第25話「連休明け」

 ゴールデンウィークも終わり、今日から講義が再開される。

 高校時代より休みが多いのはいいが、休み明けはちょっとだけ気が抜けたような感じになる。いや、そんなことではいけない。ちょっと真面目過ぎるだろうか。

 今日はサークルにも行くつもりでいるので、新しく手に入れたカメラも持って行くことにした。大事にバッグに入れて行く。休みの間にもけっこう写真を撮ることができた。それも嬉しかった。

 大学に行くと、拓海が先に来ていたようで手を挙げた。


「おはよー、あー休みも終わっちまったなぁ」

「おはよう、ほんとだね、なんか拍子抜けというか。でもそんなんじゃダメだよね」

「そうだなー、また頑張らないとな。今日はサークル行くか?」

「あ、うん、そういえばカメラが届いてね、先輩方にも見てもらおうと思って持って来たよ」

「おお、団吉もか。俺もカメラが届いてさ、今日持って来たよ。嬉しくて休みの間も散歩して撮影してたっつーか」

「ああ、そうなんだね、僕も一緒だよ。なんか嬉しくなるよね」


 そうか、拓海もカメラを手に入れたのだな。嬉しくなるのは日向の言う通り僕も子どもっぽいところがあるのだろうか。


「そうそう、なんか嬉しくなるよなー。新しいおもちゃ手に入れたみたいっつーか」

「あはは、妹にも同じようなこと言われたよ。あ、先生来たみたいだね」


 先生が来たので、僕たちは真面目に講義を受けることにした。



 * * *



「みんなお疲れさまー! 休みも終わって、また頑張らないとねー」


 部室に川倉先輩の明るい声が響く。講義が終わって、サークルメンバーは部室に集まった。休みはそんなに長いわけではなかったが、久しぶりに集まったという感じだ。僕も嬉しい気持ちになった。


「ああ、そうだね、また頑張らないといけないね!」

「ふふふ、そうですね、サークルも楽しんでいきましょうね」


 慶太先輩と成瀬先輩も嬉しそうに話す。先輩方はゼミや研究室があるはずなので、今まで以上に忙しいだろう。それでもこうしてサークルに集まってもらえるのは嬉しいことだった。


「あ、先輩方、先日僕のカメラが届きました。ぜひ見てもらおうと思って今日は持って来ました」

「あ、俺も団吉と一緒で、カメラが届きました。こんなやつで」


 僕と拓海がそれぞれカメラを取り出した。


「おおー! 団吉くんも拓海くんも、ついにカメラを手に入れたんだねー! よきかなよきかな!」

「おお、素晴らしいね、団吉くん、拓海くん、ちょっと見せてもらってもいいかな?」

「あ、はい」


 僕と拓海が先輩方にカメラを手渡した。


「ふむふむ、基本的な機能はボクのと一緒みたいだね。シルバーのボディでカッコいいではないか! 分からないことがあったらなんでも訊いてくれたまえ」

「あ、はい、ありがとうございます。まだオートフォーカスでしか撮ってないので、他の撮り方を教えていただけると嬉しいです」

「うんうん、拓海くんのは私のと基本操作は一緒だねー。分からないことがあったらなんでも訊いてくれたまえ!」

「あ、う、うん、亜香里さん、そこ真似するんだね……あはは」

「お二人ともよかったですね、これで写真の幅も広がりますね!」

「はい、ありがとうございます。嬉しくて休みの間に写真を撮ってきました」


 先輩方も嬉しそうな声を出した。


「おお、日車先輩も印藤先輩も、ついにカメラを……! なんか嬉しくなりますよね」

「そうだね、妹にもお兄ちゃんが小学生みたいだと言われたよ。天野くんもそのうち買えるといいね」

「おおー! さすが日車先輩と印藤先輩、カッコいいです! これでバリバリのカメラマンですね!」

「あはは、橋爪さんありがとう。やっぱ子ども心になってしまうのは、新しいものを手に入れたからかなと思うっつーか」


 天野くんも橋爪さんも、そのうちバイトなどを頑張ってカメラが買えるといいなと思った。

 その時、あまり会話に参加していない人がいることに気が付いた。ふと見るとエレノアさんがおとなしいというか、何か言いたそうで言えないような、そんな感じがした。ちょっと日本語について来れなったのかなと思ったので、


『エレノアさん、日本語が難しかった?』


 と、僕は英語でエレノアさんに話しかけた。


「あ、う、うん、まだわからないときある……ごめん」

「いやいや、エレノアさんも日本語を勉強中だからね、難しかったら僕に訊いていいよ」

「ありがとう、ダンキチやさしいね。あ、カメラかった?」

「あ、うん、エレノアさんもちょっと撮ってみる? 僕のを貸してあげるよ」


 僕はカメラをエレノアさんに手渡した。


「ありがとう、わわっ、そんなにおもくない。カメラマン、こんなかんじ?」


 エレノアさんがカメラを構えてポーズをとった。


「あはは、エレノアちゃん、決まってるよー! カッコいい!」

「ああ、エレノアさん、そのままみんなのことを撮るのもいいと思うよ!」

「ほんとですね、せっかくだからエレノアさんに撮ってもらいましょうか。みんな集まりましょう」

「え、わたしとる? できるかな……」


 僕はエレノアさんに撮り方を教えた。みんなで壁際に集まる。エレノアさんは『Say, cheese!』と言ってパシャリとシャッターを押した。そうだ、「はい、チーズ」は英語でそう言ったな。


「で、できた。ダンキチ、これでいい?」

「ああ、うん、上手に撮れてるよ。そしたら今度はエレノアさんも入れて撮ろうか」

「ああ、ここに三脚があるからそれにカメラをつけて、タイマーで撮ってみるのはどうだい? そしたらみんな入るからね!」

「あ、なるほど……ありがとうございます、そうしましょうか」


 カメラを三脚につけて、カメラのタイマーを慶太先輩がセットしてくれて、みんなで並ぶ。しばらくしてパシャっとシャッター音が鳴った。確認してみるとちゃんと撮れているみたいだ。


「なるほど、タイマーもあるんだな。勉強になるっつーか」

「そうだね、先輩方にもっと訊かないといけないかもしれないね」

「よーし、そしたら今の写真、印刷して壁に飾っておこうか! 団吉くんと拓海くんのカメラ記念日だね!」

「あ、そうですね、今日の記念によさそうですね」


 後日、サークルメンバーが写った写真は部室の壁に飾られることになった。これもいい思い出だ。カメラを手に入れたことで、これからもサークルが楽しいものになりそうだった。

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