきたいなと思いまして……って、あれ？」

　その時、沖田さんの視線が僕ではないことに気がついた。ん？　どうしたんだろうと思ったら――

「……団吉、殴られる覚悟はできてるか……？」

　ものすごく鋭く低い声が後ろから聞こえてきた。見ると絵菜が怖い顔で立っていた。

「ああ！！　い、いや、こちらは話してたお隣の沖田さんで、な、何もないからね！？」

「……あ、お、お隣さん……？」

「……あらまぁ！　もしかして、彼女さんですかぁ？　こ、これはご挨拶しないと……！　はじめまして、沖田あずさといいますぅ」

「あ、は、はじめまして、沢井絵菜といいます……」

「沢井さん……ですね、よろしくお願いしますぅ。あ、せっかくなので彼女さんにも食べていただきたいなぁ」

「あ、こ、ここで話すのもなんですし、沖田さんも上がってください」

「あ、すみません、それでは……おじゃましますぅ」

　そう言って沖田さんがうちに上がった。僕はアイスコーヒーを三人分用意して、テーブルに持って行った。

「はい、どうぞ」

「あ、ありがと」

「ありがとうございますぅ。そっか、日車さんは彼女さんがいらっしゃったのですね」

「あ、ま、まぁ、そんな感じで……あはは」

「いいですねぇ、あ、私も一応彼氏がいるんですよぉ。一つ年上なんですけど、友達の紹介で知り合いまして……って、自分で言うの恥ずかしいですねぇ」

　そう言って沖田さんがあははと笑った。そうか、沖田さんも彼氏さんがいたのか。それならば絵菜も安心するかな……って、なんの安心だろうか。

「あ、そうなんですね、彼氏さんと仲良しですか？」

「はい、まぁちょっとだけ住んでるところが遠いので、しょっちゅう会うわけにはいかないんですけどねぇ。お二人は仲良しですか？」

「ま、まぁ、けっこう仲良しで……って、恥ずかしいですね……」

「あはは、いいんですよぉ。あ、どうぞクッキー食べてもらえると嬉しいです」

　沖田さんがタッパーを開けた。おお、綺麗な焼き色のクッキーがたくさんあった。

「あ、ありがとうございます。じゃあ、いただきます……」

「ぜひぜひ、沢井さんもどうぞどうぞ」

「い、いただきます……あ、美味しい」

「ほんとだね、沖田さん、美味しいです。しっかり焼けてますね」

「ほんとですかぁ、よかったぁ。分量間違えたかなと思っていたのですが、なんとかなるもんですねぇ」

　ぶ、分量間違えたかもしれないのか。いや、でも本当に美味しい。そういえば以前絵菜とクッキーを作ったなと思い出した。

「お二人はお付き合いして長いんですかぁ？」

「あ、高校一年生の時からだから、五年目になりますね」

「わぁ！　それはそれは長いですねぇ！　いいなぁ、高校時代は楽しかったでしょう」

「そうですね、絵菜や友達がいてくれたから、楽しかったです」

「うんうん、いいですねぇ。私はまだお付き合いして一年だから、まだまだですねぇ、ぜひ長続きする秘訣を教えてもらいたいですねぇ」

　そんな感じで、沖田さんが僕と絵菜に色々と訊いてきた。な、なんかいつもこんな感じで訊かれている気がしたが、気にしたら負けかなと思っていた。