第21話「勉強会」

 ゴールデンウィークに入っても、いい天気が続いている。

 雨が少なくて大丈夫だろうかと思うが、またじめじめとした梅雨がやって来るのだ。そんなに心配しなくても大丈夫かなと思った。

 今日は絵菜はバイトだと言っていたな。そして僕は日向たち高校生から学校の課題を見てほしいと頼まれていた。そうか、みんなも高校三年生、受験生としての自覚が出てきたのだな……と思っていたら、いつものようにあからさまに嫌な顔をしている日向がいた。


「ううー、勉強だなんて嫌だよー、なんで課題なんてあるのかな……」

「そう言うなよ、日向たちも受験生なんだから。明日は部活だろ? 今日しっかりと勉強しておかないと」

「ううー、そうなんだけど、そうなんだけど……」


 日向の勉強嫌いは相変わらずだな……と思っていたら、インターホンが鳴った。出ると真菜ちゃんと長谷川くんと舞衣子ちゃんが来ていた。


「ああ、いらっしゃい、みんな集まって来たんだね」

「お兄様こんにちは! はい、RINEで話して集まって来ました!」

「お兄さんこんにちは! すみませんお世話になります」

「団吉さん、こんにちは……日向ちゃんは?」

「ああ、文句言いながら先に勉強しているよ。みんなからも気合いを入れてやってくれないかな、上がって」


 三人が「おじゃまします」といって上がった。リビングに案内すると、「みゃー」と鳴きながらみるくが日向をかりかりと掻いていた。その日向はテーブルに突っ伏して動かない。


「ひ、日向……? 大丈夫か?」

「……お兄ちゃん、私はもうダメです。ああ短い人生だった……みるくのことはよろしくお願いします」

「い、いや、いなくなったらダメだぞ、分からないんだな」

「だってー、難しすぎるよー、ベクトルとか複素数とか意味が分からな過ぎて」


 足をバタバタさせて子どものような日向だった。


「日向ちゃん、大丈夫だよ、数学ならお兄様がなんとかしてくれるよ!」

「そ、そうだよ、神様がいるんだし、みんなで頑張ろう」

「日向ちゃん、うちも分からないことだらけだから……神様に教えてもらいに来たよ」

「……そ、そうだね、全知全能の神がここにいるんだった、お兄ちゃん、いやお兄さまさま、私の代わりにこの問題を解いてください……」

「な、なんだその呼び方……そうじゃないだろ、みんなで頑張るんだよ。よし、冗談はこのくらいにして、みんな分からないところはなんでも訊いて」


 僕がそう言うと、みんなが「はーい」と言って勉強を始めた。リビングのテーブルで日向と長谷川くんが、ダイニングのテーブルで真菜ちゃんと舞衣子ちゃんが勉強をしている。僕は教える側に回った。こういうところを見ると自分が高校生だった頃を思い出すな。


「お兄様、ここがどうしてこの答えになるのか分からないのですが……」

「ああ、指数関数と対数関数だね、ここはこうして、こうなって……」

「ああ、なるほど! お兄様の教え方は本当に分かりやすいですね、さすが神様です」

「団吉さん、ここ分かんない……」

「ああ、舞衣子ちゃんは数列の応用問題で詰まってるんだね、ここはこうして、こうなって……」

「あ、なるほど……団吉さんすごいね、さすが神様」

「お兄ちゃんすごいよねー、頭良すぎて分からない問題はないもんねー、さすが神様って感じ!」

「お、お兄さん、いや神様、どうやったらそんなに勉強ができるようになるのでしょうか……?」

「い、いや、みんな神様ということは忘れようか……日頃からきっちりと授業受けて、復習も欠かさずにやってたら大丈夫だよ、自信持ってね」

「うーん、それでもお兄ちゃんみたいにできるようになるのは無理そうだなぁ……あ、また分からないよー、お兄ちゃ~ん」

「お前はちゃんと考えてるか? ああ、複素数の問題か、ここはこうして、こうなって……」


 な、なぜかこの四人には神様と思われているようで……僕は一般人だからね……。

 そんな感じで僕はみんなのフォローをしながら、みんなもうんうんと考えながら頑張って学校の課題を終わらせていった。


「お兄様、ありがとうございます、ここまで来れば大丈夫です」

「ああ、よかった。相変わらず青桜高校は課題が多いみたいだね、日向と長谷川くんもそうか。舞衣子ちゃんの学校も課題が多いのかな?」

「うーん、青桜高校ほどではないかもだけど、長い休みの前には必ず出てる……」

「そっか、まぁ勉強は大変だろうけど、あと一年、しっかり頑張ってね」


 僕がそう言うと、みんなが「はーい」と答えた。


「そうだ! お兄ちゃん明後日は誕生日だよねー、あーついに二十歳かぁ、大人って感じ!」

「まあまあ! そうでした、お兄様もどんどん大人になっていますね、カッコよくなってドキドキしてしまいます」

「そっか、団吉さんはもうすぐ誕生日なんだね、おめでと。二十歳か……大人だね」

「そ、そうでした! お兄さん、一足早いですがおめでとうございます! 二十歳の抱負をここで聞かせてもらえると……!」


 四人がじっと僕のことを見てきた。


「え、ほ、抱負? な、なんだろう……自分ではそんなに大人っていう感じもしないんだけどね。でも、まだ学生だし、しっかりと勉強して、大学生活を楽しんでいきたいなと思っているところで……」


 僕がそう言うと、四人が「はあぁー」と言いながらやれやれといった表情をした。あ、あれ? 何か変だっただろうか。


「はー、ダメダメ! お兄ちゃんはこれだからいけないねー、そこは絵菜さんを幸せにします! とか言わないとー」

「そうですよ、お兄様、お姉ちゃんのことを第一に考えて、一生守っていくつもりでいないといけませんよ」

「そうだね、団吉さんはまだまだ女性の心が分かってないようだね……」

「そ、そうです! 絵菜さんを大事にして、結婚しますくらい言わないと!」

「ええ!? い、いや、絵菜のことを大事にするのはこれまで通りというか……もちろんこれからも守っていくつもりというか……あれ? 僕は何を言っているのだろう」


 な、なんだろう、すごく恥ずかしくなってきた。僕が慌てていると、みんな笑った。うう、やっぱりこうなってしまうのか……。

 と、とりあえず四人は課題が終わるようでよかった。勉強は大変だろうが、これからも頑張ってほしいなと僕は思っていた。

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