第12話「お酒の席」

 それから僕たちは歓迎会という名の飲み会を楽しんでいた。

 みんなたくさん食べて飲んでいる。先輩方三人はお酒で、僕たちと後輩の五人はジュースだ。楽しい時間が流れていた。


「ぷはーっ、ビールがうまい! やっぱりこの時が最高だね~」


 川倉先輩が三杯目のビールをグイっと呑んで、焼酎に移ろうとしている。いつも通りの流れだった。


「亜香里先輩はいつも通りだね、ボクはちびちびとしか呑めないからうらやましいよ」


 慶太先輩は顔を赤くしながらちびちびとビールを呑んでいた。そんなにたくさんは呑めないとはいえ、この場が楽しいのは間違いないだろう。


「あはは~、慶太は無理しなくていいからね~、お酒は楽しく呑むものだからね~。ねぇ拓海くん、私酔ってきちゃった~、寂しくなっちゃったなぁ~」

「ええ!? あ、亜香里さん大丈夫? 今日も一緒に帰るから……」


 いつものように拓海に絡む川倉先輩だった。


「ひ、日車先輩、川倉先輩と印藤先輩って、もしかして……」

「ああ、あの二人はお付き合いしているんだよ。去年からね」

「そうなんですね! お付き合いかぁー、いいなぁ、私も日車先輩みたいなカッコいい人見つけよっと!」


 橋爪さんが「キャー!」と言いながら盛り上がっている。ま、まぁいいか。


「アオイ、めがいい。ダンキチはかわいくてかっこいい」

「え!? そ、そうかな、まぁ褒められると嬉しいというか……はっ!?」


 その時、会話にあまり参加していない人に気が付いた。左隣を見ると、焼酎のグラスを持ってじーっとこちらを見る成瀬先輩がいた。


「あ、な、成瀬先輩、お酒の味はいかがですか……?」

「ふふふ、美味しかよ~、それにしても団吉くんはモテモテやね~、まぁ団吉くん可愛いから、仕方ないっちゃろうね~」

「え!? い、いえ、モテモテではないと思いますが……って、ち、近――」


 いつもは口にしない博多弁全開で、ぐいぐいと僕に迫って来る成瀬先輩だった。


「まったく、蓮さんも相変わらずだね、団吉くんすまないね、許してやってくれたまえ」

「あ、だ、大丈夫です……なんか近いけど……あはは」

「蒼汰くんも葵ちゃんも、しっかり食べて飲まないといけんからね~、遠慮はしちゃいかんばい、食べる子は育つっていうけんね~」

「あはは~、そうだよ~、遠慮はしちゃダメよ~、しっかり食べてね~」

「え!? あ、は、はい、なんか川倉先輩と成瀬先輩、いつもと違うような……」

「わ、私もいただきます……! なんだろう、雰囲気が違うというか……」

「あ、ご、ごめんね二人とも、深くは気にしてはダメだから……」


 川倉先輩と成瀬先輩に押されっぱなしの僕たちだった。


「それにしても、さっきも話していたけど、団吉くんと拓海くんとエレノアさんが呑めるようになるのももうすぐだね、ボクも嬉しいよ」


 慶太先輩が笑顔で言った。


「あ、はい、先輩方がお酒を楽しんでいるのがうらやましかったので、僕も呑めるようになりたいなと」

「俺も団吉と同じです。みなさん楽しそうで、うらやましかったっつーか」

「ケイタ、じっくりまってて、わたしおさけのめるようになる、おつきあいする」

「あはは、そうだよね、飲み会がもっと楽しくなるとボクは思うよ。三人がどんな呑みっぷりなのか、楽しみだね」

「あはは~、三人が呑めるようになったら、絶対にここに来ようね~」

「ふふふ、団吉くんは私と呑むけんね、そのときば楽しみにしとうけんね~」

「ま、まぁ、ここまで呑まなくてもいいから、三人とも自分のペースでね」


 慶太先輩が少し笑いながら言った。たしかに、自分が呑める範囲で楽しむのが一番だろう。しかし僕はどのくらいお酒を呑めるのだろうか、ちょっと楽しみだった。



 * * *



 時間も遅くなってきたので、今日は解散ということになった。川倉先輩は拓海が、成瀬先輩とエレノアさんは慶太先輩が送って行くことになった。僕は天野くんと橋爪さんと一緒に帰ることにした。


「二人とも楽しかった?」

「あ、はい、すみません今日は僕たちの分を出してもらって……不思議な感じですが、これが大学生なのかと実感したというか」

「私もお礼を! ありがとうございました! こ、これが大学生というやつですね……! 日車先輩も大人に見えました!」

「そ、そうかな、あまり変わりはないように自分では思うんだけどね……」


 でも、二人の気持ちも分かるなと思った。僕も去年同じようなことを思っていた。そして今年は自分がお酒が呑める年齢となる。そちらは少し不思議な感じがした。


「日車先輩がお酒呑んだら、どうなるんでしょうね」

「うーん、川倉先輩や成瀬先輩のようにはならないと思うけど……あ、そんなこと言ったら二人に失礼か」

「うふふー、そういう日車先輩の優しいところ、いいと思います! 私でよかったらいつでも飛び込んできてもらっていいですよ!」

「え!? い、いや、さすがにそれはまずいような……あはは」


 どうしよう、酔って女性に抱きつくようなことがあったら……その時こそ絵菜にぶん殴られそうな気がした。

 電車に乗って話していると、橋爪さんの家の最寄り駅に先に着こうとしていた。天野くんは地元が一緒なので僕と駅前まで帰ることになる。


「橋爪さん、家まで送って行こうか? 暗いし」

「いえいえ、明るい道を通って帰るので大丈夫です! じゃあ日車先輩、今日はありがとうございました! 天野くんもまた!」

「そ、そっか、お疲れさま、ほんと帰り道気を付けてね」


 手を振りながら橋爪さんが降りて行った。


「橋爪さんも楽しそうですね、よかったです。実は高校三年生の時、模試の判定が最後までギリギリで、本人かなり不安だったみたいで」

「あ、そうなんだね、あれ? 模試の判定がよくなったって前は聞いていたけど……」

「日車先輩に嘘ついたみたいです。まぁでも、こうして憧れの日車先輩と同じ大学に行けて、嬉しいんだと思います」

「そっか、うん、天野くんも橋爪さんも頑張ったから今があるよね。これからもっと楽しもうか」


 そんなことを話しながら、天野くんと一緒に帰った。これから色々なことがあるけど、じっくりと楽しんでもらいたいなと思っていた。

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