第31話「高校生の日常」

「日向ちゃん、一緒に食べよう?」

「ひなっちー、私も一緒にいいー?」


 ある日の昼休み、私、日車日向は、真菜ちゃんと梨夏ちゃんに声をかけられた。三年生になってまた一緒のクラスになり、こうして一緒にご飯を食べることが多くなった。


「あ、うん、二人ともそこに座ってー」

「ありがとう、じゃあちょっと席を借りて……」

「ありがとー! あ、ひなっちとまなっぺ、お弁当なんだねー、自分で作ったの?」

「あ、いや、今日はお母さんが作ってくれたよ」

「私は今日は作ってみたよ、お姉ちゃんとお母さんのも」

「おおー! まなっぺすごーい! わぁ、なんか可愛いお弁当ー!」

「わわっ、ほんとだ、すごい! 真菜ちゃんさすがだねー」

「ううん、そんなことないよ、残り物が多くなっちゃった」


 真菜ちゃんはそんなことないと言ったが、本当に可愛くて女の子らしいお弁当だった。私もまた作るようにしようかな。


「すごいねー、私なんて今日もパンだよー、まぁ美味しいからいいんだけど!」

「あはは、梨夏ちゃんはメロンパンが好きだよねー」

「そーそー、私の半分はメロンパンでできてるかも!」


 梨夏ちゃんがメロンパンを顔の横に持ってきたので、私と真菜ちゃんは笑った。


「あ、そういえば梨夏ちゃんはこの前、みんなの前にまた立ってたね、すごいねー」

「まあまあ、ほんとだね、梨夏ちゃんがどんどん有名人になっていくね!」

「えへへー、まぁ、しょーりんの補佐なんだけどねー、私なりに頑張れてるからいいかなーと!」


 しょーりんというのは黒岩くろいわ祥吾しょうごくん。青桜高校の生徒会長を務めている。梨夏ちゃんも書記として立派に生徒会のお仕事をこなしている。


「そうだ、ひなっちもまなっぺも、もうインターハイが始まってるのかな? 最後の大会なんだよね?」

「あ、うん、サッカー部はこの前予選が始まったよ。みんな頑張っているところで」

「バスケ部も予選が始まったよ、みんな全国目指して頑張ってるよ」

「そっかー、私は部活に入ったことがないから、なんだかすごいなーって思っちゃうなー」


 そう、私たち三年生の最後の大会が始まったのだ。健斗くんもみんなも、全国に行くために一生懸命頑張っている。私と真菜ちゃんはそれぞれサッカー部とバスケ部のマネージャーとしてみんなを支えている。全国に行けるといいな。


「いやいや、梨夏ちゃんも生徒会で頑張ってるからすごいんだよー。あ、生徒会といえば、お兄ちゃんが副会長になった時も忘れられないなぁ」

「まあまあ、お兄様の立派な演説も前に聞かせてもらったね、懐かしいなぁ」

「おお、だんちゃんかー、うんうん、だんちゃんにはたくさんお世話になりました! あ、私の敬語、またちょっとマシになってきたね! だんちゃんに聞いてもらいたいなー」


 梨夏ちゃんがそう言ってドヤ顔をしたので、また笑った。


「あはは、お兄ちゃんにできるのかちょっと不安だったんだけどねー……って、あれ?」

「ん? 日向ちゃん、どうかした?」

「あ、いや、なんか視線を感じるんだけど、気のせいかな……」


 なんかさっきからこちらを見ている人がいるような、そんな気がしたが、周りを見てもクラスメイトがそれぞれ談笑している姿しかなく、私の気のせいかな……と思ったその時だった。


「……あ!」


 教室の入り口から、こちらを見ている人と目が合った。その人は私と目が合うと、サッと柱の陰に隠れたようだ。

 私は立ち上がり、教室の入り口の方へ行く。逃げられるかなと思ったが、目が合ったその人はまだいるようだ。


「こんにちは、あなた、康介くんだよね」

「――っ!!」


 目が合った人に話しかけてみた。そう、あの九十九さんの弟の康介くんだ。この前ビデオ通話した時に康介くんが青桜高校に入ったから、そのうち私のところに行くかもしれないと聞いていた。私に会いに来てくれたのかな。


「日向ちゃん、急にどうしたの……って、あれ?」

「ひなっちー、どうしたのー……って、あれ?」


 真菜ちゃんと梨夏ちゃんもやって来た。三人で康介くんを囲む形となった。康介くんは顔を真っ赤にして俯いていた。


「お姉ちゃんの九十九さんから聞いてるよ、康介くんが青桜高校に入ったって。私に会いに来てくれたんだよね?」

「なっ!? あ、そ、そうなのか……いや、まぁ……」

「まあまあ、誰かと思ったら九十九さんの弟さんの……!」

「ええー! れいれいの、弟くんー!? そーいえば目元とか雰囲気がれいれいに似ているような……」


 梨夏ちゃんが手を伸ばして康介くんの前髪を上げた。切れ長の目はお姉ちゃんにそっくりだ。康介くんは「なっ!? や、やめろ……!」と言っていた。


「あはは、康介くん、そんなに緊張しなくていいよー」

「あ、い、いや、あいつの妹が同じ高校って聞いて、そういえばと思って来てみただけ……別に会いたいとかそんなんじゃないし……」

「んんー? あの綺麗でおしとやかなれいれいの弟くんにしては、なんだか生意気だなぁー、そんな子にはお仕置きだー!」


 そう言って梨夏ちゃんが康介くんの右腕に抱きついた。


「なっ、ななな!? や、やめ……!!」

「あはは、康介くん、赤くなってるー! 可愛いなぁ」

「まあまあ、ふふふ、康介くんも男の子だね、顔に出てるよ」

「なっ!? い、いや、なんでもな……」


 右腕に抱きついた梨夏ちゃんが、康介くんの頭をよしよしとなでている。私と真菜ちゃんも康介くんの手をとったりしていた。まぁ私たちよりは背が高いのだが。お姉ちゃん以外の女の人に慣れていないのかな、可愛い感じがした。


「あはは、そういえば康介くん、一年五組だよね、遊びに行くねー」

「まあまあ、いいこと聞いた! 私も遊びに行くね」

「よーしよしよし、れいれいの弟くんは康介くんというのか……じゃあ『こーしゃん』だね! 私も遊びに行くよー」

「なっ!? い、いや、そんなことしなくてい……」


 顔を真っ赤にした康介くんが、女の子三人におもちゃにされていた。ふふふ、年下の男の子というのも可愛いね。これはお兄ちゃんと九十九さんに報告しなければいけないなと思った。

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