第5話「勧誘」

「みんな今日もお疲れさまー! いやー新しい年度が始まったねー!」


 サークルの部室に川倉先輩の声が響く。今日はオリエンテーションが終わった後、いつものように部室に来ていた。理工学部の第三号館の近くにある研究棟に、我が写真研究会の部室があった。ここはそこそこ広くて、テーブルと椅子があって、壁には写真がたくさん飾ってある。


「ああ、みんなお疲れさまだね! みんなと久しぶりに会うことができて、ボクは嬉しいよ」

「ほんとですね、久しぶりでなんだか嬉しくなりますね」


 慶太先輩と成瀬なるせはす先輩がニコニコ笑顔で言った。成瀬先輩は文学部の三年生で、サークルで出会った丸いメガネが特徴的な可愛らしい女性だ。たまーに僕に近いことがある気がするが、気のせいということにしておこう。


「ケイタとハス、うれしそう。わたしもみんなにあえて、うれしい」


 僕の隣でエレノアさんが笑顔で言った。楽しそうな雰囲気が伝わってくる。


「そうだねー、私は四年生だから、これから研究室にも入らないといけなくてさー、なかなか大変なんだけど、ちゃんとサークルも忘れてないからねー、またみんなで写真撮ろうね!」


 川倉先輩がそう言うと、みんなが「おー!」と声を上げた。そうか、四年生になると研究室に入ることになるのか。それもまた大変そうだなと思った。


「亜香里先輩も忙しくなりそうだね、ボクも蓮さんもゼミに入ることになるから、なかなか忙しくなりそうだよ」

「そうなんです、でもサークルのことは忘れませんよ。みなさんと一緒に楽しみたい気持ちはあるので!」

「そうだよねー、みんな忙しくなるよね。それとさー、こんなこと言うのもアレなんだけど、新しい年度になったっていうことはさ、新入生が入ってきてるよね。我が写真研究会もぜひ新入生を迎え入れたいなと思ってるんだよねー。あ、私ちょっと代表っぽいこと言ったね」


 川倉先輩がテヘッと舌を出したので、みんな笑った。そうだ、サークル活動のためにはもちろんメンバーがいないと意味がない。新入生を迎え入れたい川倉先輩の気持ちがよく分かった。


「そういえば、川倉先輩の上の世代って去年はいなかったのですが、さらに上の世代にサークルメンバーがいらっしゃったのでしょうか?」

「おっ、団吉くんご名答! 私の二つ上の世代はそこそこいたんだけどねー、その人たちが卒業して、ちょっとの間私と慶太と蓮ちゃんの三人だったんだよー。あれは寂しかったなぁ」

「ああ、先輩方がいなくなって、どうなるかと思ったけど、団吉くんと拓海くんとエレノアさんが入ってくれたからね! こんなに嬉しいことはないよ」

「ほんとですね、一時期はどうなるかと思いましたが……でも、今が楽しいからいいということにしましょう」


 先輩方が笑顔でそう言った。なるほど、川倉先輩の二つ上の世代にいたのか。


「ということでさ、今年もなんとか新入生に入ってもらいたいんだけど、勧誘をみんなにも手伝ってもらえたらなーと思ってねー」

「あ、亜香里さん、俺と団吉は新メンバーの候補をもう知ってるよ」


 その時、ずっと聞いていた拓海が声を出した。あ、もしかしてあの二人のことだろうか。


「おお、そうなのー!? なになに、二人の知り合い?」

「うん、あ、これは団吉から言ってもらった方がいいな、団吉、よろしく」

「あ、ああ、あの、僕の後輩の天野くんと橋爪さんが、サークルに入ろうかなって考えているらしくて。まぁ、橋爪さんはもうやる気満々でしたが……」

「ああ、去年学園祭に来てくれた天野さんと橋爪さんですね、そっか、うちの大学に入ってくれたのですね」

「はい、そうなんです。たぶん今頃二人ともサークルの説明とか聞いていると思います」


 先日二人に会った時も、サークルに入るかもしれないと言っていた。二人ともいい人だし、先輩方とも仲良くやっていけるだろう。


「そうなんだねー! よし、ではその二人を捕獲しよう! 団吉隊員、拓海隊員、お願いしてもいいかな!?」

「え!? ほ、捕獲ですか……なんか某モンスターゲームみたいですね……わ、分かりました」

「お、俺も分かったよ」

「よしよし! 二人とも、頑張ってくれたまえ!」


 川倉先輩はそう言って僕と拓海の背中をポンポンと叩いた。な、なぜ慶太先輩みたいな口調なのか分からないが、ま、まぁいいか。


「ダンキチ、タクミ、がんばってくれたまえ」

「あ、わ、分かった……エレノアさん、そこ真似するんだね……あはは」

「ふむふむ、蒼汰くんは無事にうちの大学に入ることができたのだね! 素晴らしいね、さすがボクが見込んだ男だよ」

「あ、はい、天野くんは慶太先輩とも会いたがっていました。そしたら明日あたり時間が合えば連れて来ましょうか」

「そうだねー! よーし、これで二人が入ってくれると、我が写真研究会も各学年にメンバーがいることになるね! 楽しみだー!」

「ほんとですね、さらに賑やかになりそうで、楽しみです!」


 先輩方が笑顔になっている。まぁ、メンバーが増えることはいいことだろう。誰もいなくなってサークル自体がなくなる……なんてことにはなりたくない。なんとか天野くんと橋爪さんが入ってくれるといいなと思った。


「ダンキチ、アマノとハシヅメ、ファーストネーム、なんていうの?」

「ああ、天野くんは『蒼汰』で、橋爪さんは『葵』だよ」

「ふむ、ソウタとアオイ、おぼえた。ふたりがくると、わたしうれしい」

「あはは、そうだね、僕も嬉しいよ。エレノアさんも楽しみにしててね」

「団吉、天野くんと橋爪さんに、連絡しておいてくれるか? 俺隊員なのに何もできないな」

「あ、うん、任せておいて。じゃあ明日四人で集まって、ここに来るようにしようか」

「そうだな、そうするか。よし、なんとか二人が入ってくれるといいんだけどなー」


 エレノアさんも拓海も楽しみのようだ。僕は帰ってから天野くんと橋爪さんに連絡しておこうと思った。二人がサークルに興味を持ってくれることを願って。

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