第97話「車の運転」

 十一月二十三日、今日は勤労感謝の日だ。

 一年で最後の祝日なのだが、今日は土曜日。なんかもったいない気がするが、仕方ないと思うことにしよう。

 そんな日に、僕は免許を取ってから初めて運転することになる。というのも、先日母さんが、「団吉も絵菜ちゃんも免許を取ったことだし、練習しないとねー。たまにはレンタカーを借りて郊外まで出かけてみましょうか」と言っていたのだ。

 ということで、駅前の近くにあるレンタカーショップに、僕と母さんと日向、そして絵菜と真菜ちゃんでやって来た。レンタカーは一応年齢関係なく借りられるみたいだが、僕と絵菜はまだ初心者ということで、母さんがメインで借りてもらうことにした。まぁ仕方ないだろう。


「――それではこちらの車になります。初心者マークも渡しておきますね」


 店員さんに説明をしてもらった。母さんが運転するのはいいとして、僕と絵菜が運転する時は初心者マークをつけてくださいとのこと。まぁ当然だろう。


「途中のコンビニまでお母さんが運転するわね。そこで団吉に交代しましょう」

「あ、うん、分かった。でも母さんも最近運転してなかったのでは……?」

「ふふふ、一応人生の先輩だからね、ATなら社用車も少し運転したし大丈夫よ。安全運転で行くわね」


 普通車なので五人乗れる。助手席に僕が、後部座席に日向と絵菜と真菜ちゃんが乗り込んで、出発した。道はそこそこ車があったが、混んでいるという感じではなかった。いつも歩いている道を車で通っているのだ。僕は不思議な感覚になった。


「なんか知ってる道を車で通るって、不思議な感じがするねー!」

「ほんとだね! なんか目線も違うし、知らない道みたい!」


 後ろで日向と真菜ちゃんが盛り上がっている。


「コンビニが見えて来たわね、あそこで交代しましょう」

「う、うん、なんか緊張するな……」


 母さんがコンビニの駐車場に車を停めて、コーヒーやジュースを買ってきた。ここからは僕の運転だ。な、なんか緊張する……。

 初心者マークをつけて、運転席に乗り込んだ。シートとミラーを調整して、一応カーナビに目的地までの案内をしてもらうことにして、よし……と思って出発する。コンビニの駐車場から道路に出る時がなんだか怖いな、車が来てないことを確認して、道路に出た。


「お、おおー、お兄ちゃんが運転してる……!」

「お兄様、大丈夫ですか? なんか背筋がピーンとなっていますが……」

「だ、団吉、リラックスしてな……」

「だ、大丈夫だよ、今のところ……この先知らない道だからちょっと怖いけど」

「ふふふ、大丈夫よ、流れに合わせていれば問題ないわ。あ、スピードは出し過ぎないようにね」


 緊張していたが、わりとスムーズに運転することができている。カーナビの案内もあって、道に迷うことはなかった。なるべく大きな道を通るようにして、僕たちは郊外のショッピングモールまでやって来た。あ、車を停めないといけない。空いている場所を探すのも緊張するな……バックはまだかなり慎重だった。


「なんとか団吉も運転出来たわね、その調子よ。少しずつ慣れていくわ」

「そ、そっか、まぁ初めてにしてはよくできた……のかな」


 みんなでショッピングモールを見て回り、お昼をフードエリアで食べることにした。僕はお好み焼きにした。


「お兄ちゃんの運転でここまで来たって、なんか信じられないねー!」

「でも、お兄様の運転、丁寧でした。これからもっと慣れていくのでしょうね」

「団吉、よく出来てたな。か、帰りは私が運転しないといけないけど……」

「あはは、ありがとう。こうやってちょっとずつ慣れていくんだろうね」

「そうよ、車を買ったらその機会はもっと増えるわ。でも慣れてきた頃が怖いから、安全運転は忘れないようにね」


 たしかに、母さんの言う通り、慣れてきて油断みたいなものが生まれるとよくないのだろう。気をつけないといけないなと思った。

 お昼を食べた後、またショッピングモールを見て回る。ここもけっこう大きく、色々なお店が入っていた。


「あ、お兄様、あそこトラゾーのグッズが売っています!」

「おお、ほんとだ、ここにもあるのか、ちょっと見ていい?」

「お兄ちゃん、ほんとにトラゾーが好きだねぇ……」

「い、いいじゃないか、可愛いんだから。あ、このコースター買おうかな」


 そんな感じでお買い物を楽しんだ後、僕たちは駅前まで帰ることにする。帰りは絵菜の運転だ。運転席に絵菜が乗り込んで、シートやミラーの調整をしていた。助手席には母さんが座る。


「絵菜ちゃん、リラックスしてね。周りをよく見ておけば大丈夫だからね」

「は、はい……できるかな、ちょっと緊張します」


 絵菜が緊張した顔でギアをドライブに入れて、そっと動き出す。帰りもカーナビに案内をしてもらうようにした。


「おお、絵菜さんの運転で車が動いてる……!」

「お、お姉ちゃんがこんなに立派になって……! 私嬉しいです。もう思い残したことはないです」

「ま、真菜ちゃん落ち着いて……絵菜もスムーズに運転できてるね」

「う、うん……実はドキドキしてるけど……」


 来た時よりも少し車が多かったが、流れていないことはないので、このまま大きな道を通って帰りましょうと母さんが言った。あまり狭い道だと運転が難しいだろうとのこと。まぁ初めて乗る車だし、その方がいいのだろうなと思った。


「絵菜ちゃん、あそこのコンビニに寄りましょうか。そこで交代しましょう」

「あ、は、はい」


 絵菜がコンビニの駐車場に車を停めた。僕と一緒でバックはまだ難しいようで、ゆっくりだった。まぁ慎重になることは悪いことではないよなと思った。

 コンビニで母さんに運転を代わり、駅前のレンタカーショップに戻って来た。今日はこれで終了だ。車と初心者マークを店員さんに引き渡すことになった。


「団吉も絵菜ちゃんも、安全運転でよかったわね。ちゃんと習ったことは覚えているみたいね」

「う、うん、でも実際に知らない道を運転するのはかなり緊張するね……絵菜はどうだった?」

「わ、私も同じ……かなり緊張した。カーナビがあったから道には迷わなかったけど……」

「お兄ちゃんと絵菜さんの運転する車に乗っちゃったー! お兄ちゃんの緊張している顔、写真撮ったもんねー」

「まあまあ、ふふふ、お兄様、これもいい思い出ですね」

「え!? い、いつの間に……そ、そういうのは撮らなくていいんじゃないかな……」


 僕が慌てていると、みんな笑った。うう、結局笑われてしまうのか……。

 それでも、いい経験ができて、僕と絵菜はまた一つ大人になった気がした。

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