第24話「のんびり」

 次の日、目が覚めると目の前に絵菜の寝顔があった。

 時間は朝の六時くらい。ちょっと早いかなと思ったが、僕は絵菜を起こさないようにしてそっと起き上がることにした。絵菜はすうすうと寝息を立てて寝ている。

 昨日の夜、ついに絵菜と一緒になった。絵菜もずっとしたいと思っていたみたいだし、僕も大人になったし、いや、厳密には絵菜がまだ未成年だが、細かいことを気にしていたら嫌われると思った。

 初めてのことがいくつも思い出される。初めて絵菜がうちに来た日、初めて手をつないだ日、初めて好きと言った日、初めてキスをした日、そして――


「……ん、団吉……?」


 ベッドに背を向けて座っていると、絵菜の声がした。どうやら起きたようだ。


「ここにいるよ、おはよう」

「……おはよ、わ、私いつの間にか寝ちゃってた……」

「うん、僕も寝てたから、一緒だね」


 絵菜が起き上がって、僕の隣に来て僕にきゅっと抱きついてきた。


「……団吉」

「ん?」

「……えっち、しちゃったな」

「あ、ああ、ごめん、痛くなかった?」

「ううん、大丈夫。気持ちよかった」

「そ、そっか、よかった……」

「……ふふっ、団吉と一緒になれて嬉しい」

「……うん、僕も嬉しいよ。絵菜のこともっと大事にしたくなったよ」


 僕がそう言うと、絵菜がそっとキスをして、またきゅっと抱きついてきた。僕も絵菜をそっと抱きしめる。いつもの絵菜の温もり、絵菜のにおい、全てが大好きだった。

 二人で着替えて、リビングへと行く。母さんが朝食の準備をしていた。


「あら、二人ともおはよう。団吉、二日酔いとかなってないかしら?」

「おはよう、そういえば気持ち悪いとか体調の変化はないかな……意外と呑める方なのかな」

「そう、よかったわ。まぁこれから先そういうこともあるかもしれないけど、それも大人になるってことよ。きつい時はいつでも言いなさいね」

「そ、そうだね、今日は気をつけておくよ」

「ふふふ、絵菜ちゃんはよく眠れた?」

「あ、はい、いつの間にか眠っていたようで」

「ふふふ、二人とも大人になったわね。いいことよ。これからも仲良くね」


 な、なんか母さんに昨日の夜のことがバレているような……こ、声はあまり出さないようにしていたのだが……全てを悟られているような感じがした。


「――あ、お兄ちゃんたち起きてたんだねー、おはよー」

「お兄様、お姉ちゃん、お母さん、おはようございます。あれ? なんか二人とも爽やかな顔してますね」

「お、おはよ」

「おはよう……って、え!? い、いや、いつも通りなんじゃないかなぁ……あはは」

「……あーなるほど、お兄ちゃんも大人になったってことかぁー! うんうん、絵菜さんを大事にしてね!」

「まあまあ、ふふふ、どちらが襲ったのか気になりますが……二人とも大人ですからね、仕方ないです」

「……あ、あのー、僕の話聞いてますか……? な、何もないからね……」


 う、うう、なんでこうも悟られている感じがするのだろうか……僕と絵菜が同じように俯くと、みんな笑った。

 みんなで朝食をいただいた後、のんびりと話していた。


「日向も真菜ちゃんも、ゴールデンウィークで課題があったと思うけど、終わった?」

「うん! ちゃんと終わったよー、だから今日はのんびりしようかなって!」

「この前お兄様に教えていただいたので、私も終わりました。いつもありがとうございます」

「そっか、それはよかった。まぁたまにはのんびりするのもいいよね……あ、そうだ、天気もいいし近所に散歩にでも行く? カメラで写真も撮りたくて」

「ああ、それもいいかもしれないな。私もスマホで写真撮ろうかな……」

「いいね! じゃあ川沿いくらいまで行ってみる? 何かありそうだよー」

「ああ、そうだな、そうしようか。ちょっとカメラ持ってくるよ」


 僕たちは近所を散歩しに行くことにした。母さんに「いってらっしゃーい」と見送られて、川沿いまで歩いて行く。

 

「あ! あそこ花が咲いているよ! あのピンク色の何だっけ? よく見るんだけどなぁ」

「まあまあ、あれはツツジじゃないかな、綺麗だね!」

「ああ、真菜ちゃんはお花に詳しいのかな?」

「いえいえ、少ししか分かりませんが、こうして綺麗なお花を見ると嬉しくなりますね」

「……うーん、なんかこううまく写真撮りたいな……団吉、何かいい方法ないかな?」

「そういえば慶太先輩もお花の写真撮ってたけど、被写体であるお花をど真ん中にせず、ちょっとずらして撮ってたよ。背景も入っていい感じに見えるんじゃないかな」

「な、なるほど、ちょっと撮ってみよう……こんな感じかな」


 みんなでスマホやカメラで花を撮っていた。ツツジも綺麗に撮れたような気がする。あ、あっちに咲いている花はなんだろうか、白色が輝いて見えた。


「あっちの白い花はなんだろねー?」

「まあまあ、ちょっと調べてみたけど、ハナミズキかなぁ。この写真とかなり近い気がするよ」

「おお、ほんとだね、白くて可愛いね」


 僕は道端の草花なども、歩道が入るようにしてカメラに収めていた。他にも建物と道路のアングルを考えて写真を撮っていく。うん、日常の風景という感じがしていいんじゃないかな。


「あ! お兄ちゃん、あそこたこ焼きのお店があるよ!」

「ええ、日向は食べ物を見つけるのが早いな……」

「ふっふっふー、私は目がいいからね! ねぇお兄ちゃん、言わなくても分かると思うけど……買って?」


 日向が僕の右腕に絡みついて甘えた声を出す。こ、こいつ、また兄におごってもらう気か……!


「ええ……まぁいいけど……」

「やったー! お兄ちゃん大好き!」

「わ、わかったからくっつくなって。あ、絵菜と真菜ちゃんも食べる?」

「まあまあ! お兄様、ありがとうございます!」

「あ、ああ、そしたら団吉と私がお金出そうか」

「あ、ご、ごめん、じゃあみんなで食べようか」


 結局たこ焼きを買って、みんなで川沿いに座って食べることにした。うん、こういうのも悪くないなと思った。

 そんな感じで、誕生日の次の日はのんびりと過ごした休日となった。これもまたいいのではないだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る