第15話「ダブルデート」
日曜日、僕と絵菜は一緒にショッピングモールへとやって来た。
今日はいつものようにデート……と見せかけて、実はちょっといつもと違った。何が違うかというと、小寺くんと鍵山さんと一緒にダブルデートをする予定になっていたのだ。
池内さんの提案でこうなったのだが、僕自身も少し楽しみにしていた。鍵山さんが想いを寄せる小寺くんがどんな人なのか、今日分かるからだ。
「ここの入り口にいれば僕たちを見つけやすいかな」
「そうだな、佑香からRINEが来て、もうすぐ着くと言っていたから、ここでいいんじゃないかな」
絵菜と二人で話しながら待っていると、鍵山さんの姿が見えた。僕たちに気づいたようでこちらにやって来る。隣には背の高い男の人がいた。
「……こんにちは」
「ああ、佑香よかった、やっぱりここだったら分かりやすかったな。あ、団吉紹介する、こちら小寺」
「ああ! 君が沢井さんの彼氏さんか! はじめまして、小寺十騎といいます」
「あ、は、はじめまして、日車団吉といいます」
小寺くんが手を出してきたので、僕も手を出して握手をした。小寺くんは僕よりも身長が高く、長髪のイケメンという雰囲気があった。なるほど、聞いていた通りの人だなと思った。
「ふむ、日車くんはとてもいい人そうだね! パッと見て分かったよ。それでこそ可愛い沢井さんの彼氏さんってもんだ!」
「あ、いや、まぁ、私は可愛くないけど、団吉は可愛いというか……あれ? 私何言ってるんだろう」
慌てる絵菜を見て、僕たちは笑ってしまった。
「い、いや、僕もなぜか可愛いと言われることがあるけど……小寺くんはカッコいいね」
「あはは、ありがとう、そう言われると恥ずかしいけど、嬉しいよ。ああごめん、こんなところで立ち話してるのももったいないね、中を見て回ろうか」
小寺くんの言う通り、四人でショッピングモールを見て回ることにした。しかしいつもあまりしゃべらない鍵山さんが、さらにしゃべらなくなっているのが気になった。小寺くんとも何か話しているようだが、「……う、うん」と、顔を真っ赤にして一言言うのが精一杯のようだ。
「……佑香、あんな感じでなかなか自分からいけないんだ」
そっと絵菜が僕にそう言ってきた。
「そっか、好きすぎて恥ずかしくてうまく話せないって感じなのかな」
「うん、かなり好きなのは間違いないんだけど、元々あまりしゃべらないからな……私も春奈もそこが心配で」
「ん? 日車くんと沢井さん、どうかした?」
小寺くんが不思議そうな顔で僕たちに話しかけてきた。
「あ、い、いや、なんでもないよ。あ、このブラウスとか鍵山さんに似合うんじゃないかな……あはは」
「おお、ほんとだね、鍵山さんどう? こういう色好き?」
「……あ、う、うん、好き……」
小さな声で鍵山さんが返事をしてくれた。ブラウスの色が好きなことより、小寺くんのことが好きというのを今のように言えたらいいのだろうが、そううまくはいかないか。
「うんうん、鍵山さん可愛いから似合いそうな気がするね! あ、こっちのセーターとかもいいんじゃないかなぁ」
小寺くんの方はというと、ナチュラルに鍵山さんを褒めてどんどん話しかけている。しかし鍵山さんの本当の気持ちには気づいていないのだろうなと思った。なるほど、こういう二人か。今まで何人かカップルを見てきたが、これはなかなか難しい二人なのかもしれないな。
「あ、お昼になったか、みんながよかったら、もんじゃ焼きのお店にいかないか? 以前鍵山さんと来て美味しかったから、みんなで食べても楽しいんじゃないかなと!」
小寺くんの提案により、僕たちはもんじゃ焼きのお店に行くことにした。お客はそこそこいたが待つことなく席に案内された。僕と絵菜、小寺くんと鍵山さんに分かれて座った。
「鍵山さんと来るのは二回目だね、日車くんと沢井さんはもんじゃ焼きを食べたことある?」
「あ、僕は食べたことないな……絵菜はある?」
「いや、私もない、どんなものかは何となく知っているけど」
「そうかそうか! じゃあここは俺にまかせてくれ! 美味しいもんじゃ焼きを作ってみせるよ」
なるほど、もんじゃ焼きは自分たちで作るのか。注文をして、しばらく待っていると具材が運ばれてきた。そして小寺くんが慣れた手つきで具材を混ぜ合わせて鉄板の上で炒め始めた。
「しっかり炒めたら、こうやって円形に広げて土手を作るんだ。そして汁を流し込んで、しばらくぐつぐつと煮立たせればいいよ」
小寺くんが説明をしながら手際よく作ってくれる。しばらく待っていると見たことのある形になってきた。
「よし、できたね、あとはこの小さなヘラで食べるといいよ。熱いから気をつけてね」
小寺くんがもんじゃ焼きを押し付けるようにした後すくって食べた。ニコッと笑顔を見せたがその笑顔もカッコいいな……って、ぼーっとしてないで僕も食べよう。小寺くんの真似をしてみんな食べる。うん、不思議な食感で美味しい味がした。
「なるほど、こういうものなのか、美味しいね」
「お、よかった、日車くんの口に合ったようで。沢井さんと鍵山さんはどう?」
「うん、美味しい。小寺すごいな、手慣れてる」
「……お、美味しい」
「そっかそっか、よかったよ。あ、訊きたかったのだが、日車くんと沢井さんはお付き合いを始めてどのくらい経つの?」
「あ、高校一年生の時からだから、数えると……今年で五年目になるのかな」
「おお、そうなんだね! すごいな、そんなに長いことお付き合いができるのは、お互いそれぞれいいところがあるからなんだろうね!」
「ま、まぁ、団吉が優しいから、私は甘えているというか……佑香もそのうちこうなるといいな」
「……え!? あ、う、うん……」
「おお? 鍵山さんも好きな人がいるのかい? なんだろう、すごく気になるな!」
「……あ、いや、まぁ……うん」
鍵山さんはますます顔を赤くして俯いてしまった。
「あはは、鍵山さんは可愛らしいね! それにしても日車くんと沢井さんは想像以上に長いお付き合いだったよ。俺もそうなりたいなぁ」
「だ、大丈夫だよ、小寺くんもイケメンだから、いい人が見つかるよ。ね、鍵山さん?」
「……え!? う、うん……小寺、カッコいい……」
小さな声でぽつりと言う鍵山さんだった。
「あはは、ありがとう。鍵山さんみたいな可愛い人に言われたら嬉しくなるなぁ」
「……あ、う、うん……小寺は、私を……あ、いや、なんでもない……」
あ、もう少しのような気がしたが、鍵山さんはそれ以上言うことなくジュースに口をつけていた。
美味しいもんじゃ焼きを食べた後、僕たちは雑貨を見たり、ゲームセンターに行ったりして楽しんだ。鍵山さんも小寺くんと楽しそうに話していて、よかったなと思った。
あと一歩を踏み出すのが難しいかもしれないが、なんとか頑張ってほしい。
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