第116話「大事なイベント」
二月、後期が終わり、大学は春休みに入った。
日向たち高校生や、絵菜たち専門学校生はまだ学校があるので、僕は先にお休みに入ることとなった。まぁこれも大学生らしいのかなと思った。
試験結果と来年度の授業計画がまとめられた資料の配布日などが分かるのは、もう少しだけ先とのこと。まぁ試験が終わったばかりなので、当然だろう。
そういえば先日の試験お疲れさま会の時に、みんなでエレノアさんとRINEの交換をした。日本語を勉強しているから、RINEは日本語で送ってほしいと言っていた。僕はふとエレノアさんにRINEを送ってみることにした。
『こんにちは、だんきちです。エレノアさん、はるやすみだね、ゆっくりしてる?』
おそらく漢字はまだ難しいのではないかと思ったので、ひらがなとカタカナで送ってみた。すぐに返事は来た。
『こんにちは、うん、しけんがんばったから、ゆっくりしてる』
その一文の後、猫が喜んでいるようなスタンプが送られてきた。あ、エレノアさんも猫が好きなのかな。
『そっか、よかったよ。しけんがんばったね、にねんせいになれるといいね』
『うん、だんきちもがんばった?』
『うん、ぼくもがんばったよ。あとはゆっくりしておこうかなとおもうよ』
エレノアさんから今度は犬が喜んでいるようなスタンプが送られてきた。おお、色々持っているのだな。僕もトラゾーの『おつかれさま』スタンプを送った。
そうか、エレノアさんも試験を頑張ったのだな。留学生なので僕たちとは違うかもしれないが、学ぼうという気持ちは一緒だ。これからも一緒に頑張っていけるといいなと思った。
『あ、そうだ、エレノアさんは、かんじ、わかる?』
『かんじ、って、漢字?』
『そうそう、それ。少しは分かるのかな?』
『かんたんなものならよめるけど、まだべんきょう中。にほんごむずかしい』
『そうだよね、じゃあRINEではかんたんな漢字をまぜておくることにするね、たぶんべんきょうになると思う』
『ありがとう、だんきちやさしいね、だいすき』
ま、また大好きと言われてしまった……恋心ではないのかもしれないが、ちょっとドキッとしてしまうのは僕も男なんだな……。
『あ、ありがとう。また大学でサークルもたのしもうね、カメラでしゃしんをとろう』
『うん、しゃしんとりたい』
春休み明けにはなるが、またサークルでみんなと一緒に楽しめたらいいかな、そんなことを考えていた。
コンコン。
その時、僕の部屋の扉をノックする音が聞こえた。「はい」というと、日向が入ってきた。
「お兄ちゃん、勉強してる……わけではなさそうだね」
「ああ、うん、RINEしてた」
「そっか、絵菜さんと?」
「あ、いや、留学生のエレノアさんという人がいてね、日本語でやりとりできるか送ってみたところだったよ」
「留学生!? へー、大学ってすごいね、留学生なんているんだねー」
「うん、文学部で日本語とか語学の勉強しているみたい。でも日本語難しいって言ってた」
「そうだよねぇ、私日本人なのに、日本語ヘタだもんなぁ、現代文のテストの点数もあんまりよくなくて」
「お、おう、ちゃんと勉強してるか? 二年生最後のテストもあるんだ――」
「お、お兄ちゃん! それ以上は言わないで! そ、そんなことを話したくて来たんじゃないよ!」
慌ててテストの話を回避する日向だった。たしか高校は二月末くらいに最後のテストがあるはずだ。これはまた教えてあげた方がいいのかな……と思ったが、日向は他に話したいことがあったのだろうか。
「ん? なんか話したいことでもあったのか?」
「もちろん! はいはい! 二月になったということは、大事なイベントが待っています。何でしょう?」
日向がマイクを向けるかのように右手を差し出して来た。大事なイベント? 今年は特に何もないように思えるが……。
「大事なイベント……? うーん、カレンダーにも特に書かれていないけど……」
「えー!? お兄ちゃん、本気で分からないの? 大丈夫かな……バレンタインデーだよ」
バレンタインデー? ああ、なるほどと思ってもう一度カレンダーを見る。今年の二月十四日は金曜日だった。
「あ、ああ、そっか、もうそんな時期か。わ、忘れていたわけじゃないよ」
「うーん、なんか怪しいなぁ……私が毎年チョコあげているというのに!」
日向がグーで僕を殴ろうとしてくる……って、この光景が久しぶりのように思えた。
「やめて! 殴らないで! で、バレンタインデーだけど、何かするのか?」
「ふっふっふー、もちろん今年もチョコレートを用意するつもりだよー! 十四日は金曜日だから、十一日の祝日の日にうちに集まってチョコ作りしようかなって!」
な、なるほど、今年もチョコ作りをするのか。そういえば去年は絵菜の家で日向や真菜ちゃんや梨夏ちゃんが作っていたと聞いたな。今年もそんな感じになるのだろうか。
「そ、そっか、それは楽しみだな」
「うん! お兄ちゃんも楽しみにしててねー! 可愛い妹や後輩からチョコレートもらえるんだよー! あ、もちろん絵菜さんも呼ぶつもりだからね!」
「そ、そうなんだな、た、楽しみにしておくよ……あはは」
ここは楽しみにしておくと言っておかないと、本気で殴られそうな気がしたので。そう言った後あははと笑っておいた。
「で、その前にお買い物に行きたいんだけど、お兄ちゃん大学春休みなんでしょ? 付き合ってくれないかなー、可愛い妹がここにいるなーチラッチラ」
「え!? あ、まぁ、それくらいなら別にかまわないけど……」
「やったー! じゃあ九日の日曜日によろしくねー! 真菜ちゃんと舞衣子ちゃんも来るからね!」
日向が僕の手をとってぴょんぴょん跳ねている。う、うーん、なんかまたおごってほしいとか言われそうな気がしたが、何も言わないでおこうと思った。
それにしてもバレンタインデーか、もうそんな季節なのだな。そういえば高校時代も女の子にチョコをもらうことが多かったような……僕にもモテ期が来たのだろうか。いや、それは考えすぎか。
楽しそうに話す日向にとりあえず合わせておいた僕だった。
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