第123話「デート」

 さらに時は過ぎ、三月末。桜も咲いてきて、暖かくなって気分も上がってくる、そんな春の訪れだった。

 僕は今日、絵菜とデートをすることにしていた。会うことはあったのだがデートというのは久しぶりで、僕は嬉しい気持ちになっていた。

 駅前で待ち合わせにしようと絵菜が言っていたので、僕はいつものように駅前へ向かう。外も暖かく、ちょうどいい季節なのだろう。寒いのが苦手な僕には嬉しい季節となった。

 駅前に着くと、絵菜が先に来ていたようだ。僕を見つけてこちらにやって来た。


「ごめん、待たせちゃったかな」

「ううん、大丈夫、そんなに待ってない。もうすぐ電車来るみたいだから、行こ」


 僕と絵菜は一緒に電車に乗り、ショッピングモールの最寄り駅にやって来た。よくここに来ている気がするが、細かいことは気にしてはいけない。絵菜が久しぶりに映画を観たいと言っていたので、ショッピングモールの映画館へ行く。


「映画観るの久しぶりだね、なんか初めて絵菜とデートした時を思い出すなぁ」

「ふふっ、ほんとだな、あの時ドキドキだった……団吉が可愛くて」

「そ、そっか、恥ずかしいな……絵菜も可愛かったよ。僕もかなりドキドキして心臓が口から飛び出すかと思ったよ」

「そっか、同じ気持ちだったんだな」


 絵菜がクスクスと笑ったので、僕もつられて笑った。

 チケットを買って、映画館に入る。春休みということもあってけっこう人はいるみたいだ。今日観るのは話題の恋愛映画だった。それもあの時と同じようで、懐かしい気持ちになった。

 映画館の椅子に座ると、絵菜がそっと僕の左手を握ってきた。そうだ、あの時もこうして絵菜が手を握ってきたのだ。日向以外の女の子と手をつなぐなんて経験がなくて、すごくドキドキしたな。

 映画が始まった。主人公の男の子もカッコよく、ヒロインの女の子も可愛い。二人は一通の手紙からお互い気になる存在となり、順調に仲良くなっていく。途中トラブルもあったりしたが、王道の恋愛物語なのかなと思った。

 映画が終わって、館内が明るくなる。ふと絵菜を見ると、ハンカチで顔を隠していた。あれ? と思って見ていると、


「……み、見ないで、感動してまた涙が出た……」


 と、恥ずかしそうに絵菜が言った。


「え、見せてよ沢井さん」

「……あ、日車があの時と同じこと言ってる……いじわる」


 久しぶりに『日車』と『沢井さん』と呼び合って、僕と絵菜は同じように笑った。あの初デートの日から僕たちは名前呼びになった。それもまた懐かしかった。


「あ、お昼過ぎたね、何か食べる?」

「そうだな、またハンバーガー買って、隣の大きな公園に行かないか?」

「ああ、いいね、そうしようか」


 僕と絵菜はフードエリアに行って、ハンバーガーを買った。そのまま移動してショッピングモールの隣の大きな公園に来た。昼になるとさらに暖かく感じて、外で食べるのもいいなと思った。

 空いているベンチに腰掛けて、買ったハンバーガーを食べることにした。うん、美味しい。あの時はドキドキしすぎてだんだんと味が分からなくなっていたなと、そんなことを思い出していた。


「なんだか懐かしいな、あの時はフードエリアで食べたけど、目の前に可愛い団吉がいてドキドキして……」

「ああ、うん、僕もドキドキしてハンバーガーの味が分からなくなっていたよ」

「ふふっ、嬉しい。今日はハンバーガーの味分かる?」

「うん、美味しいよ。あの時から僕も成長したのかもしれないね」


 僕がそう言って笑うと、絵菜も笑っていた。


「そういえば、お互い一年生も終わったな」


 ハンバーガーを食べた後、そう言って絵菜がふと遠くを見た。高校を卒業して、僕は大学、絵菜は専門学校に入って一年が経とうとしている。時の流れはあっという間だなと感じた。


「ほんとだね、なんかあっという間でびっくりしているというか」

「うん、最初は団吉がいなくて寂しい気持ちもあったけど、団吉はよく私と一緒にいてくれた。ほんとにありがと」


 絵菜が僕の左肩にそっと頭を乗せてきた。僕は絵菜の綺麗な金髪をなでてあげた。


「いえいえ、僕も絵菜がいなくて、最初は一人になるんじゃないかなって思ってたけど、拓海や先輩方がいてくれて、そして絵菜がいつもそばにいてくれて、嬉しかったよ、ありがとう」

「ふふっ、私も一人になるのかなって思ってた。でも、春奈と佑香と小寺と出会えたし、また楽しくやっていけたのかなって」

「そうだね、お互い周りの人に恵まれたね。みんなに感謝しないとな」


 いつも言っているように、僕も絵菜も、もう一人ではない。お互いがいて、みんながいて、楽しく過ごすことができているのだ。


「団吉の夢は、先生になることか?」

「うーん、それももちろんあるんだけど、僕にも夢が出来たよ」

「ん? 何?」

「絵菜と一緒に暮らして、毎日絵菜と顔を合わせて、楽しい日々を過ごすって夢かな」

「……そっか、うん、私もそうしたい。毎日団吉と一緒がいい。あ、くっついて寝るっていうのも忘れないようにしないと」

「あはは、うん、大丈夫、毎日くっついて寝よう」


 絵菜がニコッと笑顔を見せた。か、可愛い……今すぐ抱きしめたいが、ここは外なのでそれは我慢しないと。


「……人に笑われて、学校も楽しくなくて、いつも一人でいた僕がこんなに変わったのは、絵菜やみんなのおかげだよ」

「ふふっ、私も一緒。なぁ、これからも私のこと守ってくれる?」

「うん、もちろん。絵菜も真菜ちゃんも守るって決めたのは忘れてないからね。これからもずっと、その思いは変わらないよ」

「ありがと、団吉、大好き……」

「僕も絵菜が大好きだよ……って、は、恥ずかしいね……」


 僕が少し慌てていると、絵菜がクスクスと笑った。ま、まぁ、恥ずかしいけど、さっき言った通り僕は絵菜と真菜ちゃんを守るのだ。その気持ちはずっと持ち続けている。


「あ、ちょっとショッピングモール見て回る?」

「そうだね、せっかく来たから見て回ろうか、春物の服とかあるんじゃないかな」


 僕たちはショッピングモールに戻って、見て回ることにした。

 一年が終わる。楽しかったこと、名前で笑われたこと、絵菜と一緒にいれたこと、みんなと再会したこと、色々なことが頭の中に思い出された。

 僕は、これからも元気に、絵菜と一緒に過ごしていきたい。絵菜の手の温もりを感じながら、そんなことを思っていた。


 ――笑われても、君が好きだ。



----------


りおんです。

ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。

色々あった一年ですが、団吉くんと絵菜さん、そしてみんなが楽しく過ごしてくれたのが一番嬉しいです。

少しお休みをいただいて、続きも考えていきたいと思います。

これからも、よろしくお願いします。

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