第19話「四人で」

 ゴールデンウィークが近づき、大学は去年と一緒で休講の期間に入った。

 今日は四月末の祝日。昭和の日ということだが、僕は昭和という時代を知らない。どんな時代だったのだろうか。

 そんな今日は、絵菜と高梨たかなしさんと一緒に、火野ひのの家に遊びに行くことにしていた。去年も四月に遊びに行ったな。

 高梨さんとは、高梨たかなし優子ゆうこ。絵菜の幼稚園の時からの友達で、高身長でバスケができる美人だ。

 火野とは、火野ひの陽一郎よういちろう。僕の中学の時からの友達で、僕が一人でいた時も決して笑うことなく、いつもそばにいてくれた爽やかイケメンの親友だ。

 高校時代はこの四人で勉強したり遊んだり、色々なことをした。絵菜だけでなく、この二人がいてくれたから、僕も高校時代が楽しかったと言っていいだろう。もちろん他の友達もみんなそうだ。懐かしい気持ちになった。

 絵菜と高梨さんと一緒に火野の家に行く。駅前からはちょっと距離があるが三人で話してたらあっという間のように感じた。


「おーっす、みんな来てくれたんだな、入ってくれー」


 火野が僕たちを迎え入れてくれた。火野は実家を離れて通っている体育大学の近くに一人暮らしをしている。以前と変わらず部屋は綺麗に片付けられていた。


「やっほー、おじゃましまーす、陽くんの部屋はいつ来ても綺麗だねぇ!」


 高梨さんが部屋を見回しながら言った。ちなみに火野と高梨さんはお付き合いをしている。僕と絵菜より前にお付き合いを始めたから、この二人も今年の夏で五年目に入っていくのか。一度ケンカみたいなこともあったが、その後は仲良くしているみたいだ。


「あはは、ちょっと最近忙しくてさ、昨日慌てて掃除したり片付けたりしたんだぜ」

「そっか、火野も大学の講義やレポートに追われているのか?」

「ああ、それもあるんだが、バイトも始めてさ、団吉みてぇに頑張ろうと思ってな」

「そうだったねー、私も飲食店でバイト始めてさー、なかなか忙しいんだよねぇ。そういえば絵菜もバイト始めたって聞いたような」

「あ、うん、家の近くのホームセンターでバイトしてる……もうすぐ一年かな」


 そうか、みんな新しいことを始めて頑張っているのだな、なんだか自分のことのように嬉しくなった。


「そっか、みんなそれぞれ頑張ってるよね。それにしても、この部屋なんだかカレーのにおいがするのは気のせいかな……」

「ああ、今日はみんなが来るからさ、カレー作ってみたんだ。よかったら食べてくれねぇかな」

「おおー! 私もちょっと気になってたんだよねぇ、陽くんの手作りかぁー!」

「ああ、団吉にはかなわねぇけど、俺もそれなりに料理できるようになったんだぜ」


 そう言って火野がキッチンの方へ行った。一人暮らしとなると食べるものも自分で何とかしないといけない。外食という手もあるがお金がかかるので、やはり少しは自分で作れた方がいいだろう。


「火野も偉いな、私も料理の練習しておかないと……」


 絵菜がぽつりとつぶやいた。あまり料理が得意ではない絵菜だが、僕と一緒に暮らすという夢があるため、なんとか頑張っているところだ。まぁでもあまり考えすぎてもよくないのかなと思う。


「うんうん、少しずつ練習していこうね。僕も一緒に手伝うよ」

「うん、団吉と一緒なら頑張れる……」

「あはは、日車くんと絵菜は変わらず仲が良いですなぁ! これはもう明日には結婚しちゃったりしてー」

「え!? い、いや、まだ学生だからね、それはもうちょっと先かな……あはは」

「できたぜー、優子すまねぇ、あと二つ持って来てくれるか?」

「あ、はーい! おおー、美味しそうだねぇ!」


 火野と高梨さんがカレーを持って来てくれた。おお、たしかに美味しそうだ。


「よし、食おうぜ、まぁ俺らまだ二十歳になってないから、お酒は無理なんだけどさ。あれ? カレーにお酒って合うのかな?」


 火野がそう言って笑ったので、みんな笑った。たしかにカレーに合うお酒ってあるのだろうか、よく分からなかった。

 みんなで「いただきまーす」と言ってカレーをいただく。おお、具も大きくて、ちょうどいい辛さで味も美味しい。


「あ、美味しいね」

「ほんとだー、美味しいー! これなら何杯でもいけそうだよー」

「あ、相変わらず優子は食欲旺盛だな……」

「ふっふっふー、まぁ私もまだまだ食べ盛りってやつよー! 体重は気になるんだけど、その分動いてるから大丈夫かな!」


 高梨さんがそう言ってお腹をさすったので、またみんな笑った。よく食べるのに高梨さんはスラっとしていてスタイル抜群だもんな……くそぅ、イケメンと美人が羨ましい。


「それにしても、みんな今年は二十歳になるんだなぁ、なんか大人になるってこんなもんなのかなって思っちまうが」


 火野が笑いながら言った。


「たしかに、小さい頃想像していた二十歳とちょっと違うというか……」

「あ、絵菜もそうなんだねー、私もだよー、もうちょっと大人としてしっかりしてるイメージだったんだけどなぁー」

「まぁ、みんなそんなものかもしれないね。小学生、中学生、高校生、大学生となるうちに、それまで持っていたイメージとちょっと違うのも一緒というか」

「おう、団吉の言う通りだな。二十歳っつっても、まだ学生なのもしっかりしてるイメージが湧かないのかもな」

「そだねー、でもさ、二十歳ってことはお酒が呑めるじゃん? このメンバーで居酒屋とか行ってみたいねぇ」

「そうだね、みんな二十歳になったら行こうか、去年のクリスマスイブに行ったお店でもいいし。大将はいつでも来てくれって言ってたよ」

「ふふっ、団吉がお酒呑んだらどうなるか見てみたい」

「ふむふむ、この中で一番お酒呑んで変わりそうなのは日車くんかなぁ、普段は優しいけど、酔うと怪獣になったりしてー」

「ええ!? い、いや、それはないと思うけど……でもないと言い切れないのが怖い……」


 た、たぶんそんなことはないと思うのだが……僕が慌てていると、みんな笑った。


「あはは、まぁその時を楽しみにしてるぜ。優子、おかわりあるけど食べるか?」

「ああ! いただきまーす! 美味しくて止まらないよー」


 あっさりと二杯目のカレーを食べる高梨さんを見て、またみんな笑った。

 その日は火野の家で楽しい話で盛り上がった。みんなバラバラになってしまったが、こうしてたまに集まるのも楽しいな。みんなの笑顔を見ていると、僕も嬉しい気持ちになった。

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