第30話「アドバイス」

 暖かいというかたまに暑いと感じる日もあったりして、これは今年の夏も暑くなりそうだなと思っていた、そんな春だった。

 今日は講義の後にサークルに行くことになっている。拓海と講義が一緒だったので、終わってから一緒に研究棟へ向かう。


「あー、今日も終わったなー、なんか疲れるっつーか」

「ほんとだね、なかなか勉強も難しくなっているし」

「そうだなー、理系科目はどんとこいって感じなんだが、やっぱ俺は文系科目がなぁ。なかなかしんどいよ」


 拓海がそう言ってあははと笑った。拓海は理系科目は得意だが、文系科目はちょっと苦手にしていた。そうは言いながらも頑張っているところを見ると、拓海も真面目なんだなと思う。


「まぁ、分からないことあったら教えるよ。僕も分からないことがあるかもしれないけど」

「おお、すまんなー、いやー団吉は大丈夫だろ、なんでもできるからなー」


 そんなことを話しながら研究棟にある部室に入る。中には川倉先輩、成瀬先輩、エレノアさんの女性陣がいた。


「お、団吉くんと拓海くん、お疲れさまー」

「お疲れさまです、あ、今日は女性だけだったんですね」

「そうなんです、慶太くんはバイトがあるので帰りました。蒼汰さんと葵さんはまだ講義があってるとのことで」

「ダンキチ、タクミ、おつかれさま。わたし、おつかれさま、おぼえた」

「あはは、お疲れさま。なるほど、じゃあ今日はこのメンバーですかね」

「そうだねー、さっきエレノアちゃんの語学のテキスト見てたんだけどさ、エレノアちゃん日本語以外にも中国語、フランス語、ドイツ語と勉強しててさー、バイリンガル以上でびっくりしたよー」


 川倉先輩がそう言ってエレノアさんの頭をなでなでしている。そのエレノアさんは、


「わたし、べんきょうか。ダンキチ、ほめて、わたしべんきょうか」


 と、満足そうな顔をして言った。


「おお、すごい、日本語だけでも大変そうなのに、そんなに勉強してるんだね。エレノアさん、勉強家だね、偉いよ」

「ふふふ、わたしえらい。でもにほんごむずかしい、まだわからない」

「あはは、でも俺らとも日本語で話せてるから、大丈夫だよ」

「ほんと? タクミもやさしいね、だいすき!」

「あっ、危ない、エレノアちゃんに拓海くんがとられそうだ、くそー若者には負けないようにしないと」

「え!? い、いや、大丈夫だから、亜香里さん落ち着いて……」


 慌てる拓海を見て、僕はつい笑ってしまった。


「あ、そういえば、実は僕、今度一人暮らしをすることになりまして……ぜひみなさんにアドバイスをいただきたいなと思っていて」


 拓海にはこの前話したが、僕は一人暮らしをすることを先輩方やエレノアさんに話すことにした。


「おおー! そうなんだねー、団吉くんが一人暮らしかぁー、楽しみでしょ」

「はい、母が突然言い出したんですが、なんだかんだで自分も楽しみになって来たというか」

「そうなんですね、あ、ここにいるのは団吉さん以外一人暮らしをしている人ですね。慶太くんは実家でしたし、蒼汰さんや葵さんもたしか実家でしたよね」

「あ、そうですね、天野くんと橋爪さんは実家です。なるほど、じゃあみなさん僕の先輩か……」

「ダンキチ、ひとりぐらしする?」


 僕の隣にいたエレノアさんが、僕の左手を握って顔を覗き込んできた。エレノアさんも顔が整っていて綺麗だよな……って、ぼ、僕は何を考えているのだろう。


「あ、う、うん、一人暮らしすることになってね。エレノアさんは一人暮らしの先輩だね」

「ふふふ、わたしせんぱい。あ、ダンキチのいえ、あそびいっていい?」

「うん、いいよ、エレノアさんが好きな絵菜にもまた会えるかもしれないね」

「あ、エナ、あいたい。エナかわいい。ダンキチのだいじなひと」

「ああ、絵菜さんって、団吉さんの……ふふふ、それは楽しみですね」

「あらまぁ、エレノアちゃんと絵菜ちゃんは会ったことがあるんだねー、ふふふ、団吉くん、絵菜ちゃんを連れ込みすぎないようにねー」

「ええ!? あ、そ、そうですね、気をつけます……あはは」


 な、なんだろう、急に恥ずかしくなってしまって俯くと、みんな笑っていた。


「あはは、まぁでも団吉くんはしっかりしてるから、普通に問題なく一人暮らしできるんじゃないかなぁ」

「そうですね、なんか問題なさそうな気がします。団吉さんは家事は好きですか?」

「あ、料理は母の帰りが遅い時にやってるので、それなりかと……でも洗濯がちょっと自信ないというか、今は母と妹に任せっきりなので」

「まぁ大丈夫だ、今は全自動だからな、洗濯物入れて洗剤と漂白剤と柔軟剤入れれば、あとはやってくれるっつーか」

「そうだねー、あとはハンガーとか干す場所とか、一度にどれくらい洗濯すればいいのか考えないとねー。まぁそのあたりも慣れてくるから大丈夫だよー」

「な、なるほど……ハンガーとか細かいものも買いに行かないとな……」


 僕はスマホのメモに洗濯グッズを書き込んだ。先日から買っておくべきものをスマホにメモするようにしている。時間を見つけて買っておかないといけないな。


「あ、すみません、僕の話になってしまいましたね、何か写真でも撮りに行きますか?」

「いえいえ、いいんだよー。そうだね、じゃあ大学の近くを散歩してみようかー、いいものがあったら写真撮って後で見せ合おうねー」

「ああ、いいですね、じゃあ蒼汰さんと葵さんには外に出てると言っておきましょうか」

「ふむ、だいがくのちかく、たのしみ。わたしもしゃしんとる」

「団吉、カメラ持って来たか? 俺もあるからカメラで撮ろうかなと」

「あ、うん、持って来たよ。エレノアさんにもカメラ貸してあげるね」

「ほんと? ダンキチやさしいね、だいすき!」


 エレノアさんがそう言って僕に抱きついてきた。え、あ、いや、これはスキンシップ、スキンシップ……。


「あ、う、うん、じゃあ行くことにしようかな……あはは」


 僕たちは大学の近くの風景をカメラに収めていった。こうして歩いてみるとまだまだ知らない場所も多い。そういうところも少しずつ楽しんでいけるといいなと思った。

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