第37話「三年生の試合」

 六月最初の週の土曜日、みんなで長谷川くんと日向のサッカーの試合の応援に行くことにしていた。

 二人とも三年生で最後の大会となる。これまで頑張ってきたことを思い出して、力を十分に発揮してもらいたいなと思った。

 今日は火野たちが試合を行った競技場で行われるので、駅前に絵菜、真菜ちゃん、火野、高梨さん、中川くんのメンバーで集まった。そこから電車に乗って、しばらく揺られて競技場の最寄り駅に着いた。そこから歩いて行く。


「おー、ここ来たの久しぶりだなー、俺も試合したの思い出すぜ」

「ああ、久しぶりだな! なんかあの時を思い出すというか」

「そーだよねー、陽くんも中川くんもカッコよかったー、今度は長谷川くんたちが頑張る番だねぇ」


 楽しそうに話す火野と中川くんと高梨さんだった。


「お兄様、サッカー部も県大会に行けたとのことで、私嬉しいです。長谷川くんも日向ちゃんも、頑張ってるんだなぁって」

「ほんとだね、あの二人が部活動やるって聞いた時は大丈夫かなと思ったけど、ここまで頑張ってきたからね、悔いのない試合をしてもらいたいよ」

「ふふっ、団吉はいつも日向ちゃんの心配してたな」

「あ、そ、そうだっけ、まぁ、日向もマネージャーとして元気に頑張っていたみたいだから、安心したよ」


 競技場の二階に観客席があるので、僕たちは真ん中あたりに座った。観客も多いみたいだ。しばらくみんなで話していると、選手が出てきた。あれは青桜高校っぽいな、長谷川くんはどこかなと探していると、


「お、長谷川くんは五番かな、あそこでアップしてるぜ」

「そうみたいだな、なるほど、右サイドバックと聞いていたが、どうやら今日もそのポジションみたいだな」


 と、火野と中川くんが言った。ほんとだ、五番の選手が長谷川くんのようだ。


「なるほどねー、長谷川くんは五番か、よーしここはひとつ……」


 高梨さんがスッと立ち上がって、


「長谷川くーーーーん! 頑張ってーーーー!!」


 と、大きな声を出した。長谷川くんにも聞こえたようで、右手をブンブンと振っていた。僕たちも手を振る。

 試合が始まった。相手は県北部の高校のようだ。やはり県大会まで勝ち上がってきたということで、相手も強いのだろう。開始から相手の攻めに押し込まれるケースが多く見られた。あっ、カウンターを食らいそうになって危ない! と思っていたその時、戻っていた長谷川くんが相手のドリブルに対応して大きく前方にクリアした。よかった。


「おお、長谷川くんいいな! よく戻ったぜ」

「ああ、この三年間で体力もスピードも、しっかりとついたみたいだな!」


 火野と中川くんも高校生の頃を思い出しているのだろう。応援に力が入った。


「お兄様、お姉ちゃん、ドキドキしますね!」

「ああ、やっぱりサッカーって観るのも面白いな……」

「そうだね、一瞬の隙が命取りなんだろうなぁ」


 前半は点がどちらも入らず、後半になるとまた相手の攻めが強くなってきた。パスカットされてカウンターを食らい、右から上がったボールに中央の相手選手が反応してシュート。決められてしまった。

 その後すぐにこちらも反撃。ドリブルで上がった長谷川くんが右前方にパス。その後フォワードの選手がシュートを放つと相手キーパーがはじいた。そのこぼれ球をなんとか押し込んで同点とした。

 一対一のまま後半も終わろうとしている。これは決着がつかないか……と思っていたその時、わずかな隙を突かれて相手選手がフリーとなり、シュートを放つ。無念にもキーパーの股の間をくぐりボールはゴールネットに吸い込まれてしまった。

 そして試合が終わる。残念ながら青桜高校は負けてしまった。相手選手たちが喜ぶ姿、青桜高校の選手が落ち込む姿が見られた。


「くそー、負けちまったか……でもよく頑張ったな、ちょっと長谷川くんと日向ちゃんに会えねぇかな」

「そうだね、下に行ったらみんな戻って来るんじゃないかな」


 僕たちは一階へと移動することにした。しばらく待っていると、青桜高校のメンバーがやって来た。長谷川くんと日向もいる。二人は僕たちを見つけて、こちらに来た……のだが、少し下を向いている。


「長谷川くん、日向ちゃん、お疲れさま。二人とも頑張ったみてぇだな」

「お疲れさま、俺らも見てたよ。いい試合を見せてもらったよ」

「……うう、負けてしまいました……全国行こうってみんなで言ってたのに……あそこで僕がもっと戻れていれば……」

「いや、長谷川くんのせいじゃねぇ、相手もよく攻めたし、長谷川くんたちもよく守った。点はとられちまったけど、みんなベストを尽くしたよ」

「ああ、あんまりしょんぼりすることないよ。よく頑張ったんだ、いい経験をしたんだよ」

「……うう、ありがとうございます……!」


 長谷川くんが涙を拭いて、火野と中川くんと握手をしていた。たしかにみんなベストを尽くした結果だ。落ち込む必要はない……と思っていたら、下を向いて固まって動かない日向がいた。


「ひ、日向……? お疲れさま。日向もよく頑張ったな」

「……みんな頑張ってた……全国行こうって、みんな言ってた……それなのに、どうしよう……これで終わりって思うと、涙が……止まら……お兄ぢゃ……ふええええ」


 日向がそう言って僕にぎゅっと抱きついてきた。お、おい、みんな見て……まぁいいか。日向もマネージャーとして頑張ったんだ。悔しい気持ちは一緒だろう。


「……日向もみんなを支えていたよな。ほら、僕に泣きつくんじゃなくて、長谷川くんにお疲れさまって言わないと」

「……ぐすん、健斗くん、お疲れさま……健斗くんの方が悔しいはずなのに、私涙が……止まらない……」

「……日向、ありがとう、日向がそばにいてくれたから、僕も頑張れたよ」


 日向が今度は長谷川くんにぎゅっと抱きついた。長谷川くんは日向の背中をさすってあげていた。


「いいねぇ、負けてしまったけど、みんな頑張る姿を見てると、お姉さんもちょっとこみ上げるものがあるねぇ」

「は、長谷川くん、日向ちゃん、お疲れさま……二人とも頑張ったな」

「長谷川くん、日向ちゃん、お疲れさまでした。みんなで頑張ってよかったね」

「……みなさんありがとうございます。僕も日向も、頑張ってよかったなって思います」

「……ありがとうございます。私もしっかりしなくちゃって思ったけど、これで最後だと思うと寂しくて……でも、泣いたらなんかスッキリしました」


 そう言って日向が笑顔を見せたので、みんな笑った。

 高校三年生となると、こうして一つずつ終わっていくものがある。寂しい気持ちもあるだろうが、みんないい経験をしているのだ。それを糧にして、これから先も頑張ってほしいなと思った。

 

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