第120話「高校訪問」

 時は過ぎ、三月となったが、朝晩の冷え込みは相変わらずだった。

 あれから東城さんはメロディスターズのメンバーと話し合いを行ったらしい。その結果、ゆかりんとしおみんが仲直りし、今後も元気に活動を続けるそうだ。よかったなと思った。東城さんが言っていた通り、ゆかりんに僕がRINEを送ると、なぜかメンバー全員から怒涛のRINE攻めを受けたのだが……ま、まぁいいか。仲良く活動を続けてほしいなと思う。

 そして三月になったということで、絵菜たち専門学校生も春休みになった。今日はバイトもお休みなので、絵菜と久しぶりに青桜高校へ行ってみようかと話していた。もちろんお世話になった先生に会うためだ。

 絵菜と二人で青桜高校までの道のりを歩いて行く。三年間通った道だ。なんだか懐かしい気持ちになった。


「ここ毎日通ってたよな、懐かしい気持ちになった」

「そうだね、僕も同じこと思ってたよ」

「ふふっ、団吉と手をつないで登下校できたのが嬉しかった」


 絵菜がニコッと笑顔を見せた。今日も絵菜が可愛かった。

 二人で話しながら歩いて、青桜高校が見えた。校門をくぐると広場があって、右側に大きな桜の木があって、その先に生徒用の玄関がある。当たり前だが景色は変わらない。

 僕たちはもう卒業しているので生徒用の玄関ではなく、事務室がある正面玄関へと行った。事務室にいる女性に、「卒業生の日車団吉と沢井絵菜と申します。大西浩二先生と北川詩織先生にお会いしたくて訪問させていただきました」と伝えると、「ああ、お電話いただいた方ですね、少々お待ちください」と言われた。

 大西先生は僕は三年間、絵菜は二年間、担任としてお世話になった数学の先生だ。生徒のこともよく見てくれているいい先生なのだが、熱すぎて授業がハイスピードだったのが玉に瑕だった。でもそれも懐かしいなと思った。

 北川先生は保健の先生で、僕が熱を出した時など、お世話になった。まだ独身なのだろうか……いや、そのことは訊いてはいけない気がした。

 しばらく待っていると、大西先生と北川先生が来てくれた。


「おー、日車と沢井、久しぶりだなー」

「あら、日車くんと沢井さん、お久しぶりね」

「こ、こんにちは、お久しぶりです」

「こんにちは、お久しぶりです。すみませんお電話はしたのですが急に来てしまって」

「いやいや、俺もこの時間は授業がなくてな、ちょうどよかったよ。あ、すまん、入ってくれ」


 大西先生と北川先生に案内されたのは、応接室のような部屋だった。もちろん高校生だった時は入ったことがない。僕と絵菜は少し緊張していた。


「そこ座ってくれ。いやー久しぶりだな、二人で卒業後すぐに来てくれたのが最後かな。もう一年くらい経つのか」

「はい、僕たちも卒業して一年経つとは思えなくて、少しびっくりしています」

「ほんとだな、日車は大学で、沢井は専門学校に行ってるんだったな、どうだ、だいぶ慣れたか?」

「はい、勉強は高校よりもさらに難しいですが、それも楽しいというか」

「わ、私も、専門的なことを学んでいて、毎日楽しいです……」

「ふふふ、二人ともさすがね。大西先生もね、あなたたちのことたまに話してたのよ。『日車と沢井は元気にしてるかな』ってね」

「あ、ああ、北川先生、それは内緒だって言ったじゃないですか……」

「あ、そ、そうなんですね、ありがとうございます……っていうのも変ですかね」


 僕も絵菜も恥ずかしそうにしていると、大西先生と北川先生が笑った。


「ふふふ、でも元気そうでよかったわ。二人は高校生の時と変わらず仲が良いみたいね」

「あ、そ、そうですね、変わらないというか、なんというか……あはは」

「あはは、よかったよ。二人とも大人になったな。二人が一年生だった時を思い出したよ。日車も沢井もいつも一人でいて、学校が楽しくなさそうだったもんな。それがこんなに変わって、俺は嬉しいよ」

「そうですね、自分でもちょっとびっくりしているのですが……こんなに変わったのも、沢井さんやみんなのおかげです」

「わ、私も、日車くんやみんなのおかげで、変わることができました……」

「ふふふ、いいことよ。以前話したように、人は一人じゃ生きられないわ。これからも二人で、そしてみんなで支え合って、楽しくね」

「は、はい、ありがとうございます」


 大西先生が言うように、いつも一人だった時もあった。でも、僕は絵菜やみんながいてくれたおかげで、ここまで成長できた。そして北川先生が言うように、人は一人で生きているというわけではないということがよく分かった。


「そうだな、北川先生の言う通り、人は一人じゃないもんな。みんなと会うこともあるのか?」

「はい、遊びに行ったり、去年は同窓会でみんなと会いました」

「あ、夏に行われている同窓会ね、去年は用事があって行くことができなかったけど、今年は行こうかしら」

「ああ、俺もちょっと行けなくてな、メッセージは送っておいたのだが」

「あ、はい、あの時先生方のメッセージが読まれていました。そこでも懐かしい気持ちになっていました」

「そうなんだな、そういえば日車は先生になりたいと言ってたな。高校の先生になるつもりなら、ここに教育実習生として来ることもあるかもしれないな」

「あ、そっか、そうですね、その時はよろしくお願いします」

「ああ、もちろん、俺も北川先生も大歓迎だよ」

「ふふふ、日車くんが先生になるかもしれないのね、楽しみにしておくわ」


 僕は学校の先生になりたいという夢がある。この先大変なことがまだまだたくさんあるだろうが、頑張っていきたい。


「沢井はたしかネイリストになりたいと言っていたな」

「あ、は、はい、そのために去年資格もとって、またあと一年頑張ろうと思っているところで……」

「あら、ネイリストっていいわね、私も爪を綺麗にしてほしいわ」

「あ、はい、北川先生もぜひ……綺麗にします」


 絵菜がちょっと恥ずかしそうにしていたが、絵菜も夢に向かって頑張っているのだ。僕は応援してあげたいなと思った。


「ふふふ、二人が頑張っているのが嬉しいわ。私も大西先生も、二人に負けないように早くいい人見つけないとね」

「き、北川先生、それは言わないでくださいよ……まぁ、二人の顔見て、俺も嬉しくなったよ。またそのうち元気な姿を見せてくれ」

「あ、は、はい、すみませんお忙しいところ、ありがとうございました」

「す、すみません、ありがとうございました……」


 僕と絵菜はお礼を言って、学校を後にした。そっか、僕たちのことを心配してくれていたのか。なんだか嬉しい気持ちになった。


「先生たちは変わらなかったな、大人だから当たり前かもしれないけど」

「そうだね、僕たちは少しは成長したのかな……」

「ふふっ、団吉は大人になってるよ、大人になった団吉も好きだ」


 絵菜がそう言ってくっついてきた。ま、まぁ、自分ではよく分からないが、周りの人が見ると分かるんだろうな。僕も絵菜も、これからも少しずつ成長していきたい気持ちは一緒だった。

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