第122話「バナナケーキ」

 三月になったということは、あの日を忘れてはいけない。

 そう、もちろんホワイトデーだ。バレンタインデーに女性からチョコをもらった者は、ホワイトデーにお返しをしないといけない。それは変わることのない掟なのだ。あれ? 以前も言っていた気がするな。

 僕も六人の女性からチョコをもらっていたので、ちゃんとお返しをしないといけないと思っていた。今年はどうしようかと迷ったが、バナナケーキを作ってみることにした。材料もそんなに多くないし、簡単に作れて美味しいならそれが一番だと思った。

 今日は三月十三日の日曜日。明日がホワイトデーの日だ。まぁ前日作るというのはちょうどいいだろう。昨日バイト帰りにスーパーで材料を買っていたので、材料をキッチンで並べて、調理道具も出した。よし作るかと思っていると、日向がやって来た。


「お兄ちゃん、何か作るの?」

「ああ、明日ホワイトデーだからね、今年はバナナケーキを作ってみようかと思って」

「ああ! いいね! よーし私も手伝うよー!」

「え!? ひ、日向にもあげるつもりだったのだが……」

「いいじゃんいいじゃん、細かいことを気にしたら負けだよー!」

「そ、そっか、じゃあ手伝ってくれ」


 日向もエプロンを着て、力こぶを作った。まぁたしかに日向の言う通り、細かいことは気にしない方がいいのかもしれない。

 ボウルにバナナを入れて、スプーンでつぶす。けっこう量があるので、日向と二人で頑張ってつぶしていった。なかなか大変な作業かもしれない。

 だいたいつぶし終わったところで、卵を入れて混ぜ合わせる。その後ホットケーキミックスを入れてさらに混ぜ合わせる。けっこう力がいるな、しっかりと混ざるように日向と頑張って混ぜ合わせていった。

 型に流し込んで、あたためていたオーブンに入れる。ここから三十分くらい焼く。量が多いので二回に分けて焼くことにした。力はいるがけっこう簡単だなと思った。


「ふー、けっこう力いるねー、あ、そうだ、せっかく作ったのならさ、絵菜さんと真菜ちゃんと舞衣子ちゃん呼ばない? 東城さんは今度私が遊ぶ約束してるから、その時に渡してあげるし、梨夏ちゃんは学校で渡してあげるよー」

「そっか、ありがとう。特に東城さんはどうしようかと思ってたよ。じゃあ三人を呼んでみるか」


 僕はRINEで三人に話しかけてみた。みんな行くと言ってくれたので、バナナケーキが焼き上がるのとみんなが来るのを待っていた。しばらく待つと、バナナケーキの方が先に出来上がったみたいだ。


「おおー、お兄ちゃん、いいにおいするねー!」

「そうだな、よし、ちょっと冷ました後切り分けることにするか……」


 オーブンから取り出し、そのまま冷ますことにした。その間にもう一度焼く。そんなことをしているとインターホンが鳴った。みんな来たのかな、日向が玄関に行ってくれた。


「お兄ちゃん、みんな来たよ」


 リビングに絵菜と真菜ちゃんと舞衣子ちゃんが入ってきた。


「あれ? 団吉、何か作っているのか?」

「ああ、うん、明日はホワイトデーだからね、バナナケーキを焼いていたところだよ」

「まあまあ! お兄様すごいですね、何でもできるんですね!」

「団吉さん、すごい……何でもできるんだね」

「い、いや、何でもできるというわけではないけどね……あ、一つ焼けたから、切ってみんなで食べてみようか、美味しく出来てるといいけど」


 僕は出来上がったバナナケーキを切り分けて、お皿に移した。日向がジュースを用意してくれて、リビングへと持って行った。


「はい、どうぞ。もう一つ焼いているから、みんな持ち帰ってもらう分もあるからね」

「わっ、す、すごい……ありがと。なぁ団吉、どうやったらこれできるんだ?」

「ああ、ちょっと力はいるけど、そんなに難しくないよ。レシピを絵菜にも送ってあげるね。じゃあ食べてみようか」


 みんなで「いただきます」と言ってバナナケーキを食べてみることにした。僕も一口いただく……あ、バナナの味がしっかりと口の中に広がる。美味しいなと思った。


「あ、お、美味しい……」

「ほんとだ、お兄様、美味しいです!」

「美味しい……団吉さん、料理も出来るんだね、いいお嫁さんになりそう」

「い、いや、僕は男だからね? お嫁さんにはなれないからね……」


 な、なんか前も言われたような気がするが……僕が慌てていると、みんな笑った。さすがに僕はお嫁さんにはなれないよ。


「よかったねーお兄ちゃん、あ、もう一つ焼けたみたいだよ」

「ああ、じゃあちょっと取り出して冷ましておくか」


 僕はキッチンへ行って、もう一つを取り出して冷ましておくことにした。よかった、美味しく出来ていたようだ。これなら持って帰ってもらう方も大丈夫かなと思った。


「団吉、私も料理できるようになりたいから、また教えてほしい」

「ああ、うん、また一緒に作ろうか。そういえばハンバーグの話してたね、ハンバーグを作るのもいいかもしれないね」

「まあまあ、ふふふ、そんな話してると、二人が新婚さんみたいですね」

「うん、団吉さんも絵菜さんも、新婚さんのにおいがする……」

「え!? あ、まぁ、新婚はもうちょっと先になるかな……あはは」


 なんだろう、恥ずかしくなってきた僕だった。


「ふっふっふー、お兄ちゃんが結婚かぁ、なんか結婚式でわたわたするお兄ちゃんの姿が見えるなぁー」

「まあまあ、たしかにお兄様はなんか緊張しすぎて背筋がピーンと伸びていそうです」

「団吉さん、結婚式やる時は呼んでね……行くから」

「え!? あ、う、うん、みんな来てもらえるとありがたいかな……って、何の話してるんだろう?」


 う、うう、ますます恥ずかしくなってきた……絵菜を見ると、同じように俯いていた。そんな二人を見て日向と真菜ちゃんと舞衣子ちゃんは笑った。


「あはは、お兄ちゃんも可愛いねぇ。あ、もう一つのバナナケーキ、切り分けておく?」

「あ、ああ、簡単にラッピングもしておこうか、日向手伝ってくれるか?」


 僕がそう言うと、日向は「らじゃー!」と言ってラッピングを手伝ってくれた。よし、これで持って帰ってもらう分もできた。東城さんと梨夏ちゃんには日向から渡してもらうとして、今年もなんとかホワイトデーのお返しができた。みんなが美味しくいただいてくれるといいなと思っていた。

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