第101話「佑香のデート」

 季節は冬になり、一段と寒さが増して来た今日この頃。

 私、鍵山佑香は、ドキドキしながら専門学校の最寄り駅に着いた。ちょっと早すぎたかな……あの人はまだ来ていないようだ。駅にあったベンチに腰掛けることにした。

 RINEを見るとあの人からメッセージが来ていて、もうすぐ着くとのことだ。へ、変な顔していないかな、手鏡を取り出して自分の顔を見る。たぶん大丈夫……なはず。

 なぜこんなにそわそわドキドキしているかというと、それは――


「――あ、鍵山さん! ごめん遅くなっちゃって」


 私に話しかける人がいた。小寺だった。そう、今日は小寺と一緒に出かける約束をしていたのだ。

 春奈と絵菜が、私と小寺に話す機会を作ってくれた時に、小寺とRINEを交換した。直接話すのは恥ずかしい気持ちもあるが、スマホという便利なものがあるのだ。私と小寺はRINEで色々な話をしていた。好きなテレビ番組だったり、お互いの趣味だったり、特別な話というよりは普通の話だが、私はそれが嬉しかった。

 そのRINEで、私は今日のことを小寺に伝えた。今までで一番ドキドキした。断られるかな……と思ったが、小寺は『うん、いいよ、行こうか』と言ってくれた。それで待ち合わせをしたのだ。


「……あ、いや、そんなに待ってないから、大丈夫」

「ああ、そうなんだね、でもまさか鍵山さんに一緒に出かけないかって言われるとは思わなかったよ! ありがとう」

「……あ、い、いや、こっちこそありがとう……」

「いえいえ、あ、電車もうすぐ来るみたいだね、行こうか」


 二人で電車に乗り、しばらく揺られてショッピングモールの最寄り駅に着いた。いつもここに来ている気がするが、近いし色々あるし、気にするのもよくないなと思った。

 ショッピングモールを見て回ることにした。キッチン雑貨が売られているところで、


「鍵山さんは、料理できる人?」


 と、小寺が訊いてきた。


「……う、うーん、たぶん人並みだと思う……」

「そっか、さすが女性だね、実は俺も最近料理するようになってさ、これとか便利そうだよね」


 小寺が笑いながら言うので、私もつられて笑った……が、小寺は笑顔もカッコいい……心の中ではかなりドキドキしていた。


「……ん? 鍵山さん、どうかした?」

「……あ、い、いや、なんでもない……」

「そっか、あ、何か食べに行こうか。食べたいものある?」

「……うーん、あ、そういえばもんじゃ焼きのお店ができてたような……私食べたことないから、食べてみたいかも」

「ああ、いいね、じゃあそこに行こうか」


 二人でもんじゃ焼きのお店に行く。そこそこ人はいたが座ることができた。


「鍵山さんは食べたことがないって言ってたね、よし、ここは俺に任せておいて」


 そう言って小寺が注文をしていた。しばらくして注文したものが運ばれてきた……あ、なるほど、これは自分たちで作るのか。


「先に具材だけを炒めてね、土手を作ってその中に汁を流し込むんだ。こんな感じで」


 小寺が手際よく具材を炒め、円形に具材を広げて、その中に汁を流し込んだ。なるほど、こういう感じなのか。

 しばらく待って生地全体がぐつぐつと煮立ったようで、小寺が混ぜ合わせる。テレビか何かで見たことのあるような形になってきた。


「よし、こんなもんかな。あとはこのヘラですくって食べるといいよ。熱いから気をつけてね」

「……あ、ありがとう……いただきます。あ、美味しい」

「そっか、よかったよかった、鍵山さんももんじゃ焼き初体験だね」


 そう言って小寺がまた笑顔を見せた。う、うう、やっぱりカッコいい……なかなか目を見れない私だったが、今日はどうしても言いたいことがあった。私は小寺の目を見て、


「……あ、こ、小寺、あの……ごめん、長いことあの噂のこと、本気で信じてしまってて……」


 と、ぽつぽつと話した。そう、小寺のあの噂のことをどうしても謝りたかった。それで小寺のことを邪険に扱ってしまった。今思うとひどいことをしていたと思う。


「ん? ああ、そんな気にしなくていいのに。噂ってどうしてあんなに広まるのが早いんだろうね。でも、こうして鍵山さんが謝ってくれたのが嬉しいよ、ありがとう」


 逆に小寺に感謝されてしまった。なんと言えばいいか分からず、「……あ、いや、その……」と、言葉に詰まる私だった。


「あはは、まぁあれはあれでよかったのかな、結果として今日こうして鍵山さんともんじゃ焼き食べることができたし」

「……そ、そっか……」

「うん、こんなに可愛らしい鍵山さんも見れたしね、今日はいい日だ!」

「……え!? い、いや、可愛くはないというか、なんというか……」

「あはは、そんな謙遜しなくていいよ。あ、そんなに下向かないで~、冷めないうちに食べてしまおうか」


 小寺がニコニコ笑顔で私のことを見て来る……うう、顔が熱い。今は冬なのにこんなに熱くなるなんて。今頃顔が真っ赤なんだろうな……。

 それからもんじゃ焼きを二人で食べた。けっこう美味しかったな、今度春奈や絵菜と一緒に来てもいいかもしれないなと思った。


「美味しかったね。あ、そういえば、鍵山さんはどうして俺と出かけたいと思ったの?」

「……え!? あ、いや、その……あのことを謝りたかったのと、い、一緒だったら楽しいかなって思って……」

「そっか、めっちゃ嬉しいよ。俺、何かの間違いかなって一瞬思っちゃったけど、そんなこと思うなんて失礼だよね、ごめんね」

「……い、いや、大丈夫……小寺も、こんな私と一緒でよかったの……?」

「うん、鍵山さんとRINEで話してたら、色々なこと知れて楽しくなってね。俺も一緒だったら楽しいんじゃないかなって思ったよ」

「……そ、そっか……よかった……」


 う、うう、また顔が熱くなってきた……鏡を見たい気分の私だった。

 元々話すのが苦手な私なので、なかなか言葉が出て来ないが、小寺が色々と話しかけてくれる。春奈だったらもっと楽しく会話できるのかな……いや、私も話すのが苦手だと思うのはよくない。でも、小寺に助けられていた私だった。


(……そっか、小寺も私と一緒だったら楽しいんじゃないかと思ってくれたのか……う、嬉しいな……)


 心の中でそう思って、私はふふっと笑顔になる。

 片思いかもしれないけど、いつか私のこの気持ちを小寺に伝えたいな……。

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