第100話「親友と」
十二月になり、冬らしく寒い日が多く出てきた。寒いのが苦手な僕は、ちょっと憂鬱だった……って、いつも思っているな。
今日は講義が終わった後、ある人と待ち合わせをしていた。うちの大学の近くまで来てくれるということだったので、僕は校門のところで待つことにした。ある人とは――
「おーっす、久しぶりだなー」
「ああ、お久しぶり。夏に会って以来か。なんか時が経つのがあっという間だね」
そう、火野と待ち合わせをしていた。先日火野からRINEが来て、『久しぶりに会えねぇかな?』と言っていたので、今日会うことにしていたのだ。
「おー、ここが団吉の大学かー、やっぱでかそうだなぁ」
「うん、高校もそれなりに大きかったけど、それ以上だね。火野のところも大きい?」
「ああ、うち体育大学だからさ、グラウンドや体育館などの施設がめっちゃでかいよ。最初見た時はビビったな」
「そうなんだね、あ、ちょっと早いけど行こうか、連れて行きたいところがあってね」
二人で大学近くのあるお店に行くことにした。ちょっと早いがサークルメンバーと行っている時もこんな時間だから、まぁ大丈夫だろう。だいたい予想がついたと思うが、あるお店とは――
「お、おお、居酒屋か? こんなところに来てるのか」
「うん、サークルメンバーとよく来ていてね、入ろうか」
あるお店とはもちろん『酒処 八神』だった。大将はいるかなと中に入ると、
「――お、団吉くんじゃねぇか! いらっしゃい」
と、大将の元気な声が聞こえてきた。
「こんにちは、すみません今日は二人なんですけど、いいですか?」
「おう、もちろんいいよ。そっちは友達か?」
「あ、はい、高校の時の同級生で、友達です」
「あ、はじめまして、火野陽一郎といいます!」
「はじめまして、八神宗吉といいます。火野くんか、なんかカッコいいなぁ! 俺もこんなイケメンに生まれたかったよーあっはっは」
大将が笑っていた。火野は恥ずかしそうにしていた。
「あ、団吉くんの同級生ということは、まだ未成年か。じゃあジュースだな!」
「はい、たまにはカウンターに座ってもいいですか?」
「おう、もちろんいいよ。まだ他の客は来てねぇから、貸し切りみたいになってるな! なんでも食べたいもん言ってくれ!」
いつもサークルメンバーと来た時は奥の座席に座るのだが、今日は二人なのでカウンターに座ることにした。火野とメニューを見る。鶏の唐揚げ、チーズつくね、山芋鉄板焼き、炙りチャーシュー、サラダを注文することにした。
「なんか、団吉も大人になったな、こんなところ知ってるとかさ」
「あはは、いやいや、最初は僕もサークルの先輩方に連れて来てもらったんだけどね。雰囲気もいいし大将もいい人だから気に入ってるよ」
「おっ、団吉くん嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか! 二人ともコーラ一杯おごりだ! 飲んでくれ!」
「え、あ、す、すみません、ありがとうございます」
そう言って大将がコーラを出してくれた。
「じゃあ、乾杯しようか、お疲れさま」
「おう、お疲れー」
僕たちはグラスを軽く当てた。
「そういえば、久しぶりに会いたいって言ってたけど、何か用事があった?」
「ああ、まぁ用事もあったんだが、たまには二人で会うってのもいいんじゃねぇかと思ってな」
「そっか、そうだね、いつもみんないるから、たまには二人もいいかもね」
僕が少し笑うと、火野も笑っていた。火野は中学の時からの友達で、僕のこの変わった名前も、一人でいた僕のことも決して笑うことなく、いつもそばにいてくれた親友だ。最初は住む世界が違うんだろうなとか思っていた自分が恥ずかしかった。
しばらく二人で懐かしい話をしていると、大将が料理を出してくれた。おお、どれも美味しそうだ。
「食べよっか、いただきます……あ、美味しい」
「いただきます……おお、鶏の唐揚げめっちゃ美味しいな!」
「おっ、二人とも嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか! 今日は気分がいいな! あっはっは」
大将が笑っていたので、僕たちも笑った。
「うん、僕も鶏の唐揚げこの前食べて美味しいなと思っていたよ。そういえば用事もあったって言ってたけど?」
「ああ、十二月ってことは、もうすぐクリスマスじゃんか。みんなバラバラになっちまったけど、またいつものように集まれねぇかなと思ってな」
火野が笑いながら言った。そうか、もうそんな季節か。毎年クリスマスイブにみんなで集まって色々なことをしたものだ。なんだか懐かしい気持ちになった。
「ああ、うん、いいね。また集まろうか。ちょっとカレンダー見てみる……あ、今年はクリスマスイブが火曜日なのか」
「ああ、そうだな。団吉は冬休みに入ってるのか?」
「うん、二十一日から冬休みかな。高校と同じくらいの長さだよ。火野は?」
「俺も二十一日から冬休みだ。みんなそんなもんかもしれねぇな、じゃあ大丈夫か。でもどこで集まろうかと思ってな……」
「そっか、うーん、どうしようかな……」
「なんだ、学生は冬休みがあるんだな、いいなぁ、俺も冬休みがほしいよ。そうだ、もしどこ行くか迷ってるんだったら、うちに来てもいいぞ。ちゃんと席はとっておくからな!」
大将が笑顔で言った。なるほど、ここに来るのか。それもいいかもしれないなと思った。
「あ、ほんとですか、じゃあそうしようかな……火野もそれでいい?」
「おう、俺も大丈夫だぜ」
「よし、じゃあクリスマスイブは団吉くんご一行様の予約入りということにしておくか! まぁクリスマスなんて俺やこの店には似合わねぇけどな! あっはっは」
大将がまた笑いながら言った。こ、ここは笑っていいところなのだろうか、分からなかったがとりあえず僕も火野も笑っていた。
「よかったね、なんとか決まって。ああ料理が冷めてしまうから、食べようか」
「おう、なんかやっぱ団吉が大人になった気がして嬉しいよ。以前はいつも一人で、暗かったもんなぁ」
「ま、まぁ、そんなこともあったね……僕も成長しているのかな」
「あはは、そうかもしれねぇな。あ、来年はジュースじゃなくて、一緒にお酒が呑めるといいな」
「そうだね、僕もその時を楽しみにしてるよ」
昔を思い出して、ちょっと恥ずかしくなってしまった僕だった。
それにしても、今年もみんなでクリスマスイブに集まるのか、なんだか楽しくなりそうだなと、僕は思っていた。
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