第16話「カメラ」

「みんなお疲れさまー! 今日も天気がよくてなんだか気持ちいいねぇ!」


 部室に川倉先輩の明るい声が響く。ある日、僕たちサークルメンバーはいつものように部室に集まった。新しい学年が始まってそれぞれ忙しいが、こうしてサークル活動も元気に頑張っていきたいところだ。


「ああ、今日もいい天気だね! これを見てくれ、ボクは花壇で写真を撮ってきたよ! とても可愛らしかったからね」

「わぁ! 可愛いたんぽぽですね、こちらはつつじですか、色鮮やかで綺麗ですね」


 慶太先輩と成瀬先輩が盛り上がっている。僕たちも慶太先輩が撮った写真を見せてもらった。おお、ほんとだ、色鮮やかで綺麗に写っている。被写体がど真ん中ではないのも慶太先輩のテクニックかなと思った。


「おお、すごいですね、こっちにはチューリップも写ってますね」

「ほんとだ! すごいです! お花を撮るのも楽しくなりますね!」


 天野くんと橋爪さんが笑顔で言った。花は写真映えする気がする。これからもっと暖かくなって、色々な花が咲くのだろうな。


「おおー、慶太ったら、似合わないことしちゃってー! でもいいよねこうして綺麗なお花を見れると嬉しくなっちゃうねー」

「ほんとですね、慶太くんらしくないですね」

「ええ!? 似合わないことはないと思うのだが……いやはや、二人とも厳しいね、これはお嫁に行くのがどんどん遠くなる……」


 慶太先輩がそう言うと、川倉先輩と成瀬先輩がバシッと叩いていた。い、いつも通りの光景と呼んでいいのだろうか。


「ケイタとアカリとハス、たのしそう。わたしもきれいなおはなのしゃしん、とりたい」


 写真を見ていたエレノアさんが笑顔で言った。


「ああ、うん、大学にも花壇があるから今度写真撮りに行こうか」

「うん、ダンキチ、スマホでとる? わたしカメラほしい」

「あ、そのことでちょっと先輩方に相談があってね。すみません先輩方、僕はそろそろカメラを買おうかと思っているのですが……」


 僕は先輩方のカメラを見ながら言った。以前から言っていたが、バイト代もだいぶ貯まってきたので、僕はそろそろカメラがほしいなと思っていた。しかし種類が色々あってよく分からなかったので、詳しい先輩方に教えてもらいたいなと思った。


「あ、団吉もか、実は俺もそろそろカメラを買おうかと思っていたっつーか」


 静かにみんなの話を聞いていた拓海が声を出した。そうか、拓海もカメラがほしいと以前言っていたな。


「おおー! そういえば二人は以前そんな話してたね! よっしゃ、私と慶太と蓮ちゃんが教えてあげようではないか!」


 川倉先輩がぽんと胸を叩いた。


「うむ、団吉くんも拓海くんも頑張っているのだね! ボクは嬉しいよ。何でも教えてあげようではないか!」

「ふふふ、亜香里先輩と慶太くん、同じこと言ってますね。あ、ちょっとその前に……蒼汰さん、葵さん、こっち向いてください」

「え? あ、はい」


 天野くんと橋爪さんが成瀬先輩の方を向くと、パシャっとシャッター音が鳴った。あ、いつものアレだろうか。


「あ、あれ? 成瀬先輩……?」

「ふふふ、可愛いお二人が撮れました。私、みんなの写真を撮るようにしているんです。お二人の先輩の団吉さんも拓海さんも去年撮らせてもらいましたよ。ああ、そういえばエレノアさんもまだでしたね、エレノアさん、こっち向いてください」

「あ、わたしとる? うれしい。びじんにとって」


 エレノアさんも成瀬先輩の方を向くと、またパシャっとシャッター音が鳴った。去年こうして成瀬先輩に写真を撮られたな。懐かしい気持ちになった。


「ハス、どう? わたしびじん?」

「ふふふ、エレノアさんは綺麗ですね。三人とも素敵ですよ」

「あ、そ、そうなんですね、なんか恥ずかしいというか……あはは」

「天野くん、これはうちのサークルの儀式みたいなものだから、素直に受け入れよう」

「そうそう、俺もいきなり撮られてびっくりしたけど、まぁこれもいい思い出になりそうっつーか」

「そ、そうですね、受け入れます……あはは。あ、すみません、日車先輩と印藤先輩がカメラがほしいんでしたね」

「ふっふっふー、さっそくパソコンでいろいろ見てたんだけど、二人がほしいと思うメーカーや機種がなかったら、私たちが使っているものの新しいモデルを買うのもありなんじゃないかなぁ」


 川倉先輩がパソコンをポチポチと操作していた。なるほど、先輩方が使っているのと同じメーカーであれば、分からない時は先輩方に訊けるし、いいのではないかと思った。


「ああ、それもよさそうだね! そしたら団吉くんはボクのメーカーを、拓海くんは亜香里先輩のメーカーを選ぶといいのではないかと思うよ!」

「そうですね、身近に同じものを使っている人がいると、訊きやすそうですね。私のはちょっと癖があるから、亜香里先輩と慶太くんのがいいと思います」

「なるほど、じゃあそうさせてもらおうかな……お値段はどのくらいでしょうか?」

「今開いてるよー、こんな感じだねー。二人ともあまり変わらないかな。でもちょっとお高い買い物だけど、大丈夫?」


 川倉先輩が開いてくれたページを僕と拓海が確認する。たしかにちょっとお高い買い物だが、貯めたバイト代で出せないことはないなと思った。


「あ、僕は大丈夫です。拓海はどう?」

「ああ、俺も大丈夫だ。そしたらそれを買おうかな。亜香里さん、リンクを送ってくれる?」

「もちろーん! 後で二人に送るねー。あ、エレノアちゃんもほしいって言ってたね、でもさすがにエレノアちゃんが買うのは難しいかな?」

「おねだん、いくら……いち、じゅう、ひゃく……わっ、す、すごい、カメラたかい、わたしむり……」


 エレノアさんが値段を見て、しょんぼりした顔になった。


「ああ、そうだよね、エレノアさんは留学生だから大変だよね、僕が買ったら僕のを使わせてあげるから、それでもいいかな?」

「ほんと? ダンキチやさしいね、だいすき!」


 エレノアさんがそう言って、隣にいた僕に抱きついてきた。あ、あわわわ、これはスキンシップだ、落ち着け自分、落ち着け自分……。


「あ、エレノア先輩ずるいです! 私もどさくさにまぎれて日車先輩に抱きついて……キャー! 想像しただけで顔が熱くなる!」

「は、橋爪さん、それはやめた方がいいんじゃないかな……あはは」

「あはは、そしたら団吉くんと拓海くんはカメラを買うということで、またサークルが楽しくなりそうだねー!」


 なんとか僕と拓海が買うカメラの候補も見つかった。スマホとはまた違って写真を撮る楽しさも変わりそうで、僕は楽しみになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る