第103話「クリスマスイブ」

 大学が冬休みに入った。

 冬休みの期間は高校の時とそんなに変わらないが、年が明けて一月に後期の試験があった後、二月からは春休みに入る。やはり大学は休みが多いなと思った。

 今日はクリスマスイブ。以前火野と話していたように、みんなで『酒処 八神』に集まることにしていた。駅前で待ち合わせにしていたので、遅れないように僕と日向は家を出る。あ、少しだけ雪が降っているのかな、まぁ積もるほどではないだろう。

 駅前に着くと、いつものように火野が先に来ていた。


「おーっす、なんかちょっとだけ雪降ってるな」

「ああ、さすがに寒いな……僕は寒いのが苦手だから、ちょっとしんどいよ」

「火野さん、こんにちは! お久しぶりです!」

「おっす、日向ちゃんお久しぶりだね、今日も可愛いよ」


 火野がサラっと日向を褒める。「えへへー」と嬉しそうな日向だった。くそぅ、こういうところが火野がモテる要因だよな……。

 しばらく待っていると、絵菜、真菜ちゃん、高梨さん、長谷川くんがやって来た。


「やっほー、みんなお久しぶりだねぇ。あ、みんな今日も可愛いー!」

「まあまあ、火野さんも優子さんもお久しぶりです。お兄様、今日はお誘いしてくださってありがとうございます」

「いえいえ、うちの大学の近くだから、ちょっと移動することになるけどね。あ、今日は実はもう一人呼んでるんだ」


 みんなで話していると、少し遅れて舞衣子ちゃんがやって来た。


「ご、ごめん団吉さん、遅くなった……」

「ううん、大丈夫だよ。あ、火野と高梨さんははじめましてだね、こちら僕のバイト先で一緒になった鈴本さん」

「あ、は、はじめまして、鈴本舞衣子といいます……」

「おお、はじめまして、火野陽一郎といいます」

「はじめまして! 高梨優子といいます! 舞衣子ちゃんか、なんか可愛らしいねぇ。何年生?」

「あ、こ、高校二年生……」

「そっかそっか、日向ちゃんたちと同い年なんだねー。ということは私のもの……ふふふふふ」

「た、高梨さん落ち着いて……みんな揃ったし、行こうか」


 みんなで電車に乗り、しばらく揺られて僕の大学の最寄り駅に着いた。そこから少し歩いて行き、『酒処 八神』のお店が見えてきた。


「だ、団吉、ここ……?」

「あ、うん、ここだよ。ちょっと早すぎたかな、まぁいいか、入ってみようか」


 扉を開けて「こんにちはー」と言って中に入ると、大将が笑顔で迎えてくれた。


「おう、団吉くんじゃねぇか! いらっしゃい。待ってたよ」

「すみません、今日はお世話になります」

「いやいや、来てくれてありがとう。今日の予約は今のところ団吉くんご一行だけだからな、まぁクリスマスはうちは関係ないってやつか! あっはっは」


 大将が豪快に笑った。こ、ここは笑っていいところなのだろうかと思ったが、一応笑っておくことにした。


「あ、みんな、こちら八神宗吉さん。ここの大将だよ。大将、こちら僕の妹や友達です」


 みんなが大将と挨拶をしていた。大将は「おうおう、みんな若くて可愛いな! 今日はなんでも食べて行ってくれ!」と言っていた。

 僕たちは奥の座敷席を二つくっつけてもらって、そこに座ることにした。


「へぇー、居酒屋知ってるなんて、日車くんも大人になったねぇ」

「いやいや、僕もサークルの先輩に連れて来てもらったんだけどね。たまにはここもいいんじゃないかと思って」

「お兄ちゃん! チーズつくねと、山芋鉄板焼きと、お刺身食べたい!」

「お、おう、日向はやっぱり食に目がないな……あ、みんなも食べたいもの注文して」


 みんなでわいわい話しながら注文をする。大将が先にコーラを人数分出してくれた。


「じゃあ飲み物揃ったし、団吉、一言言ってくれ」

「え!? ま、まぁいいか……じゃあ、みんな今年もお疲れさまでした。こうしてみんなでクリスマスイブに集まるのが恒例になって嬉しいです。今日はたくさん飲んで食べましょう。乾杯!」


 僕がそう言うと、みんな「かんぱーい!」と言ってグラスを当てた。


「みんな楽しそうだな、最初の一杯は俺のおごりだ! じゃんじゃん食べてくれ!」

「え!? す、すみません大将、ありがとうございます。あ、料理来たからみんな食べよう」


 みんなで料理をいただく。うん、やはり鶏の唐揚げが美味しい。ここで一番好きになったかもしれない。


「美味しーい! いいねいいねー、こっちの山芋鉄板焼きも食べよーっと」

「ゆ、優子は相変わらず食欲旺盛だな……それでなんで太らないんだ」

「ふっふっふー、私もバスケサークルで動いてるからねー、運動したらお腹空くんだよー」

「そ、そっか、まぁ運動はいいものだよな……」


 楽しそうに絵菜と高梨さんが話している。


「そういや、長谷川くんは部活で新人戦の頃じゃねぇか? どうだった?」

「あ、なんとか県大会までは行けましたが、すぐに負けてしまいました……まだまだだなと思って」

「そっか、まぁ県大会まで行けたのは大きいよ。長谷川くんはポジションどこ?」

「あ、DF(ディフェンダー)やってます。右サイドバックあたりが多いです」

「なるほど、サイドバックってことは運動量とポジショニングが大事だな、もっと頑張らねぇとな」

「はい! 火野さんや中川さんを目標に、頑張ります……!」


 こちらも楽しそうに火野と長谷川くんが話していた。


「お兄ちゃん、美味しいねー! こんないいお店知ってたんだねー」

「ほんとに、お兄様美味しいです。お刺身も厚くてプリっとしています」

「うん、美味しい……団吉さん大人だね、カッコいい」

「あはは、よかったよ。まぁクリスマスっぽくはないかもしれないけど、こうしてみんなで集まれるからいいよね」

「ふふっ、団吉もどんどん大人になってるな、来年はお酒が呑めるといいな」

「うん、僕も先輩方を見てたらうらやましくてね、僕はお酒に強いのか、そうでもないのか、今から楽しみだよ」


 何度も言っているが、来年は僕も二十歳だ。お酒を呑める年齢になる。ここに来るのももっと楽しくなりそうだなと思った。


「あ、絵菜、明日用事ある?」

「ん? あ、その、団吉と一緒にいたいなと思って空けてた……」

「そっか、じゃあちょっと行きたいところがあるから、一緒に行こうか……はっ!?」


 ハッとして見ると、みんながニヤニヤしながら僕たちを見ていた。


「み、みんな、そんなにニヤニヤしなくても……あはは」

「いやいや、団吉と沢井は変わらず仲良くやってるなと思って、嬉しくなってな」

「そーそー、やっぱり日車くんと絵菜は仲良くないとねー、ねー絵菜」

「なっ!? あ、まぁ、そうかもしれない……」


 恥ずかしくなったのか俯く絵菜だった。


「なんだ、そっちの子は団吉くんの彼女なのか! こんな可愛い子が彼女だなんて、団吉くんもモテるなぁ、あっはっは」

「え!? あ、大将、モテるわけではないと思いますが……あはは」


 僕も恥ずかしくなっていると、みんな笑った。うう、やっぱり笑われてしまうのか……。

 その日は居酒屋で盛り上がった僕たちだった。こういうクリスマスイブもいいものだ。僕は嬉しい気持ちになっていた。

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