第8話「会いたい」
バイトに入った次の日の日曜日、僕は絵菜とデートをする予定にしていた……のだが、昨日の夜、
『だんきち、あしたひま? えなにあいたい』
と、エレノアさんからRINEが来たのだ。しまった、絵菜とデートの予定があるんだよな……申し訳ないけど次の機会にしてもらうか……と思いながら、一応そのことを絵菜に話すと、
『あ、私も会いたい。どんな人か気になって』
と、絵菜に言われてしまった。そ、そうか、絵菜が会いたいと言うなら……と思って、エレノアさんに大学の校門で待ち合わせしようと伝えると、嬉しそうなRINEが来た。
そういうわけで、今絵菜と大学に向かっている。休みの日もこの道を歩くのは不思議な感じがするが、まぁこういうこともあるかと思った。
「エレノア……さん、だったよな? どんな人なんだろ……」
「ああ、絵菜と一緒で金髪が綺麗な人だよ。片言だけど日本語も話せるから、翻訳アプリはいらないんじゃないかな」
「そっか、よかった。私は英語ができないからな……」
そんな話をしながら大学へ行くと、校門のところにエレノアさんがいた。僕に気が付いたようで、駆け寄って来た。
「ダンキチ! おはよう」
「おはようエレノアさん、あ、紹介するね、こちらが沢井絵菜さん」
「オー! エナ! はじめまして、わたしエレノア・クルス。エナきんぱつ! わたしといっしょ!」
そう言ってエレノアさんが絵菜に抱きついた。
「……え!? あ、は、はじめまして、沢井絵菜といいます……」
「エナ、かわいい。ダンキチのすきなひと。わたししってる」
「あ、そ、そっか、知ってたんですね……」
「あ、エナ、タメ口でいい。わたしもタメ口」
「え!? あ、わ、分かりまし……分かった」
ぎゅっと絵菜に抱きついて離れないエレノアさんだった。絵菜は恥ずかしいのか、どうしたらいいのか、分からないような顔をしていた。
「あはは、絵菜、エレノアさんに好かれてしまったようだね」
「あ、ああ、金髪なのがよかったのかな……」
「エナと、てをつなぐ。ダンキチ、どこにいく?」
「あ、じゃあこの近くの商業施設に行ってみようか、電車に乗らなくていいし、色々あるしね」
僕たちは大学の近くの商業施設に行くことにした。エレノアさんがずっと絵菜の手を握っている。嬉しそうでよかったなと思った。
商業施設のゲームセンターに立ち寄った。あ、UFOキャッチャーがあるな、しかもトラゾーのぬいぐるみだ。トラゾーとはゆるキャラグランプリにも出たご当地キャラだ。ぬいぐるみも可愛い。
「ダンキチ、これはなに?」
「ああ、トラゾーっていって、このあたりで有名なキャラクターだよ」
「そっか、かわいい。あ、これ、ダンキチがスタンプおくってきた?」
「あ、うん、そういえば送ったね。ちょっと取れるかやってみようか」
僕はUFOキャッチャーをやってみることにした。僕の横で絵菜が、台の横でエレノアさんが見てくれている。まずはアームを横に動かす……絵菜が「ストップ!」と言ったところで止めた。そして奥に動かす……エレノアさんが「すとっぷ!」と言ったところで止めた。そのままアームが下がって行く……あ、ちょっとずれていたかな? アームが上がると掴みきれなかった……が、右側にうまく引っかかって、コロッと出口に転がった。やった、うまくいったようだ。
「団吉すごい、取れたな」
「ああ、よかった、ちょっとずれたかなと思ったけど、ラッキーだったね。よかったよかった」
「ダンキチじょうず。わたしもすとっぷおしえた」
「ありがとう、絵菜とエレノアさんのおかげだよ」
「よかったな、あ、じゃあそのぬいぐるみ、エレノアさんにプレゼントするのはどうだ?」
「あ、いいね、エレノアさん、これプレゼントするよ」
「え、い、いいの?」
「うん、三人で頑張って取ったものだからね、大事にしてもらえると嬉しいよ」
「ありがとう! ダンキチもエナもやさしいね、だいすき!」
嬉しそうにトラゾーのぬいぐるみを抱えたエレノアさんが、また絵菜に抱きついていた。
「……え!? あ、だ、大好きって……」
「ああ、エレノアさん流の感謝の言葉みたいだよ、よかったね」
「あ、そ、そうなのか……ん? もしかして団吉も言われてる……?」
「ああ!! い、いや、そうなんだけど、好きにも色々な形があって、その、あの……」
「ふふっ、慌てる団吉も可愛い。でもなんか嬉しくなるな」
ニコニコ笑顔で絵菜と手をつなぐエレノアさんだった。
その後商業施設を見て回って、何か食べようとフードエリアに来た。今日はエレノアさんがいるからな、何か日本らしいものを食べるのもありだな……と思って、たこ焼きを食べることにした。
「ダンキチ、これはなに?」
「これはたこ焼きといって、関西という日本の地方で有名な食べ物だよ、中にタコが入っているよ。あ、エレノアさんタコ食べられるかな……そこ考えてなかった……」
「たこ、たこ、たべたことあるかな、わからない」
「そっか、まぁ食べられなかったら僕たちが食べるから、一つ食べてみない? 熱いから気をつけてね」
「うん、いただきます……あ、あふい」
エレノアさんがはふはふと、口を動かしている。熱かったか、「ゆっくりと食べてね」と声をかけると、
「……おいしい! たこ、ふしぎなかんじ! でもおいしい!」
と、エレノアさんが笑顔で言った。
「ふふっ、よかったな団吉、美味しいと言ってくれて」
「ほんとだね、タコが合わなかったらどうしようと思った……僕たちも食べようか」
「うん、いただきます」
みんなでたこ焼きを食べる。そういえば僕の家でたこ焼きパーティーをしたことがあったな。いつかエレノアさんも呼んであげると喜ぶかもしれないなと思った。
「ダンキチ、エナのどこがすき?」
その時、エレノアさんからどストレートな質問が来て、僕はたこ焼きを喉に詰まらせるところだった。え、絵菜の好きなところか……。
「え!? あ、そ、その、絵菜はちょっと怖がりで、寂しがりやなんだけど、そこも可愛くて、金髪も綺麗で、笑顔も可愛くて……あれ? 可愛くてって二回言ったな……ぼ、僕は何を言っているんだろう」
「ふふふ、エナかわいいのわかる。きんぱつきれい。エナはいいひと」
「……あ、ありがと。な、なんだろう、すごく恥ずかしい……」
恥ずかしそうに俯く絵菜の頭を、エレノアさんがよしよしとなでていた。
美味しいたこ焼きを食べた後、僕たちは三人で商業施設を見て回った。ずっと絵菜にくっついているエレノアさんも嬉しそうだ。僕も嬉しい気持ちになっていた。
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