第109話「お墓参り」

 日向たちの冬休みの課題を見てあげた次の日、今日は日曜日だが、やることがあった。

 それは、毎年行っているお墓参りだ。父さんの命日は一月七日なのだが、今年は平日ということで、僕も日向も学校が始まっているし、母さんも仕事だ。なので今日行くことにしていた。

 今年は絵菜と真菜ちゃんと長谷川くんが一緒に行ってくれる。準備をしてのんびりしていると、インターホンが鳴った。出ると三人が来ていた。


「お、おはよ」

「お兄様、おはようございます」

「お兄さん、おはようございます」

「おはよう。みんな揃ったね、ちょっと待っててね、母さんと日向呼んでくるから」


 みんなで駅前へ向かう。今日も寒い日になった。雪は降っていないが風が冷たい。父さんが亡くなった時も寒かったのを思い出した。

 駅前から電車に乗り、しばらく揺られて墓地の最寄り駅に着いた。ここからバスに乗り換えて墓地の近くまで行く。このあたりの景色は変わらないなと思った。


「もうすぐ着くわね、このあたりはあまり変わらないわね」

「そうだね、なんかそれも安心するよ」


 母さんとそんなことを話しながら墓地までやって来た。みんなでお墓の前に並ぶ。そういえば今年は日向が僕の手を握って来なかったな……と思ってふと日向を見ると、しっかりと前を向いている日向がいた。日向はこの日になると急におとなしくなってしまうのが毎年のことだった。日向も父さんのことを思い出しているのかなと思って、色々言うのはやめておいた。


「日向、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。ちゃんと笑顔にならないとね、めそめそしてたらお父さんに笑われちゃう」


 日向がニコッと笑顔を見せた……が、いつもの元気な日向ではないなと思った。まぁ少しは寂しい気持ちになっても仕方がない。僕は「そっか」と言って前を向いた。


「今日もお花とコーヒー持って来たから、あとでお供えするとして、団吉、ちょっとお掃除しておきましょうか」


 母さんと僕がお墓を軽く掃除して、母さんがお墓にお花とコーヒーをお供えした。お線香をあげて、みんなで手を合わせる。


「……さてさて、お父さん、今年は賑やかでしょ、絵菜ちゃんと真菜ちゃんと健斗くんも来てくれたわ。みんなまた大きくなって、今年はなんと団吉と絵菜ちゃんが二十歳になるのよ。びっくりするわね。団吉、お父さんに報告してあげて」

「あ、うん……父さん、僕も今年二十歳になります。自分でもびっくりだけど、絵菜やみんながいてくれるから、とても楽しい毎日を送っています。父さんが僕と同じくらいの歳の時はどうだったのかなって思うこともあるけど、なんかカッコよかったって母さんは言っていました。大人になっても頑張るので、見守っていてください」


 僕はペコリと頭を下げた。


「ふふふ、団吉もしっかりしてるでしょ、私もそれが嬉しくてね。絵菜ちゃん、真菜ちゃん、健斗くん、一言ずつ話しかけてもらってもいいかしら」

「あ、は、はい……お父さんこんにちは、沢井絵菜です。私も今年二十歳になります。なんかあっという間で、びっくりしています……そ、その、団吉くんとこれからもずっと、一緒に頑張っていきたいです……」

「お父さんこんにちは、沢井真菜と申します。いつもお兄様や日向ちゃんやお母さんには優しくしてもらっていて、私も嬉しいです。今年は受験生になります。またお力を貸していただけると嬉しいです」

「お、お父さんこんにちは、長谷川健斗です。ぼ、僕も今年十八歳になるのがちょっと信じられなくて……でも、日向さんやみんなと一緒に頑張っていきますので、見守ってもらえると嬉しいです」


 三人がペコリと頭を下げた。最後は日向か……と思って見ると、しっかりと前を向いている。


「日向、父さんに話しかけられるか?」

「うん、大丈夫……お父さん、健斗くんも言ってたけど、私も十八歳になるんだよ。ちょっとびっくりだよね。いつもお父さんの前ではめそめそしていたけど、それじゃダメだなって思った。今年は私と真菜ちゃんと健斗くんは受験生になるよ。お兄ちゃんに勉強を教えてもらって頑張るから、お父さんも応援してね」


 ニコッと笑顔を見せた日向が、ペコリと頭を下げた。もしかしたら日向も成長しているのかもしれないなと思った。


「ふふふ、日向も成長してるわね、お母さんも嬉しいわ。そうそう、日向たちは今度三年生になるから、また受験生ね。お父さんも三人のこと見守っていてね。じゃあ最後に手を合わせましょうか」


 最後にもう一度みんなで手を合わせた。僕や日向やみんなが大きくなっていることも、父さんは嬉しく思ってくれているかな。特に日向は今までと違ってボロボロになることもなく、しっかり笑顔で話しかけることができていた。日向も寂しいと思うこともあるはずだが、寂しい気持ちは僕も一緒だった。大きくて優しかった父さんが今いてくれれば……と思うこともある。ただ、過ぎてしまったことをあれこれ言うのもよくないなと思って、心の中にしまっておいていた。


「……よし、じゃあ戻りましょうか。あ、駅前でコーヒーでも飲まないかしら? 今日はみんな来てくれたからね、お母さんのおごりよ」

「やったー! お兄ちゃん、ゴチになります!」

「ええ!? お、お前、母さんが言ったこと聞いてなかったのか!? ま、まぁいいか……絵菜も真菜ちゃんも長谷川くんも、時間ある?」

「あ、うん、大丈夫」

「お兄様、いつもありがとうございます。私もいただきます」

「お兄さんすみません、いつもありがとうございます。僕もいただきます」

「あ、あれ? みんな母さんが言ったこと聞いてなかった……? ま、まぁいいか、じゃあ駅前に戻ろうか」


 な、なぜ僕がおごることになっているのだろうか……僕が少し慌てていると、みんな笑った。うう、結局こうなってしまうのか……。

 今日は父さんのことを一番思い出す日だ。とても優しかった父さんは、きっと天国で僕たちのことを見守ってくれている。

 父さん、これからも頑張るから、力を貸してください。よろしくお願いします。

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