第43話「寂しい」
土日をのんびりと実家で過ごすことにした僕は、文字通りのんびりしていた。
昨日の土曜日は日向の誕生日でみんなが集まったし、楽しい日となった。何度も思うが日向も十八歳。大きくなったものだ。自分が二十歳だから当たり前ではあるが。
そして今日ものんびり。ねこじゃらしを取り出してみるくと遊んでいた。これも当たり前だがみるくも大きくなった。でも「みゃー」と鳴きながら飛びついているのを見ると、変わらないところもあるなと思った。
「団吉、一人暮らしはどう? 足りないものとかないかしら?」
「ああ、とりあえずなんとかなってるかな。足りないものは今のところないかな……ありがとう」
「よかったわ。まぁしっかりしてる団吉なら大丈夫だろうとは思ったわ。何かあったら何でも言いなさいよ」
「お兄ちゃんが一人暮らしを満喫してるねぇ。あ、変な女の人連れ込んでないでしょうね!?」
「な、なんでそうなるんだよ、それはないよ。あ、そういえばこの前お隣さんが鍵をなくして困ってたからうちに来てもらったけど……」
「あらあら、鍵をなくすのは怖いわね、団吉も気をつけるのよ」
「うん、僕も気をつけておかないといけないなぁと思ったよ」
実家のように他の人がいるのと違って、一人だと気をつけておかないといけないことも多い。ふと沖田さんのことを思い出していた。
「お、お隣さんって、女の人!? こ、これは絵菜さんより先に私がちゃんと確認しておかないと……!」
「だ、大丈夫だよ、女の人だけど何もないよ。ちゃんと確認というのがよく分からないけど……」
「うーん、お兄ちゃん、なぜか女の人が寄ってくるからなぁ……あ、ねえねえ、今日帰るとき一緒に行ってもいいかな?」
「ん? ああ、いいけど」
「やったー! お兄ちゃん家に遊びに行けるー!」
「ふふふ、日向も嬉しそうね。団吉がいなくなってから、なんか夜落ち着かないもんねぇ」
「お、お母さん、それは言っちゃダメー!」
両手をブンブンと振る日向を見て、僕と母さんは笑った。まぁこれまでと違う生活なのだ。家族が思うことはそれぞれあるということなのだろう。
* * *
それからしばらくして、僕は家に戻ることにした。みるくをよしよしとなでて、母さんに見送られて僕は家へ向かう……のだが、日向がしっかりと僕の左手を握っているのはどういうことだろうか。前から変わらないとはいえ、もう高校三年生なんだぞ……こうしていると完全にカップルなのよ。
「……チッ」
(……今、通りすがりの男の人に舌打ちされなかった……!? すみませんこれは妹です、お許しを……!)
妹であることを証明できず悲しい思いをしている僕だった。
家に戻り、日向に入るように促した。「おじゃましまーす!」と言って元気な日向は、キョロキョロと部屋を見回していた。
「ん? どうかした?」
「あ、いや、だいぶ片付いたなーと思ってね」
「ああ、頑張ったよ。段ボールもほとんど開けたし、収納するところも決めてうまく片付けられたんじゃないかな」
「へぇー、このエアコンの下の大きな棚、便利だねー」
「うん、いい感じに収納することができたから、いいんじゃないかな。ここに観葉植物とか置いてみようかと思って。あ、ちょっと待って、飲み物用意するよ」
僕はそう言ってキッチンへと行った。えっと今は何があったっけ……アイスコーヒーくらいかなと思っていたその時、後ろから突然ぎゅっと抱きつかれた。もちろん日向だ。
「え、あ、日向……?」
「……ごめん、お兄ちゃんに久しぶりに会って、嬉しくなってつい……」
「あ、そ、そっか、もしかして日向、寂しいのか……?」
「そ、そんなこと……ないもん……」
ぎゅっと抱きつく腕に力が入る。当たりなのかもしれない。これまで僕と日向はずっと一緒に暮らしてきて、ずっと一緒に成長してきた。そして突然僕がいなくなったのだ。寂しいと思うのも仕方ない。夜によく日向からRINEが飛んでくるのは、寂しい気持ちがあったからなのだろうな。
僕は日向の方を向き、そっと日向を抱きしめてあげた。
「……日向は大きくなったけど、そういうところ変わらないなぁ。僕じゃなくても長谷川くんもいるし、友達だっているだろ?」
「……そうなんだけど、お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん……それは変わらないから……」
「まぁそうなんだけど、ほら、そんな寂しそうな顔しないで。日向もいつでも遊びに来ていいから。ちょっと離れてるだけだよ」
日向の目に涙が浮かんでいたので、僕はそっと涙を拭いてあげた……って、日向も女の子から大人の女性になりつつあるな……高校生になっても背はあまり伸びなかったが、なんだか雰囲気が……おかしいな、背が小さくてショートカットでなんか犬っぽい感じは変わらないのにな……じっと見つめられると妙にドキドキしてしまう……って、待て待て、目の前にいるのは妹だ、変な気を起こすのではないよ自分。
安心してほしい、日向と何かがあるとかそんなことは決してない。何かってなんだろうか。
「……そのうち、お兄ちゃん家に泊まりに来てもいい?」
「ん? ああ、いいよ。そうだ、日向や絵菜が来た時のために、お布団を用意しておいた方がいいな」
「ありがとう……あ、やっぱり絵菜さんを連れ込む気だねー、まぁお兄ちゃんも大人だから仕方ないか」
「え!? あ、ま、まぁ、絵菜も同じようなこと言っててね……なんだろう、妙に恥ずかしいのだが」
「ふーん、絵菜さんと私はいいけど、他の女の人はダメだからね! 絵菜さんに言いつけるよ!」
「だ、だからなんでそうなるんだよ、何もないから大丈夫だよ……」
う、うーん、日向や絵菜はまだしも、他の女の人がお泊まりするなんて考えると、後で絵菜にぶん殴られそうなので、絶対にやめておかねば……。
「……あ、日向に勉強を教えてあげるのを忘れてた」
「お、お兄ちゃん! それは忘れたままで大丈夫! ほ、ほらほら、私に何か飲み物くれるんでしょ?」
「お、おう、急に話を戻しやがったな……アイスコーヒーしかないけどいいか?」
「うん! お兄ちゃん家でのんびりしてから帰ろーっと!」
急に元気になる日向だった。まぁ元気な方が日向らしくていいか。
自分の妹が大きくなっているのを一番喜んでいるのは、僕なのかもしれない。
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