第45話「長い夜」

「「ごちそうさまでした」」


 夕飯を食べ終わって、お茶を飲んでいた。前も思ったが、やはりこうして夕飯を絵菜と二人で食べているというのは不思議な感じがする。実家に絵菜が泊まりに来ていた頃は、母さんや日向や真菜ちゃんがいたからな。当たり前なのかもしれない。


「絵菜、美味しかった?」

「うん、美味しかった……私でもできるんだなって」

「うんうん、これで絵菜も料理のレパートリーが一つ増えたね」

「ふふっ、嬉しい……あ、片付ける?」

「あ、そうだね、絵菜は座ってていいよ」

「ううん、私も手伝う」


 そう言って絵菜が食器を運んでくれた。僕はキッチンで洗い物をする。洗い終わったら絵菜が丁寧に拭いてくれた。食器乾燥機くらいほしくなるところだが、置くスペースも微妙だしそれは難しいだろうな。

 洗い物が終わった後、部屋でのんびりしていた。


「本当に絵菜と二人きりなんだね」

「うん、なんか不思議な感じがする……初めて団吉の家に泊まりに行った時のこと思い出してた」

「ああ、あれはバレンタインデーの前だったね、日向が勝手に決めたんだけど……」

「うん、あの時も嬉しかった……夜も団吉と一緒にいれるっていうのが」

「あはは、僕もなんかドキドキしてたよ。絵菜が積極的で……あれ? 今も変わらないのかな?」

「ふふっ、あ、ちょっとやりたいことがある……団吉、少し脚広げて座って」


 ん? 脚を広げて座る……どういうことだろうかと思ったが、とりあえず絵菜が言うように広げてみた……と思ったら、絵菜がささっと僕のところへやってきて、脚の間にちょこんと僕に背を向けて座った。


「あ、え、絵菜……?」

「こうしたら、団吉に包んでもらえそうな気がして」


 ちょっと横を向いて言う絵菜だった。か、かわ……っ! 僕は胸がドキドキしてきた。


「あ、そ、そっか、じゃあ……」


 僕は絵菜を背中からぎゅっと包み込むようにして抱きしめた。絵菜の金髪が目の前だ。絵菜からふわっといいにおいもする……はい神様、僕はいつ捕まるのでしょうか。


「あ、絵菜の金髪、生え際がちょっとだけ黒くなってるね」

「う、うん、また美容室に行こうかなって思ってる」

「そっか、うん、いいんじゃないかな。またショートカットにする?」

「うーん、今回は揃えるくらいにしようかなって。団吉は長い髪と短い髪、どっちが好き?」

「うーん、絵菜はどっちも似合うからなぁ……でも、ショートカットの絵菜を見た時はすごくドキドキしたよ」

「そっか、そう言われると切ってもいいのかなって思っちゃうな」


 絵菜は何度かショートカットにしたことがある。今は肩までの長さになっているが、ショートカットの絵菜も可愛かった。僕に見てもらいたくてうちまで来たんだよな。


「団吉は、髪を染めてみたりしないのか?」

「うーん、僕には似合わないんじゃないかなって思ってね……茶髪くらいならいけるのかなぁ」

「ふふっ、大丈夫、団吉ならどんな髪型でもカッコいい」

「そ、そっか、ありがとう……と言うのは変なのかな」


 僕がそう言って笑うと、絵菜も笑っていた。


「あ、絵菜、お風呂入る? なんか今日も暑いからシャワーでもいいかな?」

「あ、うん、団吉、一緒に入る?」

「ああ、なるほど一緒に……え!? あ、その……ゆ、湯舟にお湯ためないから、ちょっと入りにくいかな……ま、また今度にしようか」

「そっか、じゃあじゃんけんしよう」


 絵菜とじゃんけんをして、勝った僕が先にお風呂に入ることになった。こういうところでのじゃんけんは勝てるのだな。肝心なところでは全くダメだけど。

 脱衣所へ行って、服を脱いで、シャワーをあびながらふと考えてしまった。


(い、一緒にお風呂に入るって、いいのかな……なんかすごくドキドキして、下の方が反応してきそうな……それを見られるのも恥ずかしいというか……あれ? もう見られてるからいいのかな)


 お風呂に入りながらさらに恥ずかしくなってしまう僕だった。



 * * *



 絵菜もお風呂に入った後、またのんびりとしていた。


「そういえば団吉の家、テレビがないんだな」

「ああ、買うタイミングを失っちゃってね……いつかほしいと思っているけど、今じゃなくてもいいかなと」

「そっか、今はネットでなんでも観れるもんな」

「うん、パソコンやタブレットでよくお笑いの動画とか観てるよ。絵菜は動画とか観ることある?」

「私は音楽のプロモーションビデオとかよく観てる。JEWELSが一発撮りに挑戦したやつとか」

「ああ、あの企画人気だよね。あ、JEWELSで思い出した、東城とうじょうさんも今頃頑張ってるのかなぁ」

「ああ、東城なら大丈夫。きっといいアイドルになってる」

「そうだね、またみんなでライブに行こうか。きっと東城さんも嬉しいと思うよ」


 僕たちが言った東城さんとは、東城とうじょう麻里奈まりな。メロディスターズというアイドルグループに所属している、可愛い女性だ。たしか中学生の頃からアイドル活動をしているので、もう四、五年は経っているのか。すごいなと思った。


「今頃みんな、それぞれ頑張ってるんだよな……」

「そうだね、きっと頑張ってると思うよ。あ、相原くんは今年の夏にオーストラリアに行くんだって」

「そっか、ジェシカさんに会いに行くんだな。きっとジェシカさんも嬉しいと思う」

「うん、他のみんなともまた会えるといいね」


 高校時代のみんなも、今頃勉強やバイトを頑張っているはず。また久しぶりに会って、近況報告をするのもいいな。


「あ、ちょっと早いけど、寝室行く?」

「うん、行く」


 僕は寝室の電気をつけて、ダイニングの電気を消した。一応お布団を用意したのだが、きっと絵菜はこちらでは寝てくれそうにないな……と思っていたその時――


「……え? あ、え、絵菜――」


 僕は抱きついてきた絵菜に押されて、ベッドに倒れ込んだ。そのまま絵菜が上に乗る。絵菜のお尻がちょうど僕の下の方と重なるようになり……って、えええ!? こ、これは……!?


「え、絵菜……?」

「……ごめん、押し倒したりして。でも、団吉と……」


 絵菜がそう言ってパジャマを脱いだ。ああ! え、絵菜の綺麗な胸が見える……! こ、これはいいのでしょうか……!?


「……団吉、私のこと、好き?」

「……う、うん、大好きだよ……どうしよう、すごくドキドキしてる……」

「……大好きな団吉と、えっちしたい……」


 夜も更けていく。その日の夜は、長いものとなった。

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