第121話「後輩の報告」
桜が咲くにはまだちょっと早いが、昼間は暖かい日も増えてきた。
僕は相変わらず春休みを堪能している。バイトも一生懸命頑張っている。昨日も舞衣子ちゃんと一緒に頑張った。パートのおばちゃんに「日車くんも鈴本さんも、ほんと頑張り屋さんねー、偉すぎるわー」と褒めてもらった。嬉しくなるのは単純な奴なのかもしれない。
今日はバイトも休みをもらって、僕はやることがあった。何かというと、先日天野くんからRINEが来て、東城さんと橋爪さんと一緒に会えないかと言っていたので、駅前の喫茶店で三人に会うことにしたのだ。待ち合わせの時間に遅れないように駅前に行くと、三人とも来ていたようで、僕を見つけて手を振っていた。
「あっ、団吉さん! こんにちは!」
「日車先輩、お久しぶりです! すみませんわざわざ来てもらって」
「こんにちはー、日車先輩、お久しぶりです! あああ今日もカッコいいですね!」
「こんにちは、天野くんと橋爪さんはお久しぶりだね。二人とも元気だった?」
「はい、元気にしてます。少し暖かくなってきましたかね、嬉しいです」
「はい! もう常に日車先輩のこと考えていましたからねー、日車先輩と大学生のシンクロ率は四百七十四パーセントですね!」
「そ、そっか、ありがとう。あ、ここで話すのもなんだし、喫茶店に行こうか」
三人で駅前の喫茶店へと行く。人はそこそこいたが座ることができた。それぞれコーヒーやジュースを注文する。
「あ、この前麻里奈がお世話になったそうで……ありがとうございます」
「ああ、いえいえ、東城さん、その後元気にしてる?」
「はい! この前はありがとうございました。メンバーともお話できましたし、みんなこれからも頑張ると、気合い入っています!」
「そっか、それはよかったよ。あ、そうだ、三人は高校卒業したよね、おめでとう」
「ありがとうございます! えへへー、ついに卒業しちゃいました」
「ありがとうございます! こんな日が来るなんて、ちょっと不思議です」
「ありがとうございますー! うふふー、私もちょっと不思議な気持ちになってます!」
そう、三月になったということは卒業シーズン。東城さん、天野くん、橋爪さんの高校三年生組も卒業だ。僕は去年の自分のことを思い出した。
「そっかそっか、なんか不思議な気持ちになるよね、僕もついこの間高校入学したような感じがするのになぁ」
「ほんとですね、僕もそんな感じです。日車先輩は特に問題なく二年生になれるのでしょうか?」
「ああ、うん、勉強も頑張って問題なく二年生になれるよ」
「さすが団吉さんですね! カッコいいです!」
「おおー! さすが日車先輩! カッコいいです! ああ、日車先輩と数学の美しさについて語り合ったあの日を思い出すなぁ、私の宝物です!」
「そ、そっか、ありがとう、数学楽しいよね。あ、ごめん、僕の話はいいとして、話したいことがあるって言ってたけど?」
僕がそう言うと、天野くんと橋爪さんがピシッと姿勢を正した。
「そうなんです。実は、僕も橋爪さんも桐西大学に合格しました! 春から通わせていただくことになります!」
「うふふー、日車先輩やりました! どうですか、私も頑張りましたよ!」
天野くんと橋爪さんが嬉しそうな笑顔を見せた。おお、そうか、二人とも合格していたのか。それは嬉しいことだ。
「おお、そうなんだね、おめでとう。これでまた後輩になったのか」
「はい! また日車先輩と同じ学校に通うことになって、嬉しいです」
「うふふー、日車先輩、また日車先輩の後輩になることができました! 私もう嬉しくて嬉しくて……頑張った私を褒めてくれてもいいんですよ!?」
「あーっ、橋爪さんずるい! 団吉さん、私も卒業するまで勉強頑張りました! 褒めてください!」
「え、あ、みんなよく頑張ったね、偉いよ。そっか、二人が入ってくれるとまた大学が楽しくなりそうだよ」
高校生の頃、後輩がどんどん出来た時のことを思い出していた。あの時と似たような気分だな。
「そうだ、東城さんはこれからお仕事を頑張るんだよね」
「はい! アイドル活動を頑張って、みなさんを笑顔にしたいなと思っています! 団吉さん、またライブに来てくれませんか? みなさんも一緒に!」
「うん、今度は自分たちでチケット買って行ってみようかなって思っているよ。また楽しみにしてるね」
僕がそう言うと、東城さんは「えへへー」と嬉しそうな顔を見せた。くそぅ、照れてるその顔も可愛い。
「ああ、春から日車先輩の後輩……もう今から妄想が止まりません! 同じキャンパスを歩いて、同じサークルに入ったりして……キャー! すっごい楽しみ!」
「は、橋爪さん、妄想って言っちゃったね……ま、まぁいいか。うん、大学生活も楽しいと思うから、今から色々考えておくのもいいかもね」
「そうですね、僕も勉強も大学生活も楽しみなことが多くて……また色々教えていただけるとありがたいです」
「うん、もちろん。天野くんは文学部だったよね、慶太先輩もいるよ。みんなで歓迎するよ」
「いいなぁー、二人は団吉さんと同じ大学だもんなぁー、私も行きたかったなぁー」
「ま、まあまあ、東城さんもやりたいことが見つかったんだから、それでいいんじゃないかな」
さすがに高校を卒業すると、みんなが一緒というのは難しいだろう。それぞれ学びたいこと、やりたいことがあって、学校も決めるし、働く人もいる。それはそれでいいことだよなと思った。
「……それにしても、みんな本当に卒業おめでとう。そして合格もおめでとう。これからもみんながやりたいことを楽しく続けてくれると、僕も嬉しいよ」
僕がそう言うと、三人が「はい!」と笑顔で元気な声を出した。うん、この三人なら大丈夫だろう。
それからしばらく懐かしい話をして、今日は解散ということになった。卒業と合格祝いということで、ここは僕がみんなにおごってあげた。こういうところが後輩に甘いのかもしれない。
新生活はもうすぐやって来る。春から楽しみなことが増えて、僕は嬉しい気持ちになっていた。
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