第10話「同じクラス」

「ただいま……って、あれ?」


 私は家の玄関のドアを開けて、真菜の靴があることに気が付いて、あれ? と思ってしまった。真菜はバスケ部のマネージャーをしている。今日は部活がなかったのだろうか。

 そんなことを思いながらリビングへ行くと、真菜がソファーでくつろいでいた。


「あ、お帰りお姉ちゃん」

「ただいま……って、真菜、部活はなかったのか……?」

「ああ、新年度が始まってすぐだからね、今後の練習内容の確認で今日は終わったよ。明日から本格的に練習が始まるかな」

「あ、そうなんだな……まぁ、たまにはそういうこともあるか」

「うん。あ、お姉ちゃん、今日の夕飯、豚の生姜焼きにしようかと思うけど、いい? お母さんちょっと帰りが遅くなるかもしれないって連絡あって」

「あ、うん、大丈夫」


 真菜がキッチンへ行って、ジュースを持ってきてくれた。私は「あ、ありがと」と言って飲むことにする。豚の生姜焼きか、やっぱり生姜を使っているのかな……? と、作り方がよく分かっていない私だった。


「そうだ、お姉ちゃん聞いて聞いて! 三年生になって日向ちゃんと長谷川くんと、さらに梨夏りかちゃんまで一緒のクラスになったよ! それがもう嬉しくて!」

「あ、そっか、それはよかった。三年生は一緒のクラスになりやすい何かがあるのかな……」


 そういえば私も高校三年生の時は、団吉やみんなと一緒のクラスになったなと思い出していた。団吉の言うように見えない力が働いているのだろうか。見えない力ってなんだ?

 真菜が言った梨夏ちゃんとは、潮見しおみ梨夏りか。二つ結びの可愛らしい女の子だ。たしか潮見は生徒会に入っていて、書記を務めているはずだ。


「うんうん、何かがあるのかもしれないね! そうだ、お兄様と日向ちゃんと通話できないかなぁ?」

「あ、分かった、ちょっと訊いてみるか……」


 私はスマホを取り出して、団吉にRINEを送ってみることにした。


『団吉、今何かしてる?』


 短いけどまぁいいかと思って送る。忙しいかな……と思っていると、五分くらいで返事が来た。


『今帰ってきてのんびりしようとしてたところだよ。何かあった?』

『そっか、真菜が通話したいって言ってるから、ビデオ通話できないかなと思って』

『うん、いいよ。こっちにも日向がいるよ』


 いいよと団吉が言ってくれたので、私はビデオ通話をかけた。すぐに団吉が出てくれて、画面に団吉と日向ちゃんが映し出された。


「も、もしもし」

「もしもし、お兄様、日向ちゃん、こんにちは!」

「絵菜さん、真菜ちゃん、こんにちは!」

「こんにちは、二人ともお疲れさま。何か話したいことでもあった?」

「お兄様、もうお聞きになったかもしれませんが、私と日向ちゃんと長谷川くんと梨夏ちゃんが、同じクラスになりまして! もう嬉しくて嬉しくてついご報告したかったというか!」

「ああ、さっき日向に聞いたよ。みんな同じクラスになったんだね、よかったよかった」

「真菜ちゃん、やったね! 三年生になっていきなりいいことがあったねー!」

「うん! これで女子の秘密の話がクラスでできるね!」


 真菜と日向ちゃんが「ねー」と言っている。私は女子の秘密の話は少ししか加わったことがないが、だいたい何を話しているかは想像できる。まぁ楽しそうでよかったなと思った。


「や、やっぱり女子の秘密の話というのがよく分からないけど……ま、まぁいいか。やっぱり三年生は一緒になるという見えない力が働いているのかなぁ」

「ふふっ、そうかもしれないな。私も三年生の時嬉しかったからな」

「僕も嬉しかったよ。もう絵菜が悲しむ顔は見たくないと思っていたからね。ほんとによかったよ」


 団吉がニコッと笑顔を見せた。団吉は可愛い顔をしているが、最近カッコいい雰囲気も出てきた。これが大人になるということなのかな。


「あ、そういえば、団吉、日曜日はありがと。エレノアさんにも会えて嬉しかった」

「いえいえ、こちらこそありがとう。あの後エレノアさんからRINEが来てね、『エナはかわいい。ダンキチだいじにして』と言われたよ」


 そう言って団吉が笑ったので、私も笑ってしまった。なんかエレノアさんにはすごく懐かれてしまったが、金髪同士というのがよかったのだろうか。


「お兄ちゃん、エレノアさんって、前に言ってた留学生の人?」

「そうそう、この前三人で遊びに行ってね、エレノアさん嬉しそうだったよ」

「まあまあ、お兄様、大学ってすごいですね、留学生の方がいるんですね」

「うん、出会いは偶然だったけど、エレノアさんも遠い異国の地で一人になっていたからね、自分のことも思い出して見過ごせなかったというか」


 団吉が顔をかいていた。少し恥ずかしいのだろうか。でも、それも優しい団吉らしくて、いいなと思った。


「ふふっ、団吉はやっぱり優しいな、そういうところが好きだ」

「ふふふ、お兄様らしいですね、そういうところがいいのです」

「そうだよねー、さすがお兄ちゃんって感じ!」

「あ、ありがとう、やっぱりこれが僕らしいのかな……よく分からないけど、誰かの役に立ったと思うと、嬉しいよ」


 また団吉が恥ずかしそうにしていた。その姿も可愛い。


「ふふっ、恥ずかしそうにする団吉も可愛い。あ、そういえば春奈と佑香が、また団吉に会いたいと言っていた……そのうち会ってくれるかな?」

「ああ、うん、いいよ。な、なんで僕なのかよく分からないけど、僕なんかでよければいつでも」

「ありがと。二人に伝えておく」

「うんうん。しかし日向も真菜ちゃんも高校三年生か、受験生だね。またしっかりと勉強していかないと――」

「お、お兄ちゃん! 楽しい話してるのに勉強の話はダメ!」

「お前が一番頑張らないといけないんだからな。まったく、すぐ逃げようとするんだから……また教えてやるからな」

「う、ううー、お兄ちゃんが厳しい……アホー」


 ぶーぶー文句を言ってポカポカと団吉を叩く日向ちゃんだった。それを見て私と真菜は笑ってしまった。


「お兄様、また勉強を教えてもらえると嬉しいです」

「うん、いいよ。真菜ちゃんはさすがだね、うちの大学受けたい気持ちは変わらない?」

「はい! お兄様の後輩になることを夢見てます! そのためにはもっと頑張らないと」

「そっか、真菜ちゃんなら大丈夫だよ。自信持ってね」


 真菜が嬉しそうな笑顔を見せた。うん、真菜が頑張って団吉の後輩になってくれると、私も安心するというか……妹を心配しすぎなのかな。

 そんな感じで、四人で通話を楽しんでいた。私は嬉しい気持ちになっていた。

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