第117話「チョコ作り」

 二月十一日、今日は祝日で高校生、専門学校生も学校は休みだ。

 先日大学の試験結果と今後の予定が出たのだが、僕は再試験もなく、問題なく次の学年、二年生になることができるようだ。少しホッとした。

 拓海は文系科目で一つ再試験があると言っていた。「苦手だからしんどいよ」と言っていたが、そろそろ終わった頃だろうか。またRINEしてみようかなと思った。

 そして今日は、女性陣がうちに集まってチョコ作りをするらしい。僕は男なので何もできないのだが、まぁみんなが楽しいならそれでいいかと思っていた。

 しばらくのんびりしていると、インターホンが鳴った。出ると絵菜と真菜ちゃんと舞衣子ちゃんが来ていた。


「こ、こんにちは」

「お兄様、こんにちは!」

「団吉さん、こんにちは……」

「ああ、いらっしゃい。外寒かったよね、上がって上がって」


 三人が「おじゃまします」と言って上がった。リビングに案内すると、キッチンでバタバタしている日向がいた。


「ああ、みなさんいらっしゃいませー! さぁ今日はチョコ作り頑張りましょう!」


 なにやら材料や道具が色々と出ているようだ。僕がキッチンに入ろうとしたら、


「あ、お兄ちゃんは入っちゃダメだからね! ここは女子の楽園なのだ!」


 と、日向に追い出されてしまった。


「えぇ、そ、そうなのか、まぁ仕方ないな……って、あれ? 数年前も同じようなことがあったような」

「ふふふ、みんな楽しそうねー、団吉は男だからね、待っておいた方がいいんじゃない?」

「そ、そうだね、あまり口出さないようにするよ」


 母さんと話していたその時、またインターホンが鳴った。あれ? と思って出てみると、なんと東城さんと梨夏ちゃんがいた。この二人も呼んでいたのか。


「団吉さん、こんにちは! お久しぶりです!」

「だんちゃんこんちわ! お久しぶりー!」

「ああ、いらっしゃい、どうやら日向が声かけたようだね、上がって上がって」


 二人も「おじゃまします」と言って上がった。リビングに案内する。


「あらあらー、今日は賑やかねー」

「あ、はじめまして、潮見梨夏というまして……あれ? やっぱりちょっと変だな?」

「はじめまして、団吉と日向の母です。梨夏ちゃんか、可愛いわね。みんなで頑張ってね」


 母さんがそう言うと、東城さんも梨夏ちゃんも「はい!」と元気よく返事をした。


「ああー、東城さんも梨夏ちゃんもこっちこっち! みんなで作ろー! って、その前に、こちらお兄ちゃんと同じバイトをしている、鈴本舞衣子さん!」

「あ、は、はじめまして、鈴本舞衣子といいます……」

「はじめまして、東城麻里奈といいます! 舞衣子ちゃんか、可愛いー!」

「はじめまして、潮見梨夏といいます……お、今度はいい感じ! へぇ、舞衣子ちゃんか、そうだな……舞衣子ちゃんは『まいまい』で!」

「ま、まいまい……?」

「ああ、梨夏ちゃんはあだ名で呼ぶのが好きなんだよー。私もひなっちって呼ばれてるよ!」

「あ、そ、そっか、あだ名か……呼ばれたことないから、嬉しい」


 女子六人が楽しそう……なのはいいのだが、男はやることもなければ居場所もないような気がした。そうだ、拓海に再試験のことをRINEで訊いてみるか。


『こんにちは、拓海は再試験があるって言ってたけど、どうなった?』


 忙しいかなと思ったが、すぐに返事は来た。


『ああ、この前受けてきたよ。たぶん大丈夫だとは思うが、やっぱ俺は文系科目は苦手だなー』

『そっか、まぁ再試験があるのはありがたいよね。これからも拓海のペースで頑張ればいいんじゃないかな』

『そうだなー、団吉は特に問題なく二年生になれるんだろ? さすがだなー。まぁでも、二年になってもよろしくな』

『うん、でも今後も油断しないようにしないと。こちらこそ、二年でもよろしく』


「団吉、忙しい?」


 拓海とRINEをしていると、いつの間にか絵菜がリビングに来ていた。


「あ、ごめん、拓海とRINEしてたところだったよ、どうかした?」

「あ、ちょっとチョコレートがあったから、団吉にもおすそ分けしようと思って。あ、あーんして」

「え、あ、そっか、分かった……」


 僕が口を開けると、絵菜がそっとチョコレートを口に入れてくれた。おお、美味しい。


「お、美味しい?」

「うん、美味しいね、絵菜も楽しんでる?」

「う、うん、久しぶりに作ったけど、楽しい……団吉にももっと食べてもらいたい」

「ありがとう、楽しみにしておくよ……はっ!?」


 ハッとして見ると、他の女性陣がみんなニヤニヤしてこちらを見ていた。う、うう、見られてしまった……。


「あらあら、ふふふ、みんな楽しそうね」

「そ、そうだね、男の僕は何もできないんだけど……」


 しばらくチョコ作りを頑張っていた六人だった。なんとか出来たのかな、日向が道具を片付けたりしている。


「よーし、こんなもんかなー、あとは冷やすだけということで、みなさんリビングへ行きましょうー」

「だんちゃんだんちゃん、私頑張ったよー! 褒めてくれてもいいよー!」

「あーっ、梨夏ちゃんずるい! 団吉さん! 今年も楽しく作ることができました! 頑張ったので褒めてください!」

「え!? あ、みんな頑張って偉いね……って、ち、近――」


 相変わらずぐいぐい来る梨夏ちゃんと東城さんだった。


「団吉さん、こんなにモテるんだね……知らなかった。まぁ団吉さん優しいから、仕方ないか」

「まあまあ、お兄様はモテモテですね。優しいところも神様、あ、神様を超えた神様でした!」

「ふふっ、団吉モテモテだな。まぁ、あまりモテるのも面白くないんだけど……ブツブツ」

「ええ!? い、いや、モテているわけではないと思うけどね……あ、みんなジュース飲まない? 用意してくるよ」


 女性陣に押されっぱなしだったので、僕は慌ててキッチンの方へと逃げた。うう、男一人だと大変だ……みんなどうやってこういう時を乗り越えているのだろうか。あれ? 普通はこんな経験しないものなのかな。

 その日、みんなはそれぞれ自分の分を持ち帰り、日向は丁寧にラッピングをして「はい、みんなからお兄ちゃんに!」と、僕にくれた。い、いきなり六人からもらってしまったことになるのか。ヤバい、今年もお返しが大変なことになりそうだなと思ってしまった。

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