第42話「お祝い」

 六月二十一日、日向の誕生日がやって来た。

 今日は土曜日ということでバイトがあるが、帰りに舞衣子ちゃんと一緒に実家に行こうと思っている。みんな集まってお祝いするのだ。そして僕はそのまま実家に泊まるつもりでいる。たまにはいいかなと思った。

 三時までバイトを頑張って、舞衣子ちゃんと一緒に上がることにした。午前中は小雨が降っていたが今は降っていないみたいだ。僕たちは一緒に帰る。


「団吉さん、実家に帰るの久しぶり……?」

「ああ、そういえば今月はまだ帰ってなかったなぁ。一人暮らしを満喫してるのかも」

「そっか、うん、いいと思う……でもたまには帰らないと日向ちゃんが寂しいと思う……」

「あはは、そうだね、よく日向からはRINEが飛んでくるよ。あいつもまだまだ慣れないみたいで」


 そんなことを話しながら、僕の家まで帰って来た。玄関を開けて「ただいまー」と言うと、奥からパタパタと足音を立ててみるくを抱いた日向がやって来た。


「お兄ちゃんおかえりー、あ、舞衣子ちゃんこんにちは!」

「こんにちは……あ、みるくちゃん可愛い……靴がいっぱいあるね」

「うん、絵菜さんと真菜ちゃんと健斗くんが来てるよー。さあさあ、二人ともぼーっとしてないで上がってー」


 僕も舞衣子ちゃんに上がるように促すと、舞衣子ちゃんは「お、おじゃまします……」と小さな声で言った。リビングへ行くとみんながいた。


「あら、団吉おかえり。舞衣子ちゃんもお疲れさまね」

「こ、こんにちは、おじゃまします……」

「ただいま、みんな来てたんだね、ちょっと待たせちゃったかな」

「団吉も舞衣子ちゃんもお疲れさま、ううん、私たちもさっき来たところだから」

「お兄様、舞衣子ちゃん、お疲れさまです。お二人はバイト頑張ってて偉いですね!」

「お、お疲れさまです! そういえばお兄さんは一人暮らしを始めたと聞きました。どんな感じですか?」

「ああ、始める前はワクワクとドキドキって感じだったけど、いざやってみるとなんとかなるもんだなって思ってるよ」

「ふふふ、団吉も頑張ってるわね、今日は泊まっていくって言ってたわね」

「うん、明日は何もないし、今日はここでゆっくりしようかなと」

「やったー! 明日までお兄ちゃんがいるー! って、今日はみんなうちに集まったけど、何かあったっけ?」


 日向の頭の上にハテナが浮かんでいそうだった。


「え!? 日向まさか忘れたのか? 今日は日向の誕生日じゃないか、だからみんな集まったんだよ」

「……ああ! そうだった! 今日は二十一日だね! ヤバい、お兄ちゃんと同じくらい忘れっぽくなってるー」


 そう言って日向が舌を出したので、みんな笑った。


「お、お兄ちゃんと同じくらいというのが気になるが……まぁいいか。はい日向、誕生日おめでとう。これプレゼント。僕と絵菜と真菜ちゃんと舞衣子ちゃんからだよ」

「ひ、日向ちゃん、誕生日おめでと」

「日向ちゃん、誕生日おめでとう。今年もみんなで選んでみたよ」

「日向ちゃん、誕生日おめでと……よかったね」

「……ええ!? あ、ありがとう! 開けてみてもいいかな?」

「うん、ぜひぜひ」

「なんだろう……わわっ、これは……ワイヤレスイヤホン!?」

「そうそう、スマホに接続して使うと便利なんじゃないかなって思って」

「そっか……ありがとう、大切に使わせてもらうね」

「あ、日向、僕からも誕生日プレゼントがある……はい、誕生日おめでとう」


 長谷川くんが恥ずかしそうにプレゼントを差し出した。


「……ええ!? あ、ありがとう、これも開けてみてもいいかな?」

「う、うん、ぜひ」

「なんだろう……わわっ、リップ!?」

「う、うん、ちょっといいものみたい。僕はよく分からなかったから、店員さんに訊いたんだけど恥ずかしかった……」

「そ、そっか、ほんとにありがとう、健斗くんの気持ちが嬉しい」


 嬉しそうな日向を見て、僕たちも嬉しい気持ちになっていた。こうしてみんなに誕生日を祝ってもらえるのは嬉しいだろう。


「ふふふ、よかったわね日向。お母さんからもプレゼントがあります……って、いつも通りケーキなので今からみんなで食べましょうか」


 母さんがケーキを持って来た。


「わぁ! お母さんもありがとう! あ、美味しそうなショートケーキ!」

「さ、さすが日向は食べ物に目がないな……これで日向も十八歳か、大きくなったなぁ」

「ふふっ、団吉、なんだかお兄ちゃんじゃなくてお父さんみたいだな」

「まあまあ、ほんとですね、お兄様は日向ちゃんのお父様でもありますね」

「団吉さんは偉いよね、日向ちゃんの一番の理解者というか……」

「お、お兄さんからお父さんのオーラが見えます! 僕も負けないようにしないとな……」

「え、あ、そ、そうかな、そう言われると恥ずかしいというか……」


 なんだろう、すごく恥ずかしくなってきて俯くと、みんな笑っていた。う、うう、結局こうなってしまうのか……。

 でも、日向の兄であると同時に、父親の代わりみたいな気分であることは間違いない。日向も小さい頃に父親を亡くしたのだ。父親からの愛情をあまり受けることができなかった。その分僕が支えてあげることができれば……って、これは考えすぎだろうか。


「ふふふ、日向もみんなに愛されていて、お母さん嬉しいわー。十八歳になるなんてちょっとびっくりだけどねー。あ、あんまり言うとおばさんっぽいわね、いやねー」

「お母さん、ケーキ美味しい! ほんと自分でもこんなに大きくなったのかとか、あまり実感はないんだけどねー」

「まぁそんなもんだ。そういえば青桜高校はもうすぐテストじゃないか? ちゃんと勉強はしているんだ――」

「お、お兄ちゃん! 勉強の話はやめよう! あああせっかくの楽しい雰囲気が……」

「なんかその様子だとまた怪しいみたいだな、安心しろ、明日までいるから教えてあげるからな」

「う、ううー、お兄ちゃんが勉強しろって言う……バカーアホー」


 ぶーぶー文句を言ってポカポカと僕を叩く日向だった。それを見てみんな笑った。

 まぁそれはいいとして、日向も十八歳。大人の女性に近づいている。背はあまり変わらないが、顔つきはたしかに大人っぽくなっているような……その成長も僕は嬉しかった。

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