第104話「ペアリング」

 みんなで盛り上がったクリスマスイブから一日、今日はクリスマスだ。

 僕は今日絵菜と出かける予定にしている。クリスマスデートというやつか。そういえば去年もそうだったなと思い出した。

 今日は日向も長谷川くんと一緒に出かけるとのことで、朝から元気よく出かけて行った。楽しんでほしいなと思った。

 午後に絵菜がうちまで来るとのことだったので、しばらく待っていると、インターホンが鳴った。出ると絵菜が来ていた。


「こ、こんにちは、遅くなったかな」

「こんにちは、ううん、大丈夫だよ。じゃあ行こうか、みるくはお留守番しててね」


 僕と絵菜がそれぞれみるくの頭をなでてから、二人で家を出て駅前へ向かう。絵菜がそっと僕の手を握ってきた。絵菜は僕がプレゼントしたマフラーを身につけてくれていた。


「やっぱり団吉の手、冷たいな」

「そうなんだよね、この時期はすぐ冷たくなっちゃうんだよね……絵菜の手あたたかいね」

「ふふっ、私があたためてあげる」


 ニコッと笑う絵菜が可愛かった。

 今日は二人で都会に行くことにしていた。駅前から電車に乗る。数駅過ぎると席が空いたので二人で座った。


「今日はどこか行きたいところがあったのか?」

「あ、うん、ちょっと絵菜にも見てほしいものがあってね、せっかくだから都会まで行ってみようと思って」

「そっか、なんだか楽しみ」


 絵菜がそっと僕の左肩に頭を乗せてきた。か、可愛い……って、ほ、他の人の視線もあるんだった……ちょっと恥ずかしいが、絵菜が嬉しそうなのでいいということにしよう。

 しばらく揺られて、都会にやって来た。僕たちは駅の近くの商業施設に入る。どのお店もクリスマスの飾りがあって、人も多くて賑やかだ。一階は化粧品、アクセサリー、雑貨売り場だった。僕は絵菜を連れてアクセサリー売り場にやって来た。


「……ん? 見るものって、アクセサリーなのか?」

「うん、もうここまで来たら話してもいいかな、実は、ペアリングを二人で選びたいと思ってね、絵菜にも見て選んでほしくて」


 そう、僕はずっとペアリングがほしいと思っていた。愛情の証……とでも言うのだろうか、同じものを絵菜と身につけておきたいという気持ちがあった。そうすれば離れていても絵菜のことをより想うことができそうな気がしたのだ。


「……え!? あ、そ、そうなのか、ぺ、ペアリングか……」

「うん、色々見てたんだけど、なかなか難しいね……どんなのがいいんだろう」


 僕たちは指輪が売られているショーケースを眺めていた。色々な種類があって迷ってしまう。二人でうーんと眺めていると、


「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」


 と、綺麗な女性の店員さんに声をかけられた。


「あ、は、はい、ペアリングがほしいなと思っていて……」

「そうでしたか、失礼ですがお二人は大学生くらいですか?」

「は、はい」

「それではこのあたりのペアリングなんていかがでしょう。お値段もお求めやすくなっておりますし、デザインも豊富ですよ」


 店員さんに言われて、僕たちはショーケースを見る。たしかに値段もめちゃくちゃ高いわけでもなく、これなら僕でも買えそうだ。


「なるほど……絵菜、好きなデザインのもの選んでいいよ」

「そ、そっか……うーん……」


 絵菜が真剣な表情で眺める。迷っているみたいだが、「……あ、こ、これ可愛い」と、一つの指輪を指差した。それはシルバーで中央に小さな青い宝石と模様があり、少しリングがねじれているというか、独特なデザインだった。この表現が合っているのか僕には分からないけど。


「こちらはブルーダイヤモンドが中央にセットされています。ちょっと合わせてみますか?」

「は、はい」

「ふふふ、お二人はご結婚される予定ですか?」

「え!? あ、いや、まだ学生なので、そのうちできたらいいなと……あはは」

「そうでしたか、では左手の薬指はご結婚される時にとっておいて、右手の薬指につけてみましょうか。右手の薬指は精神の安定や創造性を象徴すると言われています。もちろんお二人の関係が円滑になるような意味もありますので」


 店員さんがそう言うので、僕と絵菜は右手を差し出した。店員さんが丁寧に右手の薬指につけてくれた。お、おお、なんか一気に大人になったという気がした。


「あ、けっこういい感じだね、絵菜はどう思う?」

「う、うん、これいいかも……可愛い」

「よし、じゃあこれにしようか。すみません、これをいただきたいのですが……」

「はい、ありがとうございます。収納するボックスをお二人分ご用意しますね。あ、そのままつけていただいててよろしいですよ」


 店員さんが指輪を収納するためのボックスを用意してくれた。


「あ、絵菜、ここは僕がお金出すよ」

「え!? い、いや、私も出す……」

「ううん、これは僕から絵菜へのクリスマスプレゼントだから」

「そ、そっか……ありがと。じゃあお言葉に甘えようかな」


 お会計をして、店員さんに見送ってもらって、僕たちは店を出た。もちろん右手の薬指には二人とも指輪が光っている。絵菜が「ちょっと座っていい?」と言ったので、僕たちは近くにあったベンチに腰掛けることにした。


「よかった、いいものがあって。実はネットでも見てたんだけど、どれがいいのか分からなくてね」

「ふふっ、団吉、ほんとにありがと。嬉しい……なんかずっと一緒って感じがする」

「うん、絵菜からプレゼントでもらったお揃いのブレスレットはあったけど、こういうのもいいんじゃないかと思って」

「うん……ヤバい、ずっと右手を見ていられる……」


 嬉しそうに右手を見る絵菜も可愛かった。


「あ、店員さんも言ってたけど、左手は結婚した時のためにとっておかないとな」

「そ、そうだね、その時はまた結婚指輪を選ぶことになるのかな……って、け、けけけ結婚か……」

「ふふっ、慌てる団吉が可愛い。またその時は一緒に見に来よう」

「う、うん、まぁ僕たちもまだ学生だから、もう少し先になるんだろうね」


 絵菜と一緒にいれる時間は以前よりも少なくなってしまったが、こうして二人お揃いのものを身につけておけば、離れていても相手のことを想うことができて、いいのではないかと思う。

 嬉しそうに指輪を見つめる絵菜を見て、僕も嬉しい気持ちになっていた。

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