第107話「お正月」

 お正月。新年の始まりの日だ。

 今年も毎年のように昼におせちをいただいた。母さんと日向が頑張って作っていたのだ。なぜか僕はお手伝いをさせてもらえないのだが……。

 日向はまたかずのこをアホのように食べていた。アホと言ったら失礼か。そのため他の家庭よりもかずのこの量が多いかもしれない。比べたことはないのだけども。


「うおー、今年も食べたー! お腹いっぱいだよー」

「おいおい、毎年思うけど食べすぎなんじゃないか? これから初詣に行くんだぞ」

「大丈夫だよー、その分消化も早いからね! ねぇお兄ちゃん、言わなくても分かると思うけど……イカ焼き買って?」


 日向が甘えた声を出してくる。こ、こいつ、お腹いっぱいと言いつつ兄におごってもらう気か……!


「えぇ、よく食べるな日向は……まぁいいけど」

「やったー! お兄ちゃん大好き!」

「ふふふ、二人とも楽しそうねー、みんなで初詣に行くの?」

「あ、うん、もうすぐ来るんじゃないかな」


 三人で話していると、インターホンが鳴った。出ると絵菜と真菜ちゃんと長谷川くんと舞衣子ちゃんがいた。みんなで集まって来たのかな。


「あけましておめでとう。みんな集まって来たの?」

「あ、あけましておめでとう。うん、真菜が長谷川くんと舞衣子ちゃんに声かけてくれて」

「お兄様、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「お兄さん、あけましておめでとうございます! こ、今年もよろしくお願いします!」

「団吉さん、あけましておめでとう……またよろしく。あれ? 日向ちゃんは?」

「ああ、なんかお腹いっぱいでソファーに転がっていたけど、大丈夫かな――」

「――ああ! 遅れました! みなさまあけましておめでとうございますー!」


 慌てて玄関に来て挨拶する日向だった。


「ふふふ、みんなあけましておめでとう。神社は人が多いかもしれないわね、気をつけてね」

「あ、うん、じゃあ行こうか」


 母さんに見送られて、僕たちは駅前まで歩いて行き、そこから電車に乗る。けっこう人がいるみたいだ。みんな初詣やセールに行くのかなと思った。

 神社の最寄り駅に着いた。ここから歩いて十分くらいのところに神社はある。今年も出店が並んでいた。


「ああー、美味しそうなイカ焼きのにおいがしてきた……あそこにあるな……フラフラ」

「おいおい、先にお参りしてからだぞ……って、なんか毎年言ってるような」

「ふふっ、相変わらず日向ちゃんは食べることが好きみたいだな」

「う、うん、もうちょっと遠慮してくれないかなと思うんだけどね……」


 とりあえず先にみんなで手水で手と口を清めて、社殿へ行く。今年も人が多いが、しばらく並んでいると賽銭箱の前に来た。お賽銭を入れてお参りする。そういえば去年は僕や絵菜の合格祈願をしたなと思い出した。今年は……そうだな、絵菜やみんなが健康で、みんなと仲良くできますようにとお願いしておくか。


「お兄様、なんかニコニコしてますね、どんなお願い事したのですか?」

「え、そ、そうかな、今年はシンプルに絵菜やみんなが健康で、みんなと仲良くできますようにとお願いしておいたよ」

「まあまあ、ふふふ、優しいお兄様らしいですね」

「団吉さん、優しいよね……そういうところがいいと思う」

「そ、そっか、ありがとう。長谷川くんはお願い事できた?」

「あ、はい、日向やみんなと仲良くできますようにと、あとサッカーが上手くなりますようにと、お願いしました」

「そっか、うん、サッカーも頑張らないとね。あ、おみくじ引いてみようか」


 みんなでおみくじを引いてみることにした。僕は……あ、大吉だ。今年も縁起がいいな。色々と問題ないようだ。『人と力を合わせ、物事に取り組むと、良い運がつく』と書いてあった。なるほど、僕は一人で生きているわけではない。みんながいるからこそ頑張って生きることができるのだ。みんなの力を借りて、これからも頑張っていこうと思った。


「団吉、どうだった……? あ、大吉なのか、私は中吉だった」

「あ、そうなんだね、何か気をつけておくべきこととかあった?」

「うーん、恋愛運に『わがままは人を遠ざける』と書いてあった。私、けっこうわがまま言ってるからな……気をつけないと」

「い、いや、そんなことないよ、絵菜はいつも頑張っているし、僕がいるからね……はっ!?」


 ハッとして見ると、日向と真菜ちゃんと舞衣子ちゃんがニヤニヤしながら僕たちを見ていた。う、うう、そんな目で見ないで……。


「あー、今年は高校三年生になるのかぁー、受験生になっちゃうねー、なんで受験なんてあるんだろ……」

「日向ちゃん、また頑張ろうね! まずは冬休みの課題をなんとかしないといけないね!」

「そ、そうだ、冬休みの課題が山のようにあったんだった……僕も頑張らないとな」

「青桜高校は大変そうだね……うちも課題あるけど、また団吉さんに教えてもらおうかな……」


 そう言って日向と真菜ちゃんと長谷川くんと舞衣子ちゃんがじーっと僕を見て来る。な、なるほど、課題があるのだな、これは僕の出番のようだ。


「そ、そっか、みんな頑張ってね、分からないところあったら教えるよ」

「よーし! 課題を頑張るためにもここはイカ焼きで元気を出さないと! お兄ちゃん、よろしくお願いします!」

「えぇ、やっぱりそうなるのか……ま、まぁ仕方ない、みんなで食べようか」

「だ、団吉、私もお金出すから、二人でみんなの分を買ってあげないか……?」

「あ、そ、そっか、ありがとう、じゃあそうしようか」


 僕と絵菜がみんなの分のイカ焼きを買って、みんなで食べることにした。うん、美味しい。結局楽しんでいるのは僕も一緒なのかもしれない。


「なんか毎年恒例になったけど、イカ焼き美味しいな……私も優子みたいに成長期なのかもしれない」


 絵菜が僕の横でぽつりとつぶやいた。


「あはは、まぁ僕たちもまだまだ食べ盛りだからね、仕方ないよ。大人になるとこれも変わってくるのかな……」

「うん、そうかも。でもこれから先も、ずっとこうしてみんなで初詣に来たい」

「そうだね、これで新年が始まるって感じがするね。また頑張ることにしようかな」


 今年も一年が始まる。去年までと同じくいい年にしたい気持ちは変わらなかった。そのためには絵菜やみんなと力を合わせて頑張ることが大事なのだろうなと思った。

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