第17話「新しいもの」
土曜日、僕はバイトに精を出していた。
これもいつも通りの日常だが、手を抜かずに頑張りたい。こういうところは僕は真面目だなぁと思う時もある。
舞衣子ちゃんもバイトに入っていて、笑顔で接客を行っていた。元気そうで何よりだ。舞衣子ちゃんも高校三年生ということで、これから勉強が大変になるだろう。バイトは続けたいと言っていたが、無理はしないでもらいたい。
いつものように三時まで頑張って、家まで帰る。ゴールデンウィークが近づき、暖かい日が多くなってきた。今年の夏も暑くなるのかな、そんなことを思っていた僕だった。
「ただいまー」
家の玄関を開けると靴が二足あった。母さんは今日は休みだが、日向は部活があったはずだ。もう帰って来てたのか。
「お兄ちゃんおかえりー」
パタパタと足音を立てて日向がやって来た……と思ったら、手に何か箱のようなものを持っている。
「ただいま……って、あれ? なんだそれ?」
「さっき宅配便で届いたよ。お兄ちゃん宛だったけど、心当たりある?」
「宅配便……ああ、もしかしてあれかな、開けてみようかな」
日向と一緒にリビングへと行く。箱のようなものの正体、それは――
「……あ、も、もしかして、カメラ!?」
箱を開けるのを隣で見ていた日向が声を出した。そう、先日サークルで話していたカメラだった。川倉先輩にカメラの商品ページを教えてもらってから、僕はすぐに注文した。届くまでにはもう少し時間がかかるかなと思っていたが、けっこう早かったな。今どきネットで何でも買えちゃうのがすごいと思う。
「うん、先輩方に教えてもらって、これがいいってことだったので買ってみたよ」
「へぇー、これが一眼レフっていうやつ?」
「お、よく知ってるな。そうそう、レンズを変えたりすることができるよ。ダブルズームキットというのを買ったから、レンズが二つついてるな、こっちが標準レンズかな」
「あらあら、ふふふ、団吉がいいカメラを買ったのねー、一眼レフって黒いものかと思っていたけど、シルバーで持つところは茶色で、なんかカッコいいわね」
母さんがコーヒーを持って来てくれた。
「あ、うん、ボディの色は三種類あったみたいで、これが一番いいなと思って」
「へぇー、カッコいいね! ねえねえお兄ちゃん、ちょっと持たせて~」
「ん? いいけど、落とすなよ」
「大丈夫だよー、わわっ、見た目よりずいぶん軽いんだね、こんな感じかな?」
日向がカメラを構えてポーズをとった。写真家っぽい……のか?
「お、おう、なんかよく分からんが、日向の中での写真家のイメージだけは分かったというか……」
「ふっふっふー、私もこれでいっぱしのカメラマンなのだ! あれ? 女の人はカメラウーマン?」
「い、いや、そこはカメラマンでいいんじゃないかな……まぁいいか。試しにちょっと撮ってみたいな、日向そこに立ってくれ」
「ええ!? わ、私を撮るの!? やだなぁー、可愛く撮ってよ~」
「それは日向の表情次第じゃないか……? とりあえずSDカードをセットして、オートフォーカスに設定して……よし、撮るぞ」
わたわたと髪や服を整える日向がいた。僕が「はいチーズ」と言うと、ちょっと上目遣いであざとい表情を見せてきた。こ、こいつ、狙ってるのか……?
パシャっというシャッター音とともに、日向の姿がカメラの中に収まった。
「どう? どう? 可愛く撮れてる?」
「ああ、えっと写真を見る時は……ここか。ああ、いい感じなんじゃないかな」
「おお! って、ちょっとあざとくしすぎたかなぁ、お兄ちゃんがドキドキしちゃうね!」
「い、いや、大丈夫だから……」
その時、みゃーと鳴きながらみるくが足元にすりよってきた。
「そうだ! 今度はみるくも入れて撮ってよー、ああ、私だけだと面白くないから、お兄ちゃんも写ろうよ!」
「え!? い、いや、僕は遠慮しておこうかな……あはは」
「あらあら、じゃあお母さんが撮ってあげるわ、二人ともそこに並んで~」
「え!? い、いや、それはやめておかない……?」
「えーいいじゃん、遠慮する必要ないよー、さぁ、早くこっちに!」
結局みるくを抱えた日向に引っ張られて、二人で並んで母さんが写真を撮った。うう、なんでこうなるんだろう……。
「すごいわね、思ったよりも簡単で、スマホとはまた違って綺麗に見えるわね」
「ああ、まぁたしかに……あ、これスマホに簡単に写真を送れるみたいだよ」
「へぇー、そうなんだね。あ! お兄ちゃん、今の写真私に送って!」
「ん? 分かった、ちょっとやってみるよ」
説明書を見ると、アプリで簡単にスマホに写真を送れるとのことだ。僕はアプリをダウンロードして、設定を行って今撮った写真をスマホに送り、日向に送ってあげた。おお、こんなに簡単なのか。今どきは本当にすごいな。あれ? 同じようなことをさっき思ったな。
「おおー、スマホで見ても綺麗に見えるねぇ! よーし、これをこうして……はい、送信完了っと!」
「ん? 送信完了? 何やってんだ?」
「ふっふっふー、絵菜さんに送ってあげたのだよ! 可愛いお兄ちゃんが写ってるからねー」
「ええ!? な、何やってるんだお前……」
「いいじゃんいいじゃん、絵菜さんだって見たいはずだよー。あ、返事来た! 『団吉も日向ちゃんもみるくちゃんも可愛いな』だって!」
「あ、そ、そっか……うーん、なんかすごく恥ずかしい思いをしているのは気のせいだろうか……」
そういえば大学の入学式の時の写真も、勝手に絵菜に送られてたな……と、ちょっと恥ずかしい気持ちになってしまった。
「あ、これすごい、カメラで撮ったらスマホと連動してすぐにスマホに保存できるし、カメラ内に保存されている写真もスマホで見れるんだって」
「あらあら、すごいわねー、そういえばお父さんも昔カメラを持っていたけど、あの頃はスマホとかなかったからねーって、なんかおばさんみたいなこと言っちゃった、いやねー」
「ああ、そういえば父さんもカメラ持ってたね、撮ってもらったことがよくあったような」
「ふふふ、本当に団吉もお父さんに似てきたわね、お父さんの若い頃を見ているようだわ」
「そ、そっか、まぁ父さんも今の僕みたいな感じだったのかな……」
その後、日向と一緒にみるくの写真を撮ったり、庭の花を撮ったりしていた。新しいものが手に入るとテンションが上がるのは僕も日向も一緒のようだった。
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