第3話「通話」

「ただいまー」


 二年生初日もオリエンテーションが終わり、僕は家に帰って来た。玄関にみるくが「みゃー」と鳴きながらやって来たので、頭をなでてあげていると、パタパタと足音を立てて日向がやって来た。


「おかえりお兄ちゃん、二年生初日はどうだった?」

「ああ、まぁオリエンテーション期間だから、これから学ぶ科目の説明や登録をして終わったよ」

「へぇー、大学ってなんだか難しそうだねー、でもお兄ちゃんなら大丈夫か!」

「いやいや、僕も油断しないようにしないと、単位が足りないとかなったら大変だからなぁ」


 そんなことを話しながらリビングへ行く。母さんはまだ帰って来ていないのか。まぁまだちょっと早いし当然だろう。


「今日、私が夕飯作ろうと思うけど、カレーでもいい?」

「ああ、うん、もちろん。日向のカレー美味しいんだよな。あれ? 以前もこんなことがあったような……」

「そうだっけ? まぁ、美味しいカレー作るから期待しててね!」


 そう言って日向が力こぶを作った。そういえばこのポーズ気に入っていたな。


「日向は七日に学校始まるんだっけか」

「うん、そうだよー。ついに三年生だよー、なんか実感が湧かないというか」

「そうだよな、僕も同じような気持ちになってたなぁ。まぁあと一年あるんだし、高校生活は楽しんでな」

「うん! あー真菜まなちゃんと健斗けんとくんと一緒のクラスになれたらいいなぁ」

「ああ、そういえば二年生の時はみんなバラバラだったね、二年生は分かれてしまうジンクスでもあるのだろうか……」


 日向が言った真菜ちゃんとは、沢井さわい真菜まな。絵菜の妹で、黒髪が綺麗な可愛らしい女の子だ。

 そして健斗くんというのは、長谷川はせがわ健斗けんと。サッカー部に所属しているカッコいい男の子だ。日向の彼氏でもある。

 そういえば僕も高校二年生の時は絵菜と別のクラスになってしまったんだよな……と思っているとスマホが鳴った。RINEが送られてきたみたいだ。送ってきたのはその絵菜だった。


『団吉、今日から大学だったよな、もう帰った?』

『うん、今帰ってきてのんびりしてたところだよ。絵菜も学校始まったんだよね、お疲れさま』

『ありがと。なぁ、ちょっとビデオ通話できないかな? 真菜もいるけど』

『ああ、いいよ。こっちにも日向がいるよ』


 日向に絵菜がビデオ通話したいと言っていることを伝えると、僕の隣にやって来た。絵菜から通話がかかってきたので、スマホを立てかけて通話に出る。画面に絵菜と真菜ちゃんが映し出された。


「もしもし、お、お疲れさま」

「もしもし、お兄様、日向ちゃん、こんにちは!」

「絵菜さん、真菜ちゃん、こんにちは!」

「こんにちは、さっき話したけど、絵菜も学校だったね、お疲れさま」

「ありがと。団吉は大学どうだった?」

「うーん、二年生から専門的な科目も増えてきて、ちょっと難しそうだなって思っていたところだよ。まぁでも自分なりに頑張ろうかなと」

「そっか、でも団吉なら大丈夫だ」

「そうです、お兄様なら大丈夫です。数学の神様、あ、全てにおいて神様でした!」

「い、いや、一般人だからね? でも、そう言ってもらえると嬉しいよ、ありがとう」


 いつも思うが、僕がすごい人だと思われていないだろうか……そんなことはないからね……。


「あ、絵菜は学校どうだった?」

「うーん、秋にまた検定試験を受けるのと、あと就職活動の話があった。来年の今頃は私も社会人なんだなって」

「ああ、そうだよね、絵菜は二年間だもんね。僕よりも早く社会人になるよね」

「うん、でも本当になれるのかなってちょっと心配で……」

「絵菜さん、大丈夫ですよ! 絵菜さんが頑張っているのは私も知ってます!」

「お姉ちゃん、大丈夫だよ、私もお姉ちゃんが頑張ってるのはよく知ってるから!」

「そうだね、二人の言う通りだよ。僕も絵菜が頑張っているから、自分も頑張ろうって思えるからね。大丈夫だよ。不安になる気持ちも分かるけどね」

「う、うん、ありがと。そうだな、私も団吉が頑張ってるから、頑張れる……」

「ふっふっふー、よかったねーお兄ちゃん」


 日向が僕の頬をツンツンしてきた。なんだろう、急に恥ずかしくなってしまった。


「ふふふ、お兄様とお姉ちゃんには、愛の証がありますからね! それぞれ頑張っているのが伝わるようです」


 そう言って真菜ちゃんが絵菜の右手をとって僕たちに見せて来た。あ、ぺ、ペアリングのことか。バレていたのか……って、当たり前か。


「ふっふっふー、お兄ちゃんもしっかりつけてるよね! もー、何も言わなかったけど、気づいてるからね! 隠す必要ないのにー」

「え!? い、いや、隠してたわけではないんだけど……あはは。ま、まぁでも、これがあるから僕も頑張れるよ」

「うん、私も一緒……なぁ、今度またデートしないか?」

「ああ、うん、いいよ。日曜日とか空いてるかな? その時にどこか出かけようか」

「うん、大丈夫、楽しみにしてる。あ、そういえば真菜と日向ちゃんはもうすぐ三年生か、一緒のクラスになれるといいな」

「ああーそうですそうです! 真菜ちゃん、絶対に一緒のクラスになろうね!」

「うん! 長谷川くんも一緒になれるといいね! そしてまた女子の秘密の話しよう!」


 日向と真菜ちゃんが「ねー」と言っている。やはり女子の秘密の話というのは分からないもので……。


「まぁ、三年生の時は僕たちもみんな一緒のクラスだったから、きっと大丈夫だよ。見えない力が働いているようで……よく分からないけど」

「ふふっ、あれはほんとに嬉しかった。団吉、明日は朝一緒に行けるかな?」

「ああ、うん、僕も早めに行くから、一緒に行けるよ。駅前で待ち合わせしようか」

「うん、分かった。あ、ごめん、そろそろ夕飯の準備があるから、このへんで……」

「あ、そうだ、うちも夕飯の準備があるんだった、それじゃあまたね」

「お兄様、日向ちゃん、またお会いしましょう!」

「絵菜さん、真菜ちゃん、またねー!」


 そう言って通話を終了した。そうだ、絵菜は今年が最終学年なのだ。来年の今頃は社会人になっている。社会人の先輩になるんだな。僕も絵菜を見習って、しっかりと頑張っていこうと思った。

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