第1話「始まり」

 四月、桜が咲き誇り、気候的にも過ごしやすくて心があたたかくなる。そんな春の訪れだった。

 僕、日車ひぐるま団吉だんきちは、今日から大学二年生になる。大学生活もこれまで色々なことを楽しんできた。これからもチャレンジする気持ちは忘れずに、楽しく過ごしていきたいと思っている。


「お兄ちゃん、今日から大学始まるんだよね、偉いなー!」


 我が家の猫のみるくと遊びながらそう言ったのは、妹の日車ひぐるま日向ひなた。四月から高校三年生になる。受験生なのでしっかりと勉強を頑張ってもらいたいのだが、どうも勉強嫌いなところがある日向だった。また僕が教えてあげないといけないかもしれない。


「ああ、うん、また新しい一年が始まるんだなーって思うよ」

「ふふふ、団吉も二年生か、早いわね。勉強はもちろんだけど、たくさん大学生活を楽しんでね」


 ニコニコ笑顔でそう言ったのは、日車ひぐるま沙織さおり。僕と日向の母さんだ。母さんも新しい年度が始まるということで仕事が忙しいだろう。


「うん、これまで通り楽しんでいこうかなって思ってるよ」

「ふっふっふー、お兄ちゃんなら大丈夫だよ! なんと言っても勉強の神様だからね! どーんと構えておくがよいぞ!」

「お、おう、なんで上から目線なのか分からないが……勉強といえば、日向は大丈夫か? 二年生最後のテストでも数学が怪しかった――」

「お、お兄ちゃん! 私の話はいいから! あああまた思い出してしまった……」

「まったく、ちゃんと勉強しとけと言ったろ? また教えてやるからな」

「う、ううー、お兄ちゃんが勉強しろって言う……バカー」


 ぶーぶー文句を言ってポカポカと僕を叩く日向だった。


「ふふふ、二人とも仲良しね、団吉はそろそろ行く時間かしら?」

「あ、そうだった、そろそろ行ってきます」


 日向と母さんに「いってらっしゃーい」と見送られて、僕は大学へと向かう。人は多いが、電車に乗るのもだいぶ慣れてきた。まぁ一年間通ったから、当然かもしれない。

 大学に着くと、友達が先に来ていたみたいで手を挙げた。


「おはよー、ついに二年生が始まるんだなー、ちょっと眠たいが」


 眠そうな目をこすりながら言ったのは、印藤いんとう拓海たくみ。同じ学部の友達だ。クールそうでカッコいい見た目と、フレンドリーに人に話しかけられるその性格のおかげで、僕もよく話すようになった。大学生活が楽しいのは拓海のおかげでもある。


「おはよう、なんか眠そうだね、夜ふかししたとか?」

「ああ、アニメ観てたら止まらなくなってさー、今はサブスクがあるじゃんか、ついつい観ちゃうんだよな」

「あはは、たしかに便利な世の中になったよね。僕も小説原作のアニメを観ることがあるよ」


 拓海と他愛のない会話で盛り上がっていた。

 今日から大学が始まるが、また数日オリエンテーション期間となっていた。授業計画がまとめられた資料をもとに、履修科目を登録していく。先生からその説明を受けた。去年も思ったが自分でしっかりと決めて取り組まなければならない。僕はひっそりと気合いを入れていた。


「げ、また英語とフランス語取らなきゃな、マジで去年しんどかったっつーか」


 僕の隣で拓海がぽつりとつぶやいた。拓海は理系科目は得意だが、文系科目がちょっと苦手だった。まぁ誰にでも得意不得意はあるから、あまり気にしすぎずに頑張ればいいのではないかと思った。


「ああ、そうだね、僕ももっと英語できるようになりたいよ」

「いやいや、団吉は十分できるじゃんか、エレノアさんとも英語で会話できるしさ。ほんとすごいよ」


 拓海が言ったエレノアさんというのは、エレノア・クルス。文学部の二年生で、アメリカ出身の留学生だ。たまたま僕と出会って、写真研究会というサークルでも一緒になった。日本語などの語学を勉強しているとのことだ。


「いや、まだ知らないことはたくさんあるし、頑張ろうと思うよ。そういえばエレノアさん、日本語でRINE送ったら嬉しいって言ってたよ。勉強になるみたい」

「そうなんだな、よし、俺も日本語でエレノアさんに送ってみようかな」


 そんなことをひそひそと話しながら、履修科目を決めていく。数学の科目もさらに難しくなりそうだ。不安もあるが、ワクワクの方が大きいというのは危ない人だろうか。

 お昼になったので、拓海と一緒に学食へ行く。今日は何を食べようかなと迷って、親子丼にしてみた。親子丼というとなんだか高校時代を思い出すな。


「いやー、勉強もまた難しくなりそうだなー、俺ついていけるか自信ないっつーか」

「いやいや、拓海も一年生の時ちゃんと頑張ってたし、大丈夫だよ」

「そうだといいんだけどなー、まぁぐちぐち言ってないで、頑張るしかないかー」

「――あ、ダンキチ、タクミ!」


 その時、僕たちを呼ぶ声がした。見ると先程話していたエレノアさんがこちらに来ていた……と思ったら、エレノアさんはそのまま僕に抱きついて来た。え、えええ!? あ、こ、これは海外流のスキンシップだ、そうに違いない……。


「ええ!? あ、え、エレノアさん、お久しぶりだね」

「うん、おひさしぶり。わたし、おひさしぶり、おぼえた」

「あはは、エレノアさんはすっかり団吉に懐いたなー、沢井さわいさんに怒られない程度にな」

「え!? あ、うん、できれば内緒にしてもらえるとありがたい……」


 拓海が言った沢井さんとは、沢井さわい絵菜えな。今は美容系の専門学校に通っている、僕の大事な人だ。たしか絵菜も今日から学校が始まると言っていた。後でRINEを送ってみようかなと思った。


「ダンキチ、サワイさんって、だれ?」

「あ、ああ、絵菜は僕の大事な人というか、付き合ってる人というか、そんな感じの可愛らしい女性で……あはは」

「オー、エナとおつきあい、ダンキチのだいじなひと、おぼえた」

「そ、そっか、そのうち会ってみる?」

「うん、エナとあいたい。ダンキチのすきなひと」


 ま、まぁ、絵菜とも会ってもらった方が絵菜も安心するかな……何の安心かよく分からないが。

 そんな感じで、新しい一年がスタートした。僕はこれまでと同じように頑張っていきたい。その思いは強かった。



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作者のりおんです。

お待たせしました、このお話から二年生のスタートです。

毎日更新というのは難しいかもしれませんが、また楽しく書いていきますので、

何卒、よろしくお願いします。

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