第36話「午後のデート」
今年も梅雨になった。
雨の日が多くなり、私はちょっとどんよりとした気持ちになる。でも、今日は午後から団吉とデートする予定になっている。それを楽しみに午前中頑張って授業を受けた。
団吉は今日は創立記念日で大学が休みだと言っていた。私も午前中で学校は終わるので、それならばデートをしようかと団吉が言ってくれたのだ。
今週はちょっと会えない日が多かったからな……当たり前のことだが、学校が違うとなかなか平日に会うことが難しい。高校時代は毎日会っていたので、その点は高校時代の方がよかったなと思う。いや、今が全然楽しくないとか、そういうわけではないのだが。
午前中の授業が終わって、急いでショッピングモールへ移動する。団吉に『終わったから今から行く』とRINEを送っておいた。団吉から『分かった、僕も行くね』と返事が来た。もうすぐ団吉と会えると思うと、胸が高鳴った。そう感じるのは単純な奴だろうか。
ショッピングモールに着くと、入口のところに団吉がいるのが見えた。
「ご、ごめん、待たせたかな」
「ううん、大丈夫だよ。絵菜は学校お疲れさま」
「ありがと。団吉は何してたんだ?」
「まだ開けてない段ボールの整理をしてたよ。だいぶ部屋の中はスッキリしてきたんじゃないかな」
「そっか、また遊びに行ってもいいか?」
「うん、もちろん。絵菜はいつでも来てくれていいからね。絵菜はお昼まだだよね?」
「あ、うん、まだ食べてない」
「そしたらまたラーメン屋さんに行ってみない? まだまだ食べてないところがあるなと思って」
「うん、分かった、何にしようかな」
私たちはラーメン屋さんが集まるエリアへと移動した。ここは『ラーメン街道』といって、全国各地のラーメン屋さんが集まるところとなっている。入口で団吉と話して、今日は札幌味噌ラーメンのお店に行ってみようということになった。お昼ということで人はそこそこいたが、少し待つと席に案内された。
「なんとか座れてよかったね」
「ああ、やっぱりお昼だから人は多いな」
「うん、あ、そうだ、絵菜に渡したいものがあったんだった」
団吉がそう言って鞄を漁っている。なんだろうと思って待っていると、
「はい、これ、僕の家の合鍵。絵菜にはいつでも来てもらいたいから、渡しておこうと思って」
と、団吉が鍵を渡してきた。
「ああ、なるほど……って、え!? か、鍵!? い、いいのか……?」
「うん、合鍵は二つあるから、一つは実家に置いておいて、もう一つは絵菜に渡そうって決めてたんだ」
「そ、そっか……ありがと。じゃあまた行かせてもらう」
私は家の鍵に団吉の家の鍵をつけておくことにした。そうか、私にいつでも来てほしいということか、すごく嬉しい気持ちになるのはやはり単純な奴なのかな。
ラーメンが運ばれてきた。コーンやバターなどがのっていて美味しそうだ。
「いただきます……あ、美味しい」
「いただきます……ほんとだね、麺も太くて、食べ応えがありそうだね」
「うん、スープも美味しい……団吉はラーメンは何味が好き?」
「うーん、どれも美味しいけど、味噌はけっこう好きな方かもしれないなぁ。絵菜は?」
「うーん、味噌としょうゆかな……他の味も美味しいけど」
「うんうん、どれも美味しくて迷っちゃうよね」
ラーメンが美味しいのも、きっと団吉と一緒に食べているからだ。これからも一緒に美味しいものを食べたいなと思った私だった。
「美味しかったね、この後どこに行こうか?」
「そうだな、うーん、今日は雨だから外でのんびりというわけにもいかないな……」
「そうだね、あ、よかったらこの近くのカラオケ屋に二人で行ってみない? たまにはいいかなと思って」
「あ、うん、分かった」
私たちはカラオケ屋へと移動した。そういえば火野や優子と一緒に四人で来たことはあるが、二人でカラオケに行くというのは初めてだ。ちょっとだけ不思議な感じがした。
平日ということで部屋も空いていたようで、私たちは部屋に入った。
「なんだか火野たちと初めてカラオケに行った時のこと思い出したよ」
「ああ、あれも楽しかった。団吉がカッコよくて、ドキドキした……」
「あはは、僕も絵菜が隣に座った時とか、すごくドキドキしてたよ」
私は今日も団吉の隣に座った。ちょっとくらいいかな……と思って、団吉にぴたっとくっついてみた。
「せっかく来たし歌おうか、何にしようかな……絵菜はこの中で知ってる曲ない?」
「ん? ああ、これとか知ってるかも……」
「ああ、これだね、分かった。じゃあこれ歌おうかな」
団吉がそう言ってマイクを持った。そういえば初めてみんなでカラオケに行った時も、こうしてお互い知ってる曲がないか訊いていたなと思い出した。
団吉がバラード曲をゆっくりと歌う。団吉は可愛いから……かどうかは分からないが、男の人にしては歌声も高い気がする。優しく最後まで歌い上げていた。
「よ、よかった。団吉可愛いから、ちゃんと高音が出るんだな」
「え、あ、ありがとう、そんなに可愛いって関係あるのかな……ま、まぁいいか」
「ふふっ、慌てる団吉も可愛い。次は私か……この中で知ってる曲ないか?」
「ああ、JEWELSの曲だね、だいたい知ってるけど……これとか聴きたいかも」
そう言って団吉が指差した。団吉が選んだのはJEWELSのバラード曲だった。私はその曲を入れて、ゆっくりと歌い出す。たぶん間違えてはいないと思うが、どうだろうか。
「絵菜、上手だね。昔から優しくて聴き入ってしまう歌声なのは変わらないね」
「あ、ありがと。そう言われると恥ずかしいな……なぁ、また今度みんなでカラオケ行くのも楽しそうだな」
「ああ、そうだね、またみんなで行こうか。それと、僕はこうやって絵菜と二人で行くのも好きだよ」
「そ、そっか、うん、私もいいなって思った。じゃあ、今日の記念に……」
私はそう言って、団吉の頬に軽くキスをした。
「あ、え、あ、絵菜……?」
「ふふっ、赤くなってる団吉が可愛い。もっと歌おうか」
「そ、そうだね、あ、履歴見てたらこれ懐かしいな、これにしようかな」
そんな感じで、団吉とのデートを楽しむ私だった。私は団吉と一緒なら何をしても楽しい。こうやって二人でたくさんの思い出を作っていきたい。
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