第110話「冬休み明け」

 お墓参りの次の日、今日は月曜日。冬休みが終わって今日から大学が始まる。高校生や専門学校生も今日からのようだ。

 とはいえ、大学は一月に後期の試験があった後は、今度は春休みに入る。高校生まででいうと三学期にあたるのだが、随分と短いなと思った。

 しかし、試験があるのだ。僕は油断することなくこれまで通り準備を行っていきたいなと思っていた。

 今日は二限から必修科目の講義があったのでそれを受けることにする。大学へ行くと、拓海もこの講義を受けるみたいで僕を見つけて手を挙げていた。


「おはよー、あ、あけましておめでとう」

「ああ、あけましておめでとう。拓海は冬休みは楽しめた?」

「ああ、正月は実家に帰ったからさ、久しぶりに実家でゆっくりしてきたよ」

「そうなんだね、それはよかったよ。お父さんお母さんも嬉しかったんじゃないかな」

「あはは、まぁそうかもしれないなー、ちゃんと食べてるかって母ちゃんにはうるさく訊かれたよ」


 拓海があははと笑った。拓海の実家はすぐに帰れるような距離ではない。親が心配する気持ちも分かるなと思った。


「まぁそうだよね、拓海は料理できる人だったっけ?」

「まあまあかなー、最近ちょっとキーマカレーを作るのに凝っているんだ。いつか団吉にも食わせてやりたいな」

「そうなんだね、うん、楽しみにしてるよ」


 拓海と他愛のない話で盛り上がる。大学に入って一人にならずに済んだのは、間違いなく拓海のおかげだ。僕は感謝していた。


「うんうん……って、さっきから気になってたんだが、団吉の右手に光るものがあるな。もしかしてアレか、ペアリングってやつか?」

「え、あ、ば、バレたか……うん、クリスマスに絵菜にもプレゼントしてね……って、は、恥ずかしいな……」

「あはは、そうなんだなー、そういうものもいいなー、俺も今度プレゼントしようかなぁ」

「そうだね、川倉先輩とは順調?」

「ああ、冬休みはあまり会えなかったけど、RINEもよくしてるしさ、楽しくやってるよ」


 そっか、川倉先輩と拓海は楽しくお付き合いが出来ているか、僕はなんだか嬉しくなった。

 そんな話をしていると、先生がやって来た。僕は講義に集中することにした。



 * * *



「みんなあけましておめでとー! 冬休みは楽しかったー?」


 川倉先輩の元気な声が響く。講義が終わって、僕たちサークルメンバーはいつものように部室に集まった。冬休みの間は先輩方にも会えなかったので、ちょっと久しぶりだった。


「ああ、あけましておめでとう、ボクも有意義な冬休みを過ごさせてもらったよ! 家庭教師のバイトが忙しくてね」

「あ、また出た慶太の怪しいバイト。そろそろその女の子食べてるんじゃないの?」

「ええ!? そ、そんなことするわけないじゃないか! いやはや、亜香里先輩も疑い深いね、そんなんじゃお嫁さんは夢のまた夢――」


 慶太先輩がそこまで言うと、「うっさい!」と川倉先輩にバシッと叩かれていた。い、いつも通りで安心するというか。


「ふふふ、みなさまあけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」


 成瀬先輩がペコリと頭を下げた。


「あ、あけましておめでとうございます。こちらこそ、今年もよろしくお願いします」

「あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします」


 慌てて僕と拓海が頭を下げる。


「ふふふ、団吉さんも拓海さんも、可愛らしいですね。あ、お二人とも彼女がいるのでした」

「あ、そ、そうですね……あはは」

「あー、蓮ちゃんダメだよー、いい子を見るとすぐ食べようとするんだからー」

「……ええ!? い、いえ、そんなことは……」


 成瀬先輩が恥ずかしそうに俯いた。なんか可愛らしいな……って、ぼ、僕は何を考えているのだろう。


「危ない危ない、拓海くんをとられるところだった……って、ふふふ、私気づいちゃったけど、団吉くんの右手に光るものがあるねぇ、もしかして、もしかするのかな!?」


 川倉先輩がそう言って僕の右手をとった……って、あ、ま、まさか見つかってしまったのだろうか……!


「おお、団吉くん、薬指に光るのは、まぎれもない指輪ではないか!」

「あらまぁ、団吉さん、いつの間にそんなものを! 冬休みの前まではなかったですよね」

「え!? あ、そ、そうですね、実はペアリングを買いまして……あはは」

「あらー! いいねいいねー! ペアリングということは、絵菜ちゃんとの愛の証なんだねー、うわーうらやましいなー!」

「あ、そ、そうですね、改めて説明されると恥ずかしいというか……」


 僕が慌てていると、みんな笑った。う、うう、まぁそのうちバレるよなと思っていたのだが、まさかこんなに早くバレることになるとは思わなかった。でも、僕はこれがあることで絵菜と離れていても一緒のような気がして、嬉しかった。


「いいねいいねー! ねぇ拓海くん、私たちも今度団吉くんたちの真似して、買いに行かない?」

「ええ!? あ、そ、そうだね、俺もそれもありだなって思ったっつーか……あはは」


 今度は拓海が恥ずかしそうにしていた。


「うむ、団吉くんが絵菜さんをどれだけ好きか、よく分かった気がするよ! そりゃそうだよね、世界一、いや宇宙一可愛い絵菜さんだ、大切にしないとバチが当たるって――」

「はいはい、慶太の気持ち悪い一言はいいから。あ、指輪で思い出した、今日は小物を撮る練習をしようか!」

「ああ、いいですね! カメラも持って来ていますし、背景を変えながら小物を撮るというのもよさそうです」

「うんうん、あ、スマホだと接写が難しいかもしれないので、団吉くんと拓海くんは私たちのカメラを貸してあげるからさ、それで練習しようか」

「あ、す、すみません、ありがとうございます」


 なるほど、小さなものを撮る練習か、スマホだと接写が難しいのか、たしかに近距離すぎるとボケる気がするな。


「アタッチメントでスマホでもマクロ撮影ができるレンズをボクが持ってるよ、団吉くんと拓海くんにも貸してあげようか」

「ああ、なるほど、それもありかもしれないねー、よし、まずは団吉くんの指輪を撮るということで!」

「え!? あ、わ、分かりました……」


 なんだか恥ずかしいが、みんなで指輪や小さな置物を写真に収めていた。僕や拓海も慶太先輩に借りたレンズを使ったり、カメラの操作を先輩方に教えてもらっていた。なるほど、こうして近距離で撮影していくのか、まだまだ知らないことは多いなと思った。

 ま、まぁ、指輪のことはあっさりとバレてしまったのだが、嬉しいからいいかと思うようにした。

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