第6話「紹介」

 金曜日、大学のオリエンテーション期間が今日で終了する。

 僕と拓海は真面目に先生の話を聞いた。うーむ、やはり二年生になると専門的な科目も増えてくるのだな。ある意味どんとこいというか、気合いが入った気がした。

 今日は昨日話していたように、僕と拓海はやることがあった。それは――


「――あ、日車先輩、印藤先輩、お疲れさまです!」


 元気のいい挨拶が聞こえてきた。見ると天野くんと橋爪さんがこちらに来ていた。そう、この二人を捕獲してサークルに連れて行くという、重大な使命が団吉隊員と拓海隊員にはあったのだ。やっぱり某モンスターゲームみたいだな。


「お、二人ともお疲れー」

「ああ、お疲れさま、なんとかオリエンテーション期間が終わったね、どうだった?」

「うーん、やっぱり自分できちんと取り組まないといけないようで、なかなか大変そうだなと思いました」

「わ、私も同じような感じです。できるかな……」

「大丈夫だよ、二人とも真面目で頑張り屋さんなのは僕も知ってるからね。あ、じゃあ部室に行ってみようか」

「はい、よろしくお願いします」


 四人で研究棟の部室に向かう。天野くんと橋爪さんは初めて来るところで、キョロキョロと辺りを見回していた。

 部室のドアを開けたその瞬間――


 パンパンパン!


 急に大きな音が鳴って、僕はびっくりしてしまった。何事かと思ったら、先輩方がクラッカーを鳴らしたようだ。え、どこから持って来たのだろうか。


「え、あ、みなさんどうしたんですか……?」

「ようこそー写真研究会へ! いやーせっかく二人が来るからさ、精一杯迎えてあげようと思ってさー。たまにはいいじゃん?」


 そう言って川倉先輩があははと笑った。ま、まぁいいか、楽しみだったのは先輩方も一緒だろう。


「やあやあ、蒼汰くんと、葵さんだったね、こちらに座ってくれたまえ。蒼汰くんもお久しぶりだね、大学で会えて、ボクは嬉しいよ」

「あ、お、お久しぶりです! 僕も嬉しいです」

「じゃあみんな揃ったところで、自己紹介しようかー! 私がここ写真研究会の代表を務める、川倉亜香里といいます!」


 川倉先輩が挨拶をして、みんなそれぞれ自己紹介をしていた。天野くんと橋爪さんは落ち着かないのかやはりキョロキョロしている。


「ふふふ、二人とも可愛らしいですね、そうだ、写真を見てもらいましょうか」

「ああ、これを見てくれたまえ! これはボクたちが撮った写真だよ」

「わっ、す、すごい……! 学園祭の時も思ったけど、雰囲気があっていいですね」

「ほんとだ、すごい……! 日車先輩も撮っているのですか?」

「あ、うん、まだスマホなんだけどね、先輩方に色々教えてもらって、撮ってるよ」

「さすが日車先輩! カッコいいです!」


 なんだろう、女性にストレートに褒められると嬉しいというか……僕も男なんだな。


「ダンキチ、タクミ、よくがんばった。わたしほめる」

「あはは、エレノアさんありがとう。女性に褒められると嬉しいっつーか」

「あ、拓海くんが鼻の下のばしてる。くそーエレノアちゃんにとられないようにしないと」

「ええ!? あ、い、いや、大丈夫だよ、亜香里さん落ち着いて……」


 女性に褒められて嬉しいのは拓海も一緒のようだ。川倉先輩に怒られないように気を付けて……。


「まぁそれはいいとして、蒼汰くんと葵ちゃんだったね、どうかな? 二人ともうちのサークルに入るつもりはないかな?」

「あ、はい、日車先輩と印藤先輩からも聞いて色々考えたのですが、サークルに入った方が楽しいと思うので、ぜひお世話になりたいなと思いました」

「私も一緒です! ああ、日車先輩と同じサークル……! よろしくお願いします!」


 二人がペコリと頭を下げた。


「よっしゃ! 二人ともありがとうー! それでは改めて、ようこそ写真研究会へ!」


 川倉先輩がパチパチパチと拍手をしたので、僕たちも拍手をする。よかった、二人が入ってくれると知って、僕も嬉しかった。


「あ、ありがとうございます。でも、僕はカメラを持っていないのですが、それでもいいのでしょうか……?」

「あ、私も一緒です。カメラを持っていないのですが……」

「ああ、二人とも気にしないでくれたまえ。今はスマホでも綺麗な写真は撮れるからね。これはみんながスマホで撮った写真だよ!」


 慶太先輩がまたいくつか写真を見せた。


「お、おお、そうなんですね、すごい、綺麗だ……いい写真ですね」

「ふふふ、そうなんです。お二人の先輩の団吉さんも拓海さんもエレノアさんも、カメラを持ってないところからスタートしたから、大丈夫ですよ」

「そうなんですね……! 日車先輩、ぜひ私にもスマホで撮るコツを教えていただけると!」

「ああ、うん、僕も先輩方に教えてもらったことがあるから、二人にも教えるよ。あ、カメラといえば、そろそろ僕はカメラを買おうかと思っているのですが……」

「あ、俺も団吉と一緒で、カメラを買おうかと思っているっつーか」

「おお、そうなんだねー、よっしゃ、じゃあ団吉くんと拓海くんには、私たちからおすすめを教えることにしようかー!」


 そんな感じで盛り上がる僕たちだった。バイトのお金も貯まってきていたので、僕はそろそろカメラがほしいと思っていた。スマホで撮るのもいいけど、カメラでもまた違う景色が撮れるのではないかと、楽しみだった。


「ソウタ、アオイ、かたのちからぬいて。わたしもいる」

「あ、ありがとうございます、エレノア先輩は日本語お上手ですね」

「ほんとだ、エレノア先輩すごい! お世話になります!」

「ふふふ、おせわする。わたしせんぱい。なんかうれしい。ダンキチ、きいた? わたしせんぱい」

「ああ、エレノアさんも先輩になったね、一緒に頑張っていこうね」


 僕がそう言うと、エレノアさんが満足そうな笑顔を見せた。笑顔も綺麗だよな……って、ぼ、僕は何を考えているのだろう。

 天野くんと橋爪さんが入ってくれたことで、我が写真研究会もますます賑やかになりそうだった。僕たちはみんな嬉しい気持ちになっていた。

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