第11話「歓迎会」

 今週も金曜日になった。

 講義が始まり、僕も忙しい毎日を送っていた。講義を受け、サークル活動を行い、バイトにも入る。一年間続けてきたこととはいえ、なかなか大変だなと思った。

 まぁ、そんな大変な一週間も終わりということで、今日は行くところがあった。まずはサークルの部室に行くことにする。


「おっ、団吉くんお疲れさまー!」

「お疲れさまです。あ、僕が一番最後だったのですね」

「やあやあ、団吉くんお疲れさまだね。よし、これでみんな揃ったね、じゃあみんなで行くことにしようか! ボクはこの日を楽しみにしていたよ」

「ふふふ、私も楽しみにしていました。みなさんで行きましょう!」


 僕たちは自然と笑顔になる……のだが、何のことか分からないような顔をしている人が二人いた。天野くんと橋爪さんだ。


「あ、あの、先輩方、行くってどちらへ……?」

「ああ、二人ともついて来てくれれば分かるよー! じゃあ行こっか!」


 そう言って川倉先輩が天野くんと橋爪さんの手をとった。天野くんはちょっとびっくりしていたかな。川倉先輩のスキンシップなので、慣れてほしい。

 サークルメンバーで行くとなれば、もうあそこしかない。だいたい分かると思うが、そこは――


「着いたよー! さあ、今日はここで盛り上がりましょう!」

「……あ、あれ? ここは……居酒屋ですか……?」

「な、なるほど、私行ったことなくて、どうすればいいのか……」

「大丈夫だよ、二人はちゃんとジュースをもらうからね、入ろうか」


 僕は二人の背中をポンと叩いた。二人は緊張しているのか、キョロキョロしている。


「――おっ、いらっしゃい! 亜香里ちゃんたちじゃねぇか!」


 店の中から元気な声が聞こえてきた。ここ『酒処 八神』の店主、八神やがみ宗吉そうきちさんだ。明るくて豪快に笑う、楽しい人だ。


「大将ー! お久しぶりになっちゃいました! みんなで来ましたー!」

「おう、連絡もらってたから、奥に席用意してるよ! 座ってくれ」


 僕たちは奥の座敷席に座ることにした。テーブルが二つくっつけてある。今まではテーブル一つでなんとかなっていたが、今は八人だ。改めて写真研究会もメンバーが増えたなと思う。


「よっしゃ、みんな座って座ってー! そして大将! ビール三つとコーラ五つお願いします!」

「おう、そう言うと思って用意してるよ! すぐ持って行くよ!」


 川倉先輩が大将に声をかけると、本当にすぐに大将がビールとコーラを持って来てくれた。


「おっ、見かけない子がいるじゃねぇか、新入生かな?」

「ああ、そうですー! 新しく入った二人です。蒼汰くん、葵ちゃん、こちらがここの大将の八神宗吉さん」

「は、はじめまして、天野蒼汰といいます」

「は、はじめまして! 橋爪葵といいます!」

「はじめまして、八神宗吉です。そうかそうか、またメンバーが増えたんだな! いいことだ、あっはっは」


 大将がいつものように豪快に笑った。天野くんと橋爪さんは恥ずかしそうにしていた。


「よし、大将もいることだし、食べ物注文しようかー! みんな食べたいもの言ってー!」


 川倉先輩の一言で、みんな食べたいものを注文している。一通り注文が終わると大将は「おう! 任せとけ、作って来るからな!」と言って奥へ戻って行った。

 その時、奥から一人の女性がやって来た。


「あら、亜香里ちゃんお久しぶりね」

「ああ! 章子しょうこさん! お久しぶりですー! 今日はお手伝いですか?」

「ええ、予約もいくつか入っていたので、手伝おうと思ってね。それにしても亜香里ちゃんのところもメンバーが増えたのね。賑やかでいいわね」

「あはは、みんなで楽しくやってます! あ、団吉くんたちから下の世代ははじめましてだね、こちら大将の奥さんの八神やがみ章子しょうこさん」

「はじめまして、いつも来てくれているみたいね、話は聞いているわ」


 な、なるほど、大将の奥さんだったか、僕たちは慌てて自己紹介をした。


「ふふふ、みんな可愛いわね、今日は楽しんでね」

「ありがとうございます! じゃあ亜香里先輩、飲み物あるしいつものように一言お願いできるかい?」

「よっしゃ! それではみなさん、新しい年度が始まって、蒼汰くんと葵ちゃんが入ってくれて、写真研究会もますます賑やかになって嬉しいです。今日は二人の歓迎会ということで、じゃんじゃん呑んで食べましょう。乾杯!」


 僕たちは「かんぱーい!」と言ってグラスを当てた。


「な、なるほど、僕たちの歓迎会だったんですね……すみません、ありがとうございます」

「わ、私も気づかなくて……ありがとうございます!」

「いえいえー、二人とも遠慮なくじゃんじゃん飲んで食べてねー!」

「ああ、二人はお酒はまだだけど、遠慮はしないでくれたまえ!」

「そうです、みんなで楽しく飲んで食べましょう!」


 先輩方が嬉しそうだ。僕も嬉しい気持ちになった。


「みんなたのしそう。わたしもたのしい。ダンキチは?」


 僕の隣にいたエレノアさんも笑顔だった。もしかしたら日本語が分からないところもあるかもしれないが、楽しい雰囲気は伝わるだろう。


「うん、僕も楽しいよ。エレノアさんも楽しんでね。あ、料理来たから、食べようか」


 章子さんが料理を持って来てくれたので、僕たちはいただくことにした。あ、イカのフライが美味しい。お刺身もぷりっとしていて、口の中に美味しさが広がる。


「おー、やっぱり美味しいな、鶏の唐揚げも安定の美味しさっつーか」

「ほんとだね、美味しいよ。エレノアさんも食べてる?」

「うん、たべてる。おいしい。ソウタ、アオイ、えんりょいらない、じゃんじゃんたべて」

「あ、いただいてます……美味しいです。エレノア先輩ほんとに日本語お上手ですね」

「私もいただいてます! 美味しいです! そういえば日車先輩たちは今年二十歳ですよね、もうすぐお酒が呑めるのですか?」

「うん、僕は五月五日が誕生日だから、もうすぐだね、拓海は誕生日いつ?」

「俺は七月五日だ。ちょうど団吉の二か月後だな、エレノアさんは誕生日いつ?」

「あ、たんじょうび、わたし六月三日。おさけのめるのもうすこし」

「あはは、そっか、三人は誕生日が一か月おきにやって来るねー! そしたら夏頃にはみんなお酒呑めるようになっているのか、楽しみだー!」

「ああ、ボクもその時を楽しみにしているよ!」

「ふふふ、私も三人と一緒にお酒呑みたいです!」


 先輩方が笑顔で言った。うん、夏頃には僕たち三人もお酒が呑めるようになっている。それも楽しみな僕だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る