第14話「久しぶりに」
ある日、今日の午後は講義がないため、何をしようかと思っていたら、絵菜から『団吉、今日の午後空いてる? 春奈と佑香が団吉に会いたいと言っていて』というRINEが来た。
まぁバイトもないし、絵菜とも会えるし、それもいいなと思って、『うん、午後は空いてるから大丈夫だよ』と返事を送った。
僕は講義が終わってから、絵菜の学校の最寄り駅へと行く。たぶんここで降りるのは初めてだ。ちょっとドキドキしながら改札をくぐると、向こうに絵菜と池内さんと鍵山さんがいるのが見えた。
「あー来た来た! 団吉さん、お久しぶりー!」
「……お久しぶり」
「ああ、お久しぶりです。あ、タメ口でいいって言ってたね、ごめん」
「いえいえー! それにしても団吉さん、いつ見ても可愛いねぇ、絵菜が惚れるのが分かるなー!」
「……うん、可愛い」
「え、そ、そうかな、そうでもないと思うけどね……」
よくしゃべる池内さんと、あまりしゃべらない鍵山さん。二人は変わらず可愛らしい感じがした。
「……ちょ、ちょっと二人とも、団吉には私がいるからな……」
「あははっ、もー絵菜ったら相変わらず可愛いんだからー! 大丈夫だよー、絵菜の団吉さんをとったりしないから!」
「……うん、団吉さんは絵菜のもの」
「え、か、可愛くはないと思うが……ま、まぁそういうこともあるというかなんというか……あれ? 私何言ってるんだろう」
慌てる絵菜がめずらしくて、僕はつい笑ってしまった。
「あ、団吉、お昼食べた?」
「あ、いや、まだ食べてないよ」
「団吉さんもお昼まだなんだね、よーし、そしたらそこのハンバーガー屋にでも行かない? 私お腹空いちゃったよー」
「ああ、いいね、そうしようか」
四人で駅の近くのハンバーガー屋に行く。ここは絵菜たちがたまに来ているらしい。僕は何にしようかと迷って、てりやきチキンバーガーセットを注文した。
奥の席に僕と絵菜、池内さんと鍵山さんに分かれて座った。
「よし、食べよ食べよー、いっただきまーす!」
「……春奈は色気より食い気」
「あーっ、佑香ったら、生意気なこと言ってー!」
そう言って池内さんが鍵山さんをポカポカと叩いている。以前と同じ光景がそこにあった。
「なんか、池内さんも鍵山さんも変わらないみたいで、安心したというか」
「あははっ、そーなんだよー、あ、でも佑香は変わったかなー」
「あれ? そうなの?」
「うん、なんといっても今は恋をしているからねー! 絵菜から聞いていると思うけど!」
今度は池内さんが鍵山さんの頬をツンツンと突いた。鍵山さんはびっくりしたような顔をして慌ててジュースを飲んでいた。
「ああ、そういえば小寺くん……だっけ、鍵山さんが彼を好きになったとか」
「そーなんだよー、まぁあいつもイケメンだからねぇ」
「……ただ、小寺はちょっと鈍感なところがある。私も春奈もそこを心配している」
絵菜がぽつりとつぶやいた。なるほど、もしかしたら鍵山さんの恋心が小寺くんに伝わっていない可能性があるのか。
「そ、そっか、それは難しいね……鍵山さんはもっと仲良くなりたい?」
「……え!? あ、う、うん……」
あわあわと慌ててポテトを食べたりジュースを飲んだり、落ち着かない鍵山さんだった。
「うーん、佑香がもっとぐいぐいいけたらいいんだけどねー、私と違っておしゃべりもそんなに上手じゃないし、難しいんだよねぇ」
「なるほど……なかなか自分からいけないんだね」
「鈍感な小寺に気づいてもらうには、もっと自分からアプローチしないといけないんだけどな……」
池内さんと僕と絵菜がうーんと考え込む。鍵山さんは顔を赤くして俯いてしまった。
「まぁでも、おとなしい鍵山さんというのが鍵山さんのいいところでもあるんじゃないかなぁ」
「おっ、団吉さんいいこと言うねぇー、いきなりぐいぐいいくのも佑香らしくないかぁ。でもなんとか距離を縮めてほしいんだけどなぁ……あ、そうだ!」
その時、池内さんがぽんと手を叩いた。何かあったのだろうか。
「団吉さん、絵菜、ここは佑香と小寺と一緒にダブルデートしてくれないかなぁ? 佑香も二人がいれば二人きりの時よりもちょっとは安心するかもしれないしさ、どーかな?」
池内さんがニコニコしながらそう言った。なるほど、ダブルデートか、たしかに二人きりだと緊張するかもしれないので、誰かいたら気持ちも楽になって、小寺くんと話せるかもしれないなと思った。
「なるほど、ダブルデートか……それは思いつかなかった。僕はいいけど、絵菜と鍵山さんはどう?」
「わ、私も大丈夫。佑香はどう?」
「……え、あ、あの……」
顔を赤くした鍵山さんがまたあわあわと慌てた。どうしたらいいのか分からないような顔をしていたが、
「……うん、行きたい」
と、小さな声で返事をしてくれた。
「よーし! これで決まりだね! 佑香、大丈夫だよ、団吉さんと絵菜がいてくれるから。ぐいぐいいけとは言わないけど、ちょっとは近づきやすくなるんじゃないかな!」
「……う、うん」
「そうだね、やっぱり鍵山さんは小寺くんが好き?」
「……う、うん、好き……」
「そっか、うん、その気持ちは大事だと思うよ。それに――」
僕は鍵山さんの目を見て、話を続けた。
「好きな人がいて、好きって言える鍵山さんがとても素敵だよ」
僕はいつものセリフを鍵山さんに言った。何度言ってもこれは言い過ぎかなと思ったが、
「……う、うん、ありがとう、頑張る……」
と、鍵山さんは小さな声で言ってくれた。
「あははっ、もー団吉さんったら、いいこと言うじゃーん! 絵菜が惚れるのも分かる気がするなー!」
「ま、まぁ、団吉が好きなのは間違いないというか……あれ? 私また何言ってるんだろう」
また絵菜が慌てていて、僕はつい笑ってしまった。
「いいなー、恋をするっていいなー、あー私にもいい人が現れないかなぁー」
「……慌てないのが大事」
「そうだな、慌ててもいいことないと思う。春奈にもきっとそのうちいい人が現れる」
「そーだねー、慌てないようにしますかー! ああ、ハンバーガー冷めちゃった、食べよーっと」
そう言ってパクパクとハンバーガーを食べる池内さんだった。
それにしても、小寺くんか、イケメンとは聞いているが、どんな人なのだろうか。鍵山さんの気持ちがなんとか届くといいなと思っていた。
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