第106話「大晦日」
楽しかったクリスマスも終わり、大晦日になった。
今日は毎年のように家の掃除を三人で行うことにしていた。僕はリビングと玄関、日向はお風呂場とトイレ、母さんはキッチンとベランダを入念に掃除する。今年の汚れ、今年のうちにとCMでも言っていた気がするな。
みんなで掃除をしていると、みるくが「みゃー」と鳴きながら不思議そうな目で見ていた。みんな慌しく動いているのが不思議なのかもしれないなと思った。日向が「みるくのトイレも綺麗にしようかー!」と言って、お風呂場でみるくのトイレを洗ってくれていた。
それぞれの場所が終わった後、自分の部屋の片づけや掃除を行うことにした。本棚も本を取り出して綺麗に拭く。最近は電子書籍で買うことも増えたが、紙の本も好きな僕は、やはり手放せなかった。
掃除をしながら、今年のことを思い出していた。大学に入ってまた一人になるのかなと思っていたが、拓海や先輩方と出会って、楽しい毎日を過ごすことができている。そして絵菜とは学校が違うが、これまで通り仲良くすることができている。高校の時のみんなと話したり再会することもあって、一人でいた頃からは考えられないかもしれない。
来年もこれまで通り、みんなと仲良くできたらいいなと思っていた。
コンコン。
部屋の掃除がそろそろ終わるかなという時、扉をノックする音が聞こえた。「はい」と言うと、日向と母さんとみるくが入ってきた。
「お兄ちゃん、掃除終わった?」
「あ、うん、あと机を拭いたら終わりかな。日向も終わったのか?」
「うん、隅々までピッカピカにしたからね、もうお兄ちゃんも目を丸くすると思うよ!」
「お、おう、それはよかった。そんなに日向は散らかす方ではないような……」
「ふふふ、二人とも頑張ってくれたから、家がピカピカになったわー。あ、そうそう、ちょっと買い忘れたものがあるから、二人でお買い物に行ってくれないかしら?」
「あ、うん、いいよ。何を買って来ればいい?」
「この紙に書いてあるから、家のお財布と一緒に持って行って。あれ? 何年か前も同じようなことがあったわね。歳とると忘れっぽくていやねー」
「よーし、お兄ちゃん行こうかー! お買い物デートだよ!」
そんな普通の買い物でよくテンション高めでいけるなと思ったが、何も言わないことにした。
日向と二人でスーパーへ行く。僕は昨日バイトに入って、今年のバイトを終了した。みなさまに「良い年をお迎えください」と挨拶してきた。舞衣子ちゃんも昨日が最後だったので、恥ずかしそうに挨拶していたな。
「えっと、買うものは……牛乳と、卵と、丸天と、しょうゆと、長ねぎか……ほんとに母さん色々買い忘れてるな」
「まあまあ、お母さんも忘れることくらいあるよー」
「まぁそうだな、カゴ持つから、日向入れていってくれ」
二人であれこれ買い物をしていると、
「――あれ? 日車くん? お買い物?」
と、声をかけられた。見ると店長がいた。
「あ、こんにちは、はい、母が買い忘れたものがあったので、買い物に来ました」
「そっかそっか、日車くんもほんと偉いね! こちらは彼女さんかな?」
店長が日向を見ながら言った。
「はい! 彼女です!」
「なっ!? 嘘をつくなよ、こっちは妹です」
「あっはっは、そっかそっか、仲が良い兄妹なんだね、いいことだよ。日車くん、来年もよろしくね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
店長が笑いながらバックヤードの方へ行った。しかしなぜ日向は彼女ですとか言っちゃうのだろうか。もう兄妹じゃないのよ、カップルなのよ……と思ったが、ここでも何も言わないことにした。
買い物を終えて帰る。外は風がかなり冷たい。雪は降っていないが、けっこう冷え込んでいるのではないかと思うくらいだ。
玄関を開けると、母さんとみるくがやって来た。
「おかえり、寒かったでしょう。あたたかいコーヒー淹れるわね」
「ただいまー、かなり寒かったよー、お兄ちゃんの手、全然暖かくなくて!」
「お、お前はいつになったら手をつなぐのをやめるんだ……ま、まぁいいか。みるくもただいま」
僕の足にすりすりしていたみるくをなでて、リビングでのんびりすることにした。
「お兄ちゃん、明日はいつものように初詣に行くの?」
「ああ、そうだね、そうしようか。ちょっと絵菜にも訊いてみるよ」
僕はスマホを取り出して、絵菜にRINEを送ってみることにした。
『こんにちは、絵菜、明日またいつものように初詣に行こうかなと思ってるけど、どうかな?』
『あ、うん、行く。真菜も行くと思う』
『分かった、じゃあまた一緒に行こう。今日は何かしてた?』
『家の大掃除してた。団吉は?』
『僕も同じで、大掃除と買い物に行ってきたよ。なんか今年も終わるんだなって思ってたよ』
『そうだな、あっという間な気がする……団吉、今年も色々ありがと』
『いえいえ、こちらこそありがとう。絵菜と一緒にいれる時が嬉しかったよ』
『私も嬉しかった。来年はついに二十歳になるんだな、不思議な感じがする』
絵菜の文章を見て、何度も思っているように来年は二十歳になるんだよなと思った。昔からぼんやりと想像はしていたが、まさか自分がこんな歳になるとは。絵菜と同じで不思議な感じがした。
『ほんとだね、なんか不思議な感じがするよ。大人になるんだなぁ』
『ふふっ、あ、大人になった団吉がカッコよくて、誰かが好きになったら困るな……』
『い、いや、大丈夫だよ、絵菜が一番好きだから……』
慌てて好きだと送ってしまったが、絵菜は『ありがと』と言っていた。嬉しいのかな……と思っていると、日向に顔を覗き込まれた。
「お兄ちゃん、なんかニヤニヤしてるねぇ、絵菜さんとラブラブなRINEしてるんでしょ?」
「え!? い、いや、そうじゃなくて、来年は二十歳になるんだなーとちょっとびっくりしていたところで……あはは」
「ああ、ほんとだねー、お兄ちゃんが大人になってしまう……! 酔ってナンパしちゃダメだからね!」
「ま、またそれ言ってるのか……そんなことしないよ」
「ふふふ、団吉も絵菜ちゃんも大人になるわねー、これから先責任もどんどん負うことになると思うけど、まぁ少しずつね」
「そ、そっか、大人って大変そうだね……まぁ自分らしく頑張ればいいか」
たしかに母さんの言う通り、大人というのは大変なのだろう。でも、これまで通り自分に自信を持って、やれることをやっていけばいいのかなと僕は思っていた。
今年ももうすぐ終わる。来年も楽しい一年になるといいな。
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