第98話「合否」

 みんなで郊外のショッピングモールに行った次の日、僕は少し緊張していた。

 というのも、今日は絵菜のネイリスト技能検定の合格発表がある日なのだ。そして、僕が受けた数学検定も合格者が数日前にWebに公開されたようだ。僕は絵菜と一緒に見てみようと思って、今日まで見るのを我慢していた。

 絵菜がうちに来て、今リビングで一緒にパソコンを眺めている。もちろん結果を見るためだ。


「な、なんか緊張してきた……」

「そうだね、僕もちょっと緊張してるよ。高校三年生の時思い出すね」

「だ、だだだ大丈夫だよ、おおおお兄ちゃんも絵菜さんも、合格してる!」


 そわそわと落ち着かない日向だった。


「ひ、日向落ち着いて……うん、合格してるって思わないといけないね。じゃあ、絵菜のから見てみようか」

「う、うん……」


 日本ネイリスト検定試験センターのサイトを開いた僕は、受験級、受験番号、生年月日を絵菜から聞き、入力した。


「よし、合否判定結果を見るよ……」

「う、うん……」


 僕はボタンをクリックした。頼む、合格していてくれと思いながら――


「――あ、ご、合格だ! 絵菜、合格だよ!」


 僕の声が少し大きくなってしまった。そこにはしっかりと『合格』の文字がある。よかった、絵菜は合格していたようだ。


「よ、よかった……」

「よかったね、絵菜、おめでとう」

「絵菜さん! おめでとうございます! よかったー!」

「あ、ありがと」

「あらあら、絵菜ちゃん合格してたの? おめでとう、よかったわね」

「あ、ありがとうございます。ホッとしました……」


 母さんがニコニコ笑顔でジュースを持って来てくれた。日向が絵菜の手をとってぴょんぴょんと跳ねている。うん、嬉しくなるのはみんな一緒のようだ。


「……あ、私はいいとして、団吉も見なきゃ……」

「あ、うん、僕も合格しているといいな……」


 僕は続いて日本数学検定協会のサイトを開いた。申込時の電話番号、受験番号、パスワードを入力する。あとは合否確認のボタンを押すだけだ。ゴクリと唾を飲み込み、僕はボタンをクリックした。さぁ僕はどうなのか――


「――あ、ご、合格だ! 僕も合格してた!」


 合否結果のページにはたしかに『合格』の文字がある。よかった、僕も合格していた。


「だ、団吉、よかったな……!」

「わぁ! お兄ちゃんも合格かぁー! おめでとうー!」

「あらあら、団吉も合格なのね、おめでとう、よかったわね」

「ありがとう、さすがに合格率が低いからダメかと思った……」


 日向が今度は僕の手を握ってぴょんぴょんと跳ねている。ちょ、ちょっと落ち着いて……と思ったが、言わないでおくことにした。


「ふふふ、団吉も絵菜ちゃんも頑張ってたからね、神様はちゃんと見てくれていたのよ」

「そうかもしれないね。あ、拓海がどうだったか気になるな……」

「あ、私も春奈と佑香の結果が気になってしまった。RINEで訊いてみようかな」


 僕と絵菜はそれぞれスマホを取り出して、RINEを送ることにした。僕はもちろん拓海に送る。


『こんにちは、数学検定の結果見た?』

『ああ、見たよ。なんと俺は合格してた! 団吉はどうだった?』

『そっか、おめでとう。僕もさっき見て合格してたよ』

『おお、そうなんだな! おめでとう! いやーちょっとドキドキだったなー』

『ほんとだね、ダメだったんじゃないかなって思ってしまったよ。あ、絵菜もネイリスト技能検定に合格してたよ』

『おお、沢井さんもおめでとうと伝えておいてくれ』


 そうか、拓海も合格してたか、よかったなと思った。頑張ってきたことがこうして報われて、嬉しい気持ちになった。


「拓海も合格してたって。絵菜の結果を教えたらおめでとうって言ってたよ。池内さんと鍵山さんはどうだった?」

「そっか、印藤もよかったな。ありがとって言っておいて。春奈と佑香も合格してたって言ってた。なんか嬉しそうだった」

「おお、そうなんだね、なんとかみんなで合格できたね、よかったよ」

「ふっふっふー、頑張ったお兄ちゃんと絵菜さんにいいものをあげようではないか! じゃーん、駅前のクッキーだよー。二人が合格してたら一緒に食べようと思ってねー。合格してなかったら一人で食べるところだったんだけど!」

「そ、そうなのか、なんか結局日向が食べたいだけなのでは……まぁいいか。日向ありがとう」


 みんなで一緒にクッキーをいただくことにした。うん、駅前のクッキーは美味しいな。


「そういえば真菜ちゃんは今日は部活?」

「うん、『結果が分かったら教えて!』って言ってたから、さっきRINE送っておいた。今は見れないかもしれないけど」

「そっかそっか、真菜ちゃんもモデルさんで頑張ったもんね、結果が気になるんだろうね」

「うん、また真菜に何か買ってあげようかな」


 妹に甘いのは絵菜も一緒のようだ。


「絵菜ちゃんは今回受けたのは三級って言ってたわよね、ということは二級や一級もあるのよね?」

「あ、はい、来年は二級を受けようと思っていて」

「そうなのね、絵菜ちゃんなら大丈夫よ、自信持ってね」

「あ、ありがとうございます。お母さんも日向ちゃんも、練習させてもらって……」

「ふっふっふー、絵菜さん、私でよかったらいつでも練習してください!」

「うん、ありがと。前も言ったけど日向ちゃんの爪も綺麗だから、やりがいがある」


 日向が自分の爪を見て「えへへー」と嬉しそうだった。


「団吉は準一級だったわね、ということは一級もあるのよね?」

「あ、うん、一級は大学の内容が入って来るから、もし受けるとなってもまだまだ先かなぁ」

「お兄ちゃんなら大丈夫だよー、数学の神様だからね、分からない問題はないもんね!」

「ま、まぁ、僕も分からないこともあるけどね……あ、分からないといえば、日向は勉強ちゃんとやってる――」

「お、お兄ちゃん! 私のことはいいから! あああもうすぐテストというのを思い出してしまった……」

「ちゃんと勉強してるんだろうな? 赤点があったら大変だからな、分からないことあったらいつでも訊いて」

「う、ううー、お兄ちゃんが厳しい……アホー」


 ぶーぶー文句を言う日向を見て、みんな笑った。

 絵菜も僕も今回は合格したが、これで終わりではない。この先試験や検定など、乗り越えなければいけない壁はたくさんあるのだ。これからも油断することなく、しっかりと取り組んでいきたい。

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